
立ち回りの解説ラストです。
鬼の首領、
いわゆる悪ボス、
大嶽丸様。
大嶽丸様の立ち回りは物語の最後の最後、
本当に少ししかありません。
しかも、その“少し”で倒されてしまう事が決まっているのです。
最後だけ立ち回って負けたのでは、ただの『弱い奴』になってしまいます。
大通連という魔剣まで携えているというのに…
僕は頭を悩ませながら、通常の1対1をつけてみました。
愛結夢と大嶽丸の本気と本気のぶつかりあい、
いかにもラストバトルらしい立ち回りです。
『これをベースに考えればおかしな事にはならんだろう』
という保険殺陣です。
保険殺陣を覚えてもらいながら+αを考えていた時、博覧演記の主宰・巾木氏が1つのアイデアを発しました。
それは、ピンチになった愛結夢が従者・妙懐丸の術を使って大嶽丸に反撃する、というものです。
物語後半、妙懐丸は酒天童子との戦いで命を落としています。
その妙懐丸の術をクライマックスで使う事によって、愛結夢の想いを表現しようという演出なのでしょう。
なんと言っても愛結夢ったら一見、他人の事なんか歯牙にもかけない、ましてや従者の命など気にもかけないような俺様キャラですからね。
それがラストでそんな事したら
『あぁ、愛結夢は本当は従者の死を悼んでたんだな』
って事が見えてくる。
台詞じゃなくて行動で心中を見せるって素晴らしい演出だと思いました。
(この演出の為に妙懐丸の術を印象付ける必要が生じて、妙懐丸役の凪流代表は苦労されたと思いますが)
ならば同様に命を落とした間人(はしひと)さんの術も使っちゃえ、って事で僕が殺陣に盛り込みまして、
ピンチになった愛結夢が、妙懐丸と間人と力を合わせて大嶽丸を討つ
という設定になりました。
『今回は大嶽丸の立ち回りを説明するんじゃなかったの?』
と思われた方、心配無用。
今の話は大嶽丸の話にちゃんと繋がってます♪
ここで愛結夢がピンチを回避する策が生まれた事で、僕はようやく大嶽丸様の強さを表現出来るようになったのです。
もし妙懐丸・間人の術を使わなかったら?
愛結夢は大嶽丸を自力で倒す事になります。
それはつまり、大嶽丸より愛結夢の方が強かったという事になるんです。
満を持して、しかも魔剣を手にして登場したくせに結局弱い悪ボス…
それって、役としてもストーリーとしても最悪ですよね?
それが!
妙懐丸と間人の術で一転するのです!
愛結夢は自分一人の力では大嶽丸に勝てなくなったのです!
大嶽丸はとことんまで愛結夢を追い詰めて良くなったのです!
愛結夢の力をもってしても倒せない鬼、大嶽丸!
これですよ!
おかげで一騎討ちは圧倒的に大嶽丸が優勢。
魔剣・大通連の力を表す為の演出も盛り込んで、大嶽丸様の強さを表現する事が出来ました。
立ち回りというのは、ただ戦いの段取りを付ければ出来るってものではありません。
キャラクターの設定、ストーリーの流れ、ステージ状況、役者の力量、etc…という複雑な要素を上手く組み合わせないと完成しないのです。
愛結夢vs大嶽丸は、構成上不利だった部分を設定で埋めたからこそ成立した立ち回りだと言えるでしょう。
そして、やはり大きかったのは役者さんの力量です。
短い時間と短い立ち回りで強さと存在感を発揮する事、
観ている人に
『あ、こりゃ愛結夢は勝てねぇわ!』
と思わせる演技を魅せる事、
大嶽丸役の銀角さんに求められるものは大きかったのですが、見事にやり遂げてくれました。
僕も配下の酒天童子として安心して従う事が出来ました♪
さすが銀角さん!