2013-02-27(Wed)
小説・さやか見参!(181)
邪衆院天空は、自らが放った数本のクナイを踏み台にし、いとも容易く天守まで辿り着いた。
それを見て
『はっ、やるね』
と断が呟く。
本来忍びではない邪衆院がこの技を会得したのは幻龍組と行動を共にするようになってからだ。
幻龍組頭領イバラキは
『水面を渡るもクナイを渡るも同じ事。ただ、水は逃げぬが投じたクナイは逃げる。それだけの違いだ』
としか説明しなかった。
水上を渡るは簡単にこなしてみせた邪衆院だが、クナイを走れるようになるまでは流石に苦労した。
全国を、そして異国を巡り武者修行してきた邪衆院が、『かつてこれほど手こずった事はない』と思ったほどである。
だがそれはあくまでも邪衆院の主観であって、幻龍組の中忍下忍からは
『この技をこれほどの短期間で体得なさるとは、およそ人間技とは思えませぬ』
と驚嘆されていた。
幻龍組の武術教練という立場でもある邪衆院は、『どうすればそのような能力が身に付くのか』という忍び達の質問にこう答える。
『俺は生まれもっての天才ではないからな。努力した、と答えるよりない』
それでは納得せぬ者達にはこう続ける。
『これはどこの国でも同じだけどな、時間と労力の積が結果を生むと言われている。
すなわちどれぐらい時間をかけてどれぐらいの努力をしたかって事で、我等の国ではそれを鍛練といい、隣の大国では功夫という。
俺は時間の許す限り、クナイの上を走る方法を考え、そして修行した。
おまえ達がメシを食ってる間も、酒をかっくらってる間も、寝てる間もな。
全ての時間を捧げたからこそ不器用な俺も修得の期間を縮める事が出来たんだろうな』
こう言われてしまうと、『出来ぬのは己の努力が足りぬせいだ』と認めざるを得ず、忍び達はしゅんと肩を落とした。
それを見た邪衆院は、
『そんなに落ち込むな。幻龍組配下のおまえ達と違って、俺は自由が利く身なんだ。鍛練の時間はいくらでもある。常に任務に就いてるおまえ達には限界があって当然だよ』
と明るく微笑んだ。
忍び達から肩の力が抜ける。
『でもな、本当に強くなろうと思ったらそれぐらいの覚悟は必要だぞ。絶対にな。自らに許された時間の全てを鍛練に捧げ鬼となる気概がなければ、最高の技術を身に付ける事は出来ない。覚えとけよ』
邪衆院はそう言って中忍の背を優しく叩いたのだった。
邪衆院の知る幻龍イバラキは、人生を殺人技の鍛練に捧げた鬼の一人である。
先ほど話した断も、以前戦った封もそうであった。
そして、
『噂通りすごい男みたいだねぇ、邪衆院天空』
と目の前にゆらりと立つ白い羽織の少年も、その隣で不気味に笑う赤い羽織の少年も、イバラキ達と同類の、狂気に満ちた『鬼』に違いなかった。
それを見て
『はっ、やるね』
と断が呟く。
本来忍びではない邪衆院がこの技を会得したのは幻龍組と行動を共にするようになってからだ。
幻龍組頭領イバラキは
『水面を渡るもクナイを渡るも同じ事。ただ、水は逃げぬが投じたクナイは逃げる。それだけの違いだ』
としか説明しなかった。
水上を渡るは簡単にこなしてみせた邪衆院だが、クナイを走れるようになるまでは流石に苦労した。
全国を、そして異国を巡り武者修行してきた邪衆院が、『かつてこれほど手こずった事はない』と思ったほどである。
だがそれはあくまでも邪衆院の主観であって、幻龍組の中忍下忍からは
『この技をこれほどの短期間で体得なさるとは、およそ人間技とは思えませぬ』
と驚嘆されていた。
幻龍組の武術教練という立場でもある邪衆院は、『どうすればそのような能力が身に付くのか』という忍び達の質問にこう答える。
『俺は生まれもっての天才ではないからな。努力した、と答えるよりない』
それでは納得せぬ者達にはこう続ける。
『これはどこの国でも同じだけどな、時間と労力の積が結果を生むと言われている。
すなわちどれぐらい時間をかけてどれぐらいの努力をしたかって事で、我等の国ではそれを鍛練といい、隣の大国では功夫という。
俺は時間の許す限り、クナイの上を走る方法を考え、そして修行した。
おまえ達がメシを食ってる間も、酒をかっくらってる間も、寝てる間もな。
全ての時間を捧げたからこそ不器用な俺も修得の期間を縮める事が出来たんだろうな』
こう言われてしまうと、『出来ぬのは己の努力が足りぬせいだ』と認めざるを得ず、忍び達はしゅんと肩を落とした。
それを見た邪衆院は、
『そんなに落ち込むな。幻龍組配下のおまえ達と違って、俺は自由が利く身なんだ。鍛練の時間はいくらでもある。常に任務に就いてるおまえ達には限界があって当然だよ』
と明るく微笑んだ。
忍び達から肩の力が抜ける。
『でもな、本当に強くなろうと思ったらそれぐらいの覚悟は必要だぞ。絶対にな。自らに許された時間の全てを鍛練に捧げ鬼となる気概がなければ、最高の技術を身に付ける事は出来ない。覚えとけよ』
邪衆院はそう言って中忍の背を優しく叩いたのだった。
邪衆院の知る幻龍イバラキは、人生を殺人技の鍛練に捧げた鬼の一人である。
先ほど話した断も、以前戦った封もそうであった。
そして、
『噂通りすごい男みたいだねぇ、邪衆院天空』
と目の前にゆらりと立つ白い羽織の少年も、その隣で不気味に笑う赤い羽織の少年も、イバラキ達と同類の、狂気に満ちた『鬼』に違いなかった。
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