2012-11-29(Thu)
小説・さやか見参!(177)
山の頂きに紅い男が立っていた。
『多分この山でございますね』
大仰に独り言を言っている。
『ここになければまた一からやり直しですからね、それは勘弁願いたい』
紅い装束を身に纏った男はため息まじりにそう呟くと、素早く斜面を滑り降りて行った。
炎三兄弟の長兄、紅蓮丸。
さやかに倒され今は金丸藩で入牢させられている炎丸の兄だ。
彼らは貴族の出でありながら、各地に眠る宝を探す狩人でもある。
という事はこの山に、
さほど大きくはない荘島藩のどこかに、
何かお宝があるという事だろうか。
しかして紅蓮丸はまだ知らなかった。
ちょうど同じ領内に、悪しき忍者の集団がいる事を。
その者達は紅蓮丸のいる山から遠く離れた所に、
藩主のいる城内に忍び込んでいた。
『よいか』
男のささやきが低く響く。
『これからおぬしは領内の民に告げなければならぬ。この荘島に平和をもたらす為にな。それが藩主たるおぬしの役目』
そう言われた藩主の口はだらしなく開かれ、眠そうな半目は虚ろに濁っていた。
よく見ると額や後頭部の何点かに、きらりと光る小さな針が打ち込まれている。
『おぬしの下で暮らす者達にこう告げよ。今後一切の虚言を禁じ、それをもって他者を欺きし者は厳罰に処す、と』
藩主の背後の男は低くつぶやきながら、銀色の義手で藩主の首に長い針を刺した。
すっ。
まるで何の抵抗も受けなかったかのように、針が肌に吸い込まれていく。
すると藩主は虚ろな表情を変える事なく口だけをぱくぱくと動かして
『…一切の虚言を禁じ…それをもって他者を欺きし者は…厳罰に処す…』
とつぶやいた。
義手の男がにやりと笑う。
だがその口元以外は鉄の仮面で覆われていて表情が読めなかった。
首に刺していた針を抜き男が立ち上がると、配下の黒装束がささと近付き、残りの針を全て抜いた。
青装束が湯飲みの白湯に薬を溶かして藩主の口にあてる。
ごくり、ごくり、
喉が動いて液体を嚥下し、そのまま藩主は、
ごろりと横になって寝息を立てた。
それを見て再びにやりと笑い、
幻龍イバラキとその配下は姿を消した。
『多分この山でございますね』
大仰に独り言を言っている。
『ここになければまた一からやり直しですからね、それは勘弁願いたい』
紅い装束を身に纏った男はため息まじりにそう呟くと、素早く斜面を滑り降りて行った。
炎三兄弟の長兄、紅蓮丸。
さやかに倒され今は金丸藩で入牢させられている炎丸の兄だ。
彼らは貴族の出でありながら、各地に眠る宝を探す狩人でもある。
という事はこの山に、
さほど大きくはない荘島藩のどこかに、
何かお宝があるという事だろうか。
しかして紅蓮丸はまだ知らなかった。
ちょうど同じ領内に、悪しき忍者の集団がいる事を。
その者達は紅蓮丸のいる山から遠く離れた所に、
藩主のいる城内に忍び込んでいた。
『よいか』
男のささやきが低く響く。
『これからおぬしは領内の民に告げなければならぬ。この荘島に平和をもたらす為にな。それが藩主たるおぬしの役目』
そう言われた藩主の口はだらしなく開かれ、眠そうな半目は虚ろに濁っていた。
よく見ると額や後頭部の何点かに、きらりと光る小さな針が打ち込まれている。
『おぬしの下で暮らす者達にこう告げよ。今後一切の虚言を禁じ、それをもって他者を欺きし者は厳罰に処す、と』
藩主の背後の男は低くつぶやきながら、銀色の義手で藩主の首に長い針を刺した。
すっ。
まるで何の抵抗も受けなかったかのように、針が肌に吸い込まれていく。
すると藩主は虚ろな表情を変える事なく口だけをぱくぱくと動かして
『…一切の虚言を禁じ…それをもって他者を欺きし者は…厳罰に処す…』
とつぶやいた。
義手の男がにやりと笑う。
だがその口元以外は鉄の仮面で覆われていて表情が読めなかった。
首に刺していた針を抜き男が立ち上がると、配下の黒装束がささと近付き、残りの針を全て抜いた。
青装束が湯飲みの白湯に薬を溶かして藩主の口にあてる。
ごくり、ごくり、
喉が動いて液体を嚥下し、そのまま藩主は、
ごろりと横になって寝息を立てた。
それを見て再びにやりと笑い、
幻龍イバラキとその配下は姿を消した。
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