小説・さやか見参!(278)
まるで良く出来たからくり人形のように体躯のみを動かして二人に向かって走ってくる。
『ばれてたなんて、しくじったっシュ!』
『いいえ、私達は完璧だった。あいつが、あの老人がうわてだったって事よ』
『やっぱり庚申教と一角衆は繋がってたんシュね!』
さやかと心太郎は木から木に飛び移りながら逃げた。
信者達を振り切る事は忍びである二人には容易い。
戦って傷つけるわけにもゆかぬゆえ、ひとまず退散し、改めて策を練るのが賢明であると思われた。
だが、
『ふふふ、久しぶりだな山吹さやか』
今まさに飛び移ろうとした樹の大枝の上に先ほどの老人が姿を現した。
『いつの間に!?』
さやかと心太郎は驚愕をあらわにしながらも空中で体勢を変え、まるで落下するが如く地面に急降下した。
直角に進路を変え、今度は走った。
しかし
『必ず来てくれると思っていたぞ』
老人は細い枯れ枝の陰からゆっくりと歩み出て二人の前に立った。
『くっ!』
さやかが跳躍する。
それは一気に樹上に到達するほどの跳躍力だった。
それなのに、
さやかの前には老人が立っていた。
いや、さやかと同じ速度で同じ高さを跳んだのだ。
さやかと老人は空中で対峙した。
『さっきから何よ!私の事知ってるの!?』
さやかの声は怒気を含んでいた。
しかし老人はそれを意にも介さず柔らかく答える。
『覚えてはおらぬか。まぁ無理もない。あの時おまえはまだ幼な子であったからな』
『えっ!?』
怪訝な顔をしたさやかを急に白刃が襲った。
老人が抜刀したのだ。
さやかがぎりぎりでかわすのと二人が着地したのはほぼ同時だった。
さやかが転がって距離を取ろうとする。
だが老人も同じように転がってそれを阻む。
そこに心太郎が飛びかかった。
『おまえ、一角衆っシュか!!』
心太郎の短刀が老人に振り下ろされる。
だが老人はそれを自らの刀で受け流した。
受け流された心太郎は自身の勢いでつんのめって転倒する。
『心太郎あぶない!』
さやかが叫んだ時、老人の刀は心太郎の心臓を狙って振り上げられていた。
さやかは跳躍し、刀を持つ老人の腕を蹴り上げる。
その隙をついて心太郎が離れる。
老人は蹴られた勢いを利用して回転し、着地しようとしたさやかの足を蹴りで払った。
体勢を崩したさやかの身体が地面に叩きつけられる。
(まずい!)
背中から地面に落ちたさやかは一瞬呼吸がつまり隙を作ってしまったのだ。
この状態で攻撃されたら対処出来ないかもしれない。
さやかは必死に身構えて懐剣を取り出した。