2010-12-23(Thu)
もうすぐクリスマスですね♪
…てなワケで、これから数回に分けて1996年のクリスマス辺りの話を書こうかと思います。
前回の『アクションへの道』で、
1996年の俺は熱かったぜ
みたいに書きましたが、僕の性格上、
熱い時期=天狗になってる時期
みたいな所もあります。
…それは置いといて…
この年、僕は『キリモミ』と呼ばれる技にチャレンジしてみました。
『ホンコンスピン』と呼ぶ人もいれば『キリキリ』と呼ぶ人もいる技です。
テキトーにしか説明しませんが、攻撃を食らった時に吹っ飛んで、空中でクルクルッと回転して落ちる派手なリアクション技なんです。
ちなみに僕がいた事務所では『プリプリ』と呼ばれていました。
先輩に
『どうしてプリプリと呼ばれているんですか!?』
と訊いた所、
『そりゃあオマエ、プリッと回るけんたい!』
と言われたのを思い出します。
…で、ある日の戦隊ショーでそれを初めてやってみたワケですよ。
本当はけっこう高く跳んでやるもんなんですけど、僕は跳躍力がありませんもので地面ギリギリで。
それでもやってみたらそれなりに派手に見えたりしたんですよ。
メンバーからも『おぉ~っ!』なんて言われちゃって。
着地はめちゃめちゃ痛かったですけど…
普通は高い位置で回る事で落ち方をコントロール出来たりするんですけど、地面スレスレの行き当たりばったり回転では、落ちるままに着地するしかありません。
着地というよりも墜落→激突です。
でもまぁその日は2ステージをこなして無事に帰ったのでした。
それからしばらくして…
~つづく~
2010-12-23(Thu)
日が暮れた。
先ほどまで青さの残っていた空は漆黒に染まり、いびつな形の月が煌々と輝いている。
不意に
闇の中に、ぼぅっ、と明かりが灯った。
その光が幻龍城を浮かび上がらせる。
幻龍城のいたる所で松明が点されたのだ。
忍びにとって夜襲は常套である。
つまりこの松明は襲撃への備えであり、臨戦態勢である事を示している。
城門の松明の前には門衛が十名ほどたむろしていた。
城門といっても扉はない。
やはり城と呼べる代物ではないのだ。
青い忍び装束の門衛達は手に手に武器を持って、時折無駄話などしながら周囲を警戒していたが、その内の一人が暗闇に目をやった。
『…誰か来たぞ』
『懲りねぇ奴等だな』
軽口を叩いて身構える。
やがて明かりが、ゆっくりと歩いてくる山吹たけるを照らし出した。
『山吹…たける…?』
忍び達は一瞬驚いて、そして安堵した。
驚いたのは、龍組の次期頭領自らがたった一人で出向いた為だ。
しかも普段の装束ではない。
肩当ての付いた黒い陣羽織。
帯の下には鉄製の腹当て。
脛に巻いた脚半も黒い。
これは、山吹流頭領の戦場での正装であった。
つまりはやはり、たけるは十二組の長、龍組を背負ってこの場に現われたという事だ。
いずれ龍組が来るとは思っていたものの、彼らの予想より遥かに早い。
そこにまず驚いたのだ。
門に近付いたたけるの表情を松明が照らす。
いつものように柔和な笑顔だ。
一見すると、争い事とは無縁に生きてきたようにも思える。
門衛どもが安堵したのはそのせいだ。
彼らは山吹たけるを舐めきっていた。
たけるは人前で技を見せる事がない。
修行すらも見せない。
物腰は柔らかく争いを嫌う。
そんなたけるに対して
『戦の厳しさも知らねぇくせに』
『命のやり取りの怖さも知らねぇ奴が』
『実力もねぇくせに頭領の座が約束されてるなんて、ぼんぼんはいいよなぁ』
などと思っているのだ。
たけるは門衛達の前で立ち止まり一礼した。
顔を上げて、柔らかい笑顔のまま忍び達を見る。
無言ではあるが、くちなわへの目通りを頼んでいるのだ。
青い忍び達は少しうろたえた。
たけるは門衛が反応しないのを見て、会釈しながら門をくぐろうとした。
以前ならば龍組の使いが砦に入る事を止める者などいなかった。
『待てぇ』
門衛達が手にしている武器をたけるの前に突き出した。
『勝手に入られちゃ困るんだよな』
『もう俺達は蛇組じゃねぇ。だから龍組だからって偉そうにはさせないぜ』
『そうよ。俺達は幻龍組よ』
一人が左胸の紋章を見せる。
いまだ龍になりきれぬ半分の龍の顔、
すなわち幻龍が刻まれていた。
そんなやり取りをしている間に門の内側にもぞろぞろと青い忍びが集まってきた。
ざっと三十人はいるだろうか。
刀や槍を構えて行く手を塞いでいる。
門衛達はたけるの喉に、胸に、腕に、足に、刃をぐいっと押し当てた。
『黙って帰らなきゃ、お前、死ぬぜ』
そう言い終わらぬ内に、たけるは押し付けられた刃など気にならぬようにすっと前に進んだ。
気がつくと三十人の敵の壁を越えて屋敷に向かって歩いている。
行く手を阻んでいた青い忍び達はしばらく動かなかったが、やがて一斉に全員の首がぽろりと落ちた。
たけるが刀を抜いた瞬間を誰も見る事は出来なかった。
2010-12-23(Thu)
アクションへの道を書いていると色々と考えるきっかけになって勉強になります。
今は1996年の事を中心に書いていますが、この年は本当に熱くなっていた時期です。
テレビキャラクターショーをやっていた1990年から2007年を振り返ってみると自分の中のピークが2回あって、その内の1回がこの年、1996年なのです。
しかし実際にブログを書こうとすると、この年から内容を思い付かなくなってしまいます。
これまでは
『ショーとはこうあるべきだ!』
とか
『みんなやる気あんのか!』
とか
『現場でこんなハプニングが!』
とか色々あったのに、この年から記憶が薄くなってしまいます。
なんでだろう?と考えてみると…
おそらく、それまでの僕は『引き出しを増やす時期』だったんだと思います。
『やる気』も『不満』も、『成功』も『失敗』も、
とにかく全てにぶつかって吸収して取り込んでいた時期だったのではないかと。
そしてこの年は、蓄積したものを使って現場に臨んでいた『アウトプット』の時期だったのではないかと。
そう考えて振り返ると…
うん…
自分でも納得出来ちゃうんですよね…
もちろん『やる気』もあれば『不満』もある。
『成功』も『失敗』もある。
新しい技にチャレンジしてみたり、それで怪我してみたり、同期のS氏とケンカしてみたり…
色々あるんですけど、それもやはり想定の範囲内というかアウトプットなんですよね…
じゃあそれが悪い事かと言うとそうじゃない。
引き出しを増やすのは使う為ですし。
1990年から1995年に蓄えた全ての集大成だったからこそ、この年の僕は熱かったんだと思います。
2010-12-22(Wed)
鳥組のはやぶさが命を落とした翌朝―
山の中腹にはいつも以上に白いもやがかかっている。
霧散する気体が、差し始めた日光を乱反射してますます風景を溶かしていく。
その一面の白さの中に、突如として巨大な青黒い影が浮かんだ。
幻龍城―
かつての荊木砦を、くちなわはこう呼んだ。
堀を造り塀を建て、戦を想定して増築された砦は以前よりも威圧感を与えるが、決して城などと呼べる代物ではない。
だがくちなわはあえて呼んだ。
この場所を、己が天下を治める拠点と周囲に知らしめる為である。
ほぼ木造の幻龍城が青黒く見えたのには訳があった。
城の周囲を、屋敷の壁を、屋根を、青装束の忍び達がびっしりと埋め尽くしていたのである。
昨夜、一人を生かして帰したのは宣戦布告だ。
これで間違いなく戦が始まる。
まずはこの里の忍者どもを殲滅してやる。
古のしきたりに縛られ諾々と生きているだけのつまらぬ連中を。
十二組という制度が本当に正しいのか、本当に役に立っているのか自分には分からない。
ただ争いを避けて妥協点を見つける為だけが目的にも思える。
十二組の頂点たる龍組が決まれば皆がその命に従い、各々の意思など飲み込んでしまう。
つまらぬ連中。
やはりそう思う。
だが俺は違う。
何が正しいか、何をやるべきか、それは俺の中にあるものだ。
だから俺は俺の意思のままに生きる。
俺が正しいと思う世の中を作る。
地位や肩書き、制度に縛られる事のない世界。
そんなものがあるから父は陽の目を見なかった。
母は理性を失った。
愛などという偽りのない世界。
妻はそれを利用した。
そのまやかしのせいで自分は愛する者を殺す事となった…
そして山吹たける…
奴は笑顔で愛を語りながら卑劣な罠を仕掛けてきた…
俺は俺の天下を築く。
そしてお前達が間違っていた事を思い知らせてやる。
さぁいつでも来い、
薄汚い忍者ども。
朝の修行を終えたさやかが山吹の屋敷に戻ると、すでにたけるの姿はなかった。
ただ、文机にたくさんの折り紙が置かれているばかりである。
しばらく待ったが帰る気配もないので、さやかも紙を折り始めた。
たけるの折り紙を手本にしながら鶴を作った。
たけるが帰ってきたら驚かせようと、時間をかけて、丁寧に折った。
『えっ!これさやかが折ったのか!?』
兄の驚く顔を想像する。
『すごいなぁ、上手になったじゃないか!さやか!』
褒めてくれる兄の笑顔を想像する。
さやかは、ふふっ、と笑いながら鶴を折った。
羽根を広げ息を軽く吹き込むと…
美しい鶴が完成した。
たけるに負けない出来である。
さやかは、鶴を眺めながら兄の帰りを待った。
たけるの反応を想像しながら眩しいほどの笑顔で待ち続けた。
たけるがそれを見る事は、もう出来ないとも知らずに…
2010-12-22(Wed)
『影マイク』ってのがあるんです。
『影マイク』とはステージ上のキャラクターの声を、物陰で(?)スタッフがアテる事です。
僕がいた事務所では完パケショーがほとんどだったので、影マイクは基本的に立ち回り中の『ヤーッ』とか『トーッ』とか『うわぁっ』とか、そんなんだけでした。
あ、
完パケってのは、セリフが全部録音されてるんですよ。
でも立ち回りは流動的なものだから、掛け声みたいなのは録音出来ないんですね。
かといって無言で立ち回ってると
『さっきまであんなに喋ってたのに、戦い始めたらどうしてみんな無言になるの!?』
なんて事になっちゃうので影マイクを入れるワケです。
慣れない内は『ヤーッ』『トーッ』ぐらいのもんですが、上手い人は色んなセリフを入れる上に何役もアテたりします。
主役『来い!ハッ!ターッ!』
ザコ『ぎゃあ~っ!』
主役『さぁどうした』
怪人『おのれ、行くぞ!ドァ~ッ!』
主役『ヤッ!ハッ!とどめだ!トァーッ!』
怪人『ぐあぁ~っ!!』
…こんな感じで…
立ち回りの手(振り付け)によっては長台詞が入る事も。
『会場の子供達には指一本触れさせんぞ!
今日こそはお前達の企みをぶっつぶしてやる!
行くぞ!●●ソード!!』
みたいな。
(セリフが昭和な感じなのはお許しを)
この影マイク、僕が入った頃は現場スタッフの仕事でした。
現場スタッフに入るのはほとんど社員さんだったので、
影マイク=社員の仕事
みたいな感じになってたんです。
でも、演者の立場からするとそのシステムに不満があった。
リハーサルに社員さんは立ち会いません。
つまり現場スタッフは、ショー当日に初めて僕らの立ち回りを見るのです。
初めて見る立ち回りに完璧な影マイクをアテるなんてほとんど不可能です。
しかも1回のショーに立ち回りは5つも6つもあるんですから。
『レッドの立ち回りはこのタイミングでこの台詞を入れて下さい!』
なんてメモを渡しても焼け石に水です。
本番でパニクってメモの台詞を見失う、
台詞が飛んで沈黙が流れる、
焦って意味不明な台詞を喋りだす、
声が裏返る、噛む。
せっかくの立ち回りがスタッフの影マイクのせいで台無しになる事もあります。
(ふざけた台詞を入れるスタッフもいたんですよ)
それでも当時の社員さん達は
『影マイクは俺達の仕事だからバイトのお前達はやらなくていい!』
みたいに主張してました。
僕は
『仕事ならリハーサルを見て覚えて完璧にやらんかい!』
と思っていました。
そこで1993年ぐらいから強引に自分達でやるようになったのですが…
例えばレッドの立ち回りの時はイエロー役のメンバーが、
イエローの立ち回りではブルー役のメンバーが声をアテる、
と決めておけば、リハーサルで影マイクまで含めて練習出来るんです。
さて1996年の話…
この年もまだまだ社員さんによる影マイクというのは根強く残っていました。
仕事という義務感や責任感でやってるというよりは、
『この人達は影マイク好きなんだなぁ~』
って感じでした。
でもやっぱり行き当たりばったりなのは変わりません。
メンバーは
『うぅむ…』
と思っていても、相手は大先輩な上に社員さんですから
『キチンとやって下さいよ!』
とも言えません。
でもこの当時熱くなっていた僕は
『いいショーをする為には上の人間にも意見を言わないかん!』
なんて思ってしまって…
ある現場で、大先輩のスタッフに言いました。
『僕の立ち回りには影マイク入れないで下さい』
自分としては柔らか~く言ったつもりだったんですが…
その社員さんはよっぽどショックだったのか、それ以降影マイクをしなくなってしまったのです。
もちろんベストなショーをする為にやった事ではあるんですが、ベストなやり方だったとは思いません。
いま考えたら性急すぎたな、と…
もっと社員を含めて話し合いとかをすれば良かったな、と思います。
目的が正しければ何でも許されるワケじゃない、ってお話でした。
2010-12-22(Wed)
『くちなわが荊木砦に戻ってきた』
その情報は山吹流を中心とする十二組の里に瞬く間に伝わった。
くちなわに会って事の真偽を質すべく何人もの使者が立ったが、砦は堅牢な柵に囲まれ、その中に立ち入る事さえままならなかった。
事態は何ら進展せず、その間に荊木の砦は要塞の如き体を成すばかりで、
『くちなわが面会に応じない以上、武力行使に訴えるしかあるまい』
という意見が出るのも無理からぬ事であった。
緊急会合の結果、鳥組と虎組の若頭が荊木砦に向かう事になった。
鳥組は交渉を専とする組であり、虎組は斬り込みを任とする組織である。
武力行使を辞さない意思をチラつかせながら強引に面会に応じさせようという腹である。
この策に、山吹たけるだけが危惧を抱いていた。
今のくちなわは以前とは違う。
荊木でみずちの下にいた頃のくちなわと思ってかかると足元をすくわれる。
あの真っ二つにされた女神像は、くちなわがこれまでの自分を捨てたという意思表明に思えて仕方なかった。
たけるは使者に選ばれた虎組の若頭、雷牙と鳥組のはやぶさにそれを伝えたかったが、その暇もなく二人は出発してしまった。
そしてたけるの危惧は的中した。
夜になって瀕死の雷牙がはやぶさを背負って戻ってきたのだ。
すでにはやぶさは息絶えている。
腕に覚えのある雷牙ではあるが、やはり以前のくちなわを知っているが故の油断があったのだろう。
更には不意を突かれて先にはやぶさがやられた。
仲間をかばいながら多勢を相手にしては流石の雷牙とて無事では済まなかったらしい。
這うように戻ってきた雷牙は背からはやぶさの屍を降ろすと、
『たける…くちなわ殿…ありゃもう…鬼だぜ…』
と言って気を失った。
屋敷に戻ったたけるは、一人部屋にこもって紙を折った。
簡単なものから難しいものまで、知り得る限りの折り紙を作った。
これからさやかがお手本に出来るようにと丁寧に、綺麗に。
たけるはさやかの笑顔を思い浮かべる。
さやかの無邪気さ、天真爛漫さ、それは自分とは縁遠いものであった。
自分は山吹の跡継ぎとして、幼い頃から感情を殺すよう教育されてきたのだ。
それに必死で抗っていただけなのだ。
しょせん俺など、感情を殺した兵器にすぎん。
心の中で毒づいてみる。
これからの世に必要なのは、さやか、お前だ。
全ての紙を折り終わったたけるは立ち上がって
『さやか、後を頼むぞ』
とつぶやいて目を閉じた。
そして
ゆっくりと開いたその眼に感情はなかった。
2010-12-21(Tue)
どどどどど
轟音が周りの音を消し去る。
分厚い水の層が太陽の光さえも遮る。
圧倒的な水量が身体を押し潰そうとのし掛かってくる。
やはりこの男にとって滝は原点と言えた。
幼き頃に滝壺に呑まれた時に感じた畏怖、恐怖。
それに抗うのが己の修行の礎になっているのだ。
だからこそ徹底的に技を、術を磨いた。
かつての仲間達の前から姿を消して数週間。
男はここで滝に打たれていた。
飲まず食わず、寝る事もせず、ただ滝に打たれていた。
そして夜になると配下を連れて十二組の忍びを…
かつての仲間を狩った。
狩りが終わるとまた滝に打たれた。
この場所はかつて師に教えられた秘密の修行場だ。
連中が本気になれば見つかるのも時間の問題だが、まだ数日は大丈夫だろう。
その間に、まだまだ狩ってやる。
全部潰してやる。
男の精神は限界まで追い込まれていた。
妻に裏切られ、
母に裏切られ、
そして、わずかでも心を開いたあの若造にも裏切られた。
その絶望が生む虚無感が男を支配している。
これまで己が立っていた大地が一瞬で消えてしまったかのような喪失感。
人はそこに在る事を実感出来るからこそ生きている事が出来る。
だが、世界の全てを失った彼にとって、自分の存在を実感する事など不可能に近かった。
だからこそ自らに苦行を強いる事で生きている実感を得ようとしているのだ。
己の居場所を見つける為に、かつての仲間達を滅ぼそうとしているのだ。
人は人を裏切る。
どれだけ信じても、
どれだけ愛しても、
人は人を裏切るのだ。
だとしたら
裏切りのない世界を作りたい。
愛する者を失わずに済む世界を。
その世界を作れるのは自分しかいない。
俺は裏切りを許さぬ。
裏切りは死を持って償ってもらう。
さすればいつかは裏切りのない世界が来る事になろう。
俺は天下を獲る。
俺は地を這う蛇ではない。
俺は―
…と、眼前にそびえ立つ分厚い水の壁に光が走った。
稲妻か?
しかし先程まで空には雲などなかったはず。
男は怪訝に思い滝から離れようとして、
不思議な光景を見た。
天から地に向かって走った光が、今度は足元からゆっくりと昇ってきたのだ。
ゆらり、ゆらりと。
滝の流れに反射しぼんやりとしていた光が少しずつ輪郭を現し、やがて実像を結ぶ。
男は目を見張った。
それは―
黄金に輝く龍であった。
呆然とする男に龍は口を開いた。
『今は報われぬくちなわの身なれど、
行く手阻む者悉く打ち倒しのちには…』
龍は言葉を切る。
男は思わず続きを急かす。
『悉く打ち倒しのちには!?』
一瞬、龍はにやりと笑って
『我が姿を得る事必定』
とだけ言って姿を消した。
…気がつくと男は滝から離れた河原に倒れていた。
落水の轟音が振動となって大地から伝わる。
なぜ俺はここに倒れている?
さっきの龍は幻だったのか?
過酷な修行で疲弊した脳が作り出した幻影だったのだろうか?
しかし―
男は思った。
天啓とはこのようなものかもしれん。
あの龍は、全ての敵を倒した蛇は龍になれると言った。
ならば今はその言葉を信じよう。
俺は立ちふさがる全ての敵を倒す。
鬼となりて荊の道を進む。
男は決意を固めてつぶやいた。
『…今はまだ幻なれど、やがては必ず龍へと至る…』
蛇組、荊木流頭領くちなわと呼ばれた男は今ここに、
幻龍イバラキ
となって生まれ変わったのだ。
2010-12-20(Mon)
着替えを済ませた血讐が屋敷を出ると、表で断と封が待っていた。
『なんじゃ。おぬしらも帰っておったのか』
血讐の問いに、井戸に腰かけた断がぞんざいに答える。
『ついさっきね』
『わしを待っておったのか?先に行っておれば良かったものを』
そう言われて断はバツの悪そうな顔をした。
それを見た封が、ふふんと笑う。
『どうにもね、怖いみたいなのよ』
血讐もふふんと笑う。
『なるほどな。ならば共に行くか』
血讐と封が並んで歩き出す。
『お、おい、ちょっと待てよ!俺は怖いなんて言ってねぇだろうがよ!』
置いていかれた断が慌てて2人を追いかける。
3人の足は塔に向かっていた。
『断、あんたそんなに怖いの?新しい頭領の事が』
『別に怖くねぇって』
『ふふ、あの頭領の事はわしにもまだ読めぬからな。お前ごときが恐れるのも無理はない』
『だからびびってねぇっつーの!』
三人の会話から分かるように、一角衆は数年前に頭領が変わったばかりであった。
この頭領がどのような人物なのか、
それは徐々に明かされるに違いない。
同じ頃、山吹たけるは荊木砦のはずれを一人歩いていた。
叔父の所から戻ってきた龍組頭領、武双によって先程まで十二組頭領による緊急会合が行われていたのだ。
そこには蛇組頭領たるくちなわの姿はなかった。
くちなわだけではない。
荊木流の誰一人として姿を現さなかったのだ。
組が揃わぬとは、十二組の歴史が始まって初めての事である。
この事によって会合を開くまでもなく一つの結論が導き出された。
『疑わしきは蛇組頭領くちなわである』
と。
ここ数日、各流派の忍びが相次いで殺害されていた。
その手口は鮮やかで、誰に目撃される事もなく証拠も残さず、全員が反撃の間もないほど見事な一撃で仕留められていた。
暗殺は蛇組の最も得意とするところだ。
全員が口には出さずともくちなわを思い浮かべた。
しかしまだ断定は出来ない。
たけるはもう一つの可能性、つまり一角衆の存在について頭領達に語った。
くちなわの妻かすみは幼少の頃に送り込まれた一角衆の間者であり、それ故にくちなわに殺害された事。
だとしたら、みずちの不自然な病死、
三十数年ぶりにうかが戻ってきた事、
そのうかとかがちを、くちなわが相次いで殺害した事、
それらの陰にも一角衆の存在があるのかもしれない。
更には武双の留守中、自分の油断が原因で、山吹の忍びが一角衆に操られくちなわを襲った事…
たけるは一連の殺害がくちなわの仕業ではないと信じたかったのだ。
だがたけるの話は一角衆の存在を感じさせると同時に、
『やはり犯人はくちなわである』
という疑念を頭領達に抱かせる結果となってしまった。
一角衆の策略にはまり山吹を恨むよう仕向けられたのは明白で、それ故十二組の殺害を行なっている、と全員がそう確信したのだ。
くちなわがかねてより蛇組という立場に不満を抱いていた事は誰もが知るところだった。
そこに付け込まれたのであれば同情の余地もない。
それが頭領達の見解である。
とにかく、まずはくちなわを探し出す事。
これに尽きた。
たけるはくちなわを探して荊木砦のはずれを歩いていたのだ。
この先には、あの小さな女神様の像があるはずだ。
くちなわにとっては人の優しさの象徴だった。
それは愛しい妻であり、愛する母であった。
たけるは足を止めて像を見る。
小さな女神はその胴を真一文字に斬られ、上半身を失って立ち尽くしていた。
たけるは
しばらくの間、動く事が出来なかった。
2010-12-20(Mon)
ショーの世界に足を踏み入れて21年目に突入しました。
この世界ではまだまだ下っ端ですが、これからも頑張っていきますのでよろし…
いかんいかん。
新年の挨拶でも同じような事を書くんだから、ここでは控えておきます。
1990年12月18日、
キャラクターショーの事務所に面接に行ったのですが、何故かいきなり練習に参加させられてしまいました。
練習が終わったら有無を言わさずその週の現場にキャスティングされてデビューが決まってしまいました。
それから今に至るまで面接はありません。
練習の事もリハーサルの事も現場の事もギャラの事も何にも教えてもらえないままのスタートでした。
本当に懐かしく、今となれば良い想い出です。
2010-12-20(Mon)
さて、
拝猫殿の背後に樹海が控えている事は既に説明したが、その樹海の中心にはさらに奇妙なものがある事を知っていてもらわねばならない。
この樹海は一度迷えば二度と出られぬと言われるほど巨大なものだが、その中心部には誰にも知られぬ集落があるのだ。
三層からなる塔のような屋敷を、大小様々な屋敷や小屋が囲んでいる。
この集落が誰にも見つかる事がないのにはいくつかの理由があるのだが、それは追々語る事にしよう。
その集落に入ってくる人影が見えた。
小柄な若い男と髪の長い痩せた女。
断と封である。
断は鼻歌など鳴らしながらまっすぐに塔に向かって歩いている。
と、断よりも更に小さな影が屋根より降ってきた。
影は地面に当たった瞬間、跳ねるように横に飛ぶ。
影がぶつかった部分には一瞬遅れて手裏剣が突き刺さった。
断は声をあげた。
『血飛沫鬼ィ!血塗呂ォ!おめぇら目障りなんだよ』
その目の前に赤い影が降ってきてぴたりと止まる。
血塗呂だ。
断と封を見てにやりと笑った。
『目障りとか言うな。ちび』
断の背後から血飛沫鬼の声がした。
どうやら血飛沫鬼と血塗呂はいつものようにじゃれ合って追いかけっこでもしていたらしい。
本気で手裏剣を打つような危険な遊びだが、本人達は楽しげだ。
断は振り返りもせずに
『おめぇの方がちびだろが。どちび』
と悪態を突いた。
その反応に封が呆れる。
『あんた、子供と張り合ってどうすんのよ。血飛沫鬼、血讐様も帰ってんのかい?』
『さっき帰ってきたところさ。今は屋敷で着替えてる』
それを聞いて断が憎々しげな顔をした。
『じじぃ、また女どもをはべらせてやがるな』
それを聞いて封が嘲笑を浮かべる。
『ひがんでんの?あんたモテないからねぇ』
『うっせぇよ、封』
そう。
この集落こそ一角衆の砦なのだ。
そして化け猫を祠る宗教とは、一角衆が人心を誑かす為に作ったものだったのだ。
正式な名称ではないようだが、信者達からは
『庚申教』
と呼ばれていた。
どうやら教祖に退治されたという化け猫は庚申山に巣くう妖怪だったらしい。
庚申教がここまで発展したのは、教祖を名乗る血讐の力による所が大きかった。
血讐は幼少の頃より不思議な力を持っていた。
その声と語り口で数多の女を惹きつけてしまうのだ。
全ての女性を、というワケではないが、狂信的に彼に従う女は数えきれないほどいた。
屋敷に戻った血讐を出迎え、我先に着替えを手伝う女達は血讐個人の信者とも言える。
女達にはきっちりと順位が付けられており、直接血讐の世話をしていいのはほんの数名。
残りは傍らでかしずく事しか許されない。
直接の世話をする女の中でも厳然たる地位の格差があるのだが、全ての女に共通しているのは、血讐の命令には絶対服従、という事である。
正確に言えば服従とは違うかもしれない。
彼女らが血讐の言葉を疑う事はないのだ。
疑わないからためらわない。
今すぐに死ねと言われれば何事もないように命を絶つし、人前でも脱げと言われれば迷わず全てを脱ぎ捨てる。
血讐はこれを信者として、くのいちとして、そして側女として自在に使っていた。
血飛沫鬼と血塗呂もこの女達に産ませた子である。
血讐の血を継ぐ子らは存外に多い。
断が言った『女をはべらせている』というのはこの事を指しているのだ。
2010-12-19(Sun)
山吹を含む十二組の里はかなり広い。
一つの山の頂点に龍組の砦があり、それを取り囲む形で、麓や中腹に他の組が砦を築いている。
山の周りに広がる平地は荒れて田畑に向かないので人が住む事もない。
十二組のみならず、忍びの生活は里から完全に隔離されているのだ。
一角衆の砦も人里から離れた場所に築かれていた。
十二組の砦が点在する山から国を二つ挟んだ東国にそれはある。
その国には中央を縦に流れる川があり、川を隔てて西部では商業が、東部では農業が盛んだった。
かなり豊かな国と言える。
その東部の果て、
農村地帯からしばらく歩いた場所に奇妙な様式の建造物が建てられていた。
隣国へ繋がる樹海を背に建つそれは、神社のようでもあり仏閣のようでもある。
かすれた文字で
『拝猫殿』(はいびょうでん)
とだけ記してある。
商人農民問わず、この国の民が近年信奉している、いわゆる宗教であった。
遥か西方から勢力を拡大してきた新興宗教らしい。
神でも仏でもなく『化け猫』を祠ってあるという。
かつて西国で人間を食らっていた化け猫が退治された。
退治された後も化け猫は怨霊となり、人々に仇なし続けた。
その噂を聞いた剛の者が化け猫の怨霊と対決し調伏する事が出来たが、その際に化け猫は
『我を祟り神としてではなく信仰の対象として祠るならば人の世の災いを取り除き、利となり益となるものを与えよう』
と言い残したという。
剛の者が化け猫を祠る拝猫殿を建立すると、その信仰は現世利益を願う者達によって爆発的に拡大し、ついにはこの国まで辿り着いたのだ。
しかしながら、布教の地域を広げ続けていた拝猫殿の動きはこの国へ来てからぴたりと止まった。
樹海の入口に拝猫殿が建ったのは四~五年ほど前だろうか。
それからはどうやらこの国を本拠地と定めたようである。
なぜこの国に落ち着いたのか、
教祖いわく
『商と農を兼ね備えたこの国が豊かになれば、おのずと近隣諸国が、そして全ての民が豊かになりましょう』
という事らしい。
教祖は物腰の柔らかい老人で、奇妙な光を放つ右眼には不思議な霊力があるらしい。
『かつて邪悪な蛇神を退治した際に蛇神に右眼を奪われてな、しかし化け猫様への祈願が通じて新しい目玉をもらう事が出来たのじゃ』
とは教祖の弁。
この教祖、信者からは
『けっしゅう様』
と呼ばれていた。
2010-12-18(Sat)
『俺達十二組の忍びはさ、戦がやりたくて技を磨いてるワケじゃないだろ。
でも今の世の中じゃどうしても戦いの…敵の命を奪う為の技になってしまう。
だからさ、俺は天下を変えたい。
誰もが冷たく重い心を持たなくて済むように、戦のない、争いのない天下を作りたい。
…この国のみんなが、さやかみたいににこにこ笑って暮らせる平和な世界を作りたいんだ。』
たけるがここまで熱く語る事は珍しかった。
さやかも知らなかった兄の一面であった。
『俺達はさ、その為に…みんなが笑って暮らせる平和な世界を作る為に戦わなくちゃいけないんだ。
俺はその為に戦う。
戦って戦って、命尽きるまで必死に戦えば世の中も少しは変わるかもしれない。
一つの命と引き換えに、平和へと一歩近付く…
俺は…そう信じてる…』
戦いのない世界を作る為に戦わなくてはならない。
その矛盾にはたけるも気付いている。
そしてその為の犠牲は自分一人で済まない事も分かっている。
『忍びってのは、その為に存在するのかもしれないな…』
たけるの独白は少し寂しそうに聞こえる。
しかし、その寂しさは我が身の不運を憂いたからではない。
妹、さやかもその運命の渦中から逃れられぬ事を悟った故の寂しさだ。
『俺達が…平和を願う全ての忍びが命を懸ければ…命尽きるまで戦い続ければ必ず世界は変わる…俺はそう信じてる…』
これはあくまでもたけるの願望に過ぎない。
だからここ数日、さやかに伝えるべきか迷っていた。
しかし、
伝えるならば今しかない
何故かそう思ったのだ。
『うん、分かった』
さやかがにっこり笑ってうなずいた。
命の懸かった話だとは思えないほど無邪気な返事だ。
『私も死ぬまで戦う。そうしたらみんなにこにこ笑顔になれるんだよね?』
妹のいじらしさにたけるは胸が痛んだ。
だが平静を保たなければ。
『そうだ。やっぱりさやかは偉いな』
『だってね、たける兄ちゃんはそれがいいって思ってるんでしょ?』
『ああ』
『たける兄ちゃんがそう思うんなら私もそう思うに決まってんじゃ~ん』
さやかはちょっとませた感じに語尾を伸ばした。
そして、すこしの沈黙の後、伏し目がちな笑顔になって言った。
『おまつりにね、たくさん人がいたでしょ?
みんなね、いっぱい笑って楽しそうだった。
あの人達は忍者じゃないんだよね?』
『うん』
『あの人達がさ、私達みたいに戦う事になったらさ、私、嫌だ。
あの人達が兵衛みたいに死んじゃったら私嫌だ』
兵衛とは一角衆に操られ、くちなわに殺された山吹の下忍だ。
さやかは兵衛の首を塚に埋めたのだ。
『だったら私が戦うわ。
だって私は山吹の忍者だもん。
平和の為に戦うのが忍者だもん。
それで里の人達が笑っていられるなら、私、お兄ちゃんと一緒に死ぬまで戦う』
妹にこんな言葉を吐かせなければならないとは…
たけるは己の罪深さを噛み締めた。
しかし気持ちとはうらはらに
『さすがは俺の妹だ。
みんなが笑っていられるように、俺達は死ぬまで戦おう。
約束だぞ』
と小指を出した。
2010-12-18(Sat)
近年思うところがありまして…
キャラクターショーにおける、いわゆる
『スペシャルショー』
って、誰にとってのスペシャルなんでしょうね?
例えばよくある
『6番目の戦士が登場!』
みたいなスペシャルショー。
でもこれって、
『通常のショーには5人だけしか出ないんですよ~』
って事が前提のスペシャルじゃないですか。
そんな大人の事情すら最近の子供達は理解してくれてるワケですが、本当に純粋な観客からしたら、6番目の戦士は
登場するのが当たり前
なんですよ。
だってテレビでは普通に出てくるんですから。
ヒーローのパワーアップ形態が登場する時も同じ。
これはメジャーマイナー問いません。
『通常のショーではパワーアップしない』
という前提を知らない一見さんにとってパワーアップ形態の登場は、
『おおーっ!』
ではなく、
『ふむふむ』
ぐらいだと思うんです。
想像してみて下さい。
あなたは友人に連れられて、ある歌手のコンサートに行きました。
友人はその歌手の大ファンですが、あなたは初見です。
歌手はラメ入りの赤いジャケットで決めています。
そしてアンコール。
歌手はラメ入りの青いジャケットで登場しました。
…さぁどうでしょう?
あなたは
『おおーっ!!』
と思う事が出来そうですか?
何が『おおーっ!!』か分からない、ですって?
実はこの歌手が青いジャケットを着るのは、本当に満足のいくステージだった時だけ。
非常にレアな事なのです。
あなた以外のファンは当然その事を知っています。
『まさか青ジャケットが見れるなんて!』
と感動しています。
『おおーっ!!』
と思っています。
『おおーっ!!』と思わなかったのは予備知識のないあなただけ。
想像出来ましたでしょうか?
僕にとってのスペシャルショーってこんなイメージなんですよ。
予備知識がない人には全然スペシャルじゃないんです。
例えば僕らが7月にやったショー。
僕にとってはスペシャルショーです。
普段は
キャスト5名
スタッフ兼MC1名
でやってる『さやか見参』、
その日は
キャスト9名
スタッフ1名
MC1名
の大所帯。
キャストの中の3名は東京から呼んだプロです。
MCは地元のタレントさんです。
新キャラも4人登場させました。
ストーリーも殺陣もいつも以上に見応えを重視しました。
僕にとっては間違いなくスペシャルです。
予算の面でも普段の3~4倍かけてます。
しかし、
初めて『さやか見参』を観たお客様にはそのスペシャル感は伝わらない、というか関係ないのです。
新キャラが出ようがストーリーが進展しようが殺陣に気合いが入っていようが、
『ふ~ん、そうなんだ~』
で終わっちゃうもんなんです。
それが当たり前なんです。
あ、
スペシャルショーを否定してるワケじゃありませんよ。
関係者も気合いが入りますし、ファンに対するサービスとしても大切な事だと思います。
では何が言いたかったかというと、
スペシャルショーは一見さんには全然スペシャルじゃない。
だから演る側が『どや顔』をしてはいけない。
って事です。
2010-12-18(Sat)
たけるが打った紙製の手裏剣は二人の眼球を狙って飛ぶ。
左の中忍はぎりぎりで首をひねってかわした為わずかに体勢を崩した。
右側の中忍はふりかぶっていた刀を引き戻し、柄で手裏剣をはじいた。
たけるほどの忍びが鋭く打ったものならば、紙であろうとも凶器になる事が分かっているのだ。
致命傷にこそならぬが直撃すれば眼球などひとたまりもあるまい。
二人の見せたわずかな隙をたけるは見逃さない。
右に素早く回り込み、手裏剣をはじいた刀の柄を腕ごと絡め取った。
そしてその勢いを殺さぬまま振り回し、まさにかかって来んとしているもう一人に向かって投げ付けた。
二人はぶつかった瞬間にたけるに蹴倒され、手足を絡められた上で押さえつけられた。
仲間に覆い被さるように倒れている中忍の背にたけるが腰をおろす。
絡まった手足をたけるが掴んでいるので中忍達は動けない。
『よし、ここまで』
たけるが軽く言って立ち上がった。
中忍もよろよろと立ち上がる。
『すごーい!お兄ちゃんすごーい!!』
さやかが駆け寄ってくる。
本気で感心したようだ。
『本物の手裏剣に折り紙で勝っちゃった!すごーい!!』
何度もすごいを連発する妹にたけるは言った。
『本物なら相手の命を奪う事は容易い。しかし折り紙の手裏剣でもこのぐらいは出来る。
習練次第ではね』
懐から手裏剣を取り出す。
赤と黄の二色で折られた手裏剣だ。
『俺は…人の命を奪うのは嫌いだ。出来るならば忍びの術で誰かを殺めたくはない』
さやかは驚く。
『えっ?忍びの術は戦いの為に修行するんでしょ?戦いになったら敵の命を奪わなくちゃいけないでしょ?』
たけるは片膝をついてさやかの目線まで降りた。
さやかに自分の心を伝えたい時、たけるは必ずそうした。
『今はそうかもしれない』
表情も声も優しい。
『でも、いつか必ず戦いのない平和な時代が来る。
その時に必要なのは敵を殺める術じゃない。
自分を、大切な人を守る術だ』
『え?え?大切なものを守る為に敵を殺すんじゃないの!?』
『俺はこの折り紙であの2人と戦って勝っただろ?』
『うん』
『あの2人は死んでるか?』
『…ううん』
『殺さずとも勝つ事は出来る。
これから必要になるのはそういう…いや、敵も味方もないか。勝ち負けでもない。
出来るだけ相手を傷つけずに大切なものを守る術なんだ』
そう言ったところで中忍の一人が
『今の攻撃も当たれば失明ものですが、人間、目を狙われると反射的に避けるようになっておりまする。だからたける様はここを狙われたのですな』
と自分の目を指した。
『そうなんだ…』
さやかは、敵を傷つけない事を前提とした攻撃がある事を初めて知り感銘を受けている。
もう一人の中忍がたけるの傍につき数枚の手裏剣を手渡した。
『さやか、これを懐にしまってごらん』
手裏剣はたけるからさやかに渡された。
鉄の、本物の手裏剣だ。
さやかはおずおずとそれを懐に入れると、少し困ったような顔をした。
『どうだ?』
さやかは小さな声で
『…冷たい…』
と答える。それから
『重い…』
とつぶやいた。
普段なら重さなど意識もしないのだが、紙の軽さに慣れた故か初めて手裏剣を重いと感じたのだ。
たけるはゆっくりとうなずく。
『人を殺す武器を懐にしまえば冷たくて重い。
同じように、殺意を抱けば心は冷たく重くなる。
さやか、もしも自分の身体が氷のように冷たくて岩のように重かったらどうなると思う?
おまえは速く走る事が出来るか?
高く跳ぶ事が出来るか?』
さやかは想像してみた。
冬の寒さに凍えきって石像と化した自分の姿を。
走るどころか動く事すらかなわなさそうだ。
そう思い、無言で首を横に振った。
たけるは立ち上がってさやかの頭に掌を乗せて優しく続ける。
『心と身体は同じでさ、心だって冷たく重くなれば動かなくなる。
俺はね、さやか、人は心が動くからこそ人だと思うんだ。
…嬉しい事、腹が立つ事、悲しい事…
色んな事にたくさん心が動く方が人間らしいって思う。
そうやって心を動かす為には、心を暖かく、そして軽くしていた方がいい。』
そう言うと、さやかの懐から鉄の手裏剣を抜き取り、代わりに折り紙の手裏剣を数枚入れた。
『これなら冷たくも重くもないだろ?』
さやかは上目遣いにたけるを見た後で微笑んだ。
『だから俺は、本物より折り紙の方が好きなんだ』
と言ってたけるも微笑んだ。
2010-12-17(Fri)
気がついたらDVDの返却日だ!
慌てて観た。
『板尾創路の脱獄王』
と、押井守監督作品
『ASSAULT GIRLS(アサルトガールズ)』
の2本。
『脱獄王』、かなりハードだったな…
そしてあのオチ…
素敵過ぎる…
『ASSAULT GIRLS』、内容はねぇ、テレビシリーズの一編みたいだった。
なんとなく『キャプテンパワー』を思い出しちゃった。
しかし黒木メイサさんって、スタイルがエロい…
さてTSUTAYAに返却に行ってくるか…
2010-12-17(Fri)
さやかは、たけるの表情を読む事が出来ずに不安げな顔をしていた。
それに気付いたたけるは笑顔を見せてまた手裏剣を折った。
さやかの前に色とりどりの手裏剣が置かれていく。
『すごいねー。本物みたい!』
それを聞いてたけるは手元から目を逸らさずに
『そうか。…俺は本物より折り紙の手裏剣が好きだ』
と微笑んだ。
そして、
『そうだ。明日晴れたらさやかに教えておきたい事があるんだ。
朝の修行が終わったら屋敷の裏においで』
そう言ってもう一度笑った。
この日の夜、十二組に関わる六人の忍びが人知れず命を奪われていた。
発覚するのは後日の事である。
そして翌朝―
朝日が昇り終わったばかりの空は、前日のどんよりとした雲が嘘のような青さを見せている。
修行を終えたさやかが屋敷の裏に駆け込むと、広い庭でたけると配下の中忍二人が休憩していた。
さやかは地面を見る。
かなり激しい修行をしていたのだろう。
微かな足跡がうっすらと見えている。
しかしそれは中忍二人のものだけである。
たけるはいかに激しく動こうとも、決して足跡を残さないのだ。
『早かったな』
たけるの笑顔は朝日に照らされて一層にまぶしい。
『うん!急いで帰ってきたもん!ね、お兄ちゃん!私に教えたい事ってなに?』
さやかの笑顔もまたまぶしかった。
『さやか、その顔は…何か奥義でも教えてもらえると思ってるな?』
たけるがにやりと笑う。
『えっ…違うの!?』
『うーん…奥義といえば奥義かなぁ…』
そう言いながら懐から昨日作った折り紙の手裏剣を5~6枚取り出した。
『俺はこの手裏剣を使う。あの二人は本物を使う』
中忍達はそれぞれ十数枚の鉄の手裏剣をさやかに見せた。
『これで本気で戦ったらどうなると思う?』
『え…えーっ!それは…うーん…たける兄ちゃんだったら負けないだろうけど…紙の手裏剣じゃ戦えないよぉ…』
『そうかな?』
そう言った瞬間に中忍が手裏剣を打った。
後方に跳び退いたさやかの前を鉄の武具が勢い良く飛ぶ。
たけるは軽く、すいと後ろに下がった。
左右からたけるの心臓めがけて放たれた手裏剣はたけるの前で交差して、また左右に分かれて飛び去った。
中忍達は刀を抜いてたけるに襲いかかる。
するどい攻撃の合間に拳や脚まで繰り出してくるのだからなかなか手強い。
しかも二人がかりである。
しかし、不利に思えるたけるは全ての攻撃を軽くかわしていた。
たけるの動きは常に静かで柔らかい。
そして何よりも速い。
だが中忍とてたけるの配下の者達だ。
かなりの手練れである。
攻撃に隙がない。
刀を使いながらも、距離が縮まれば拳脚で、離れれば手裏剣で、執拗に攻めてくる。
下手をすれば大怪我をするか、もしくは命を落としそうだが、これが忍びの修行なのだ。
たけると中忍の距離が開いた。
中忍達が手裏剣を打つ。
一瞬で5枚の手裏剣がたけるめがけて飛んだ。
1つは心臓めがけて、
1つは頭、1つは脚めがけて、
そして左右に1つずつ。
山吹では『十字打ち』または『五点打ち』と呼ばれている基本の打ち方である。
上下左右中央に同時に迫る手裏剣をかわすは至難の技だ。
ましてやこの二人の鋭い打ちを。
さやかは一瞬たけるの身を案じた。
だが、たけるはまるで手裏剣をすり抜けるように前に出た。
たとえ同時に飛んだように見えても、二人で五枚を打つのだからわずかに時間差が出来る。
たけるはその隙間を縫って前に進んだのだ。
手裏剣はただ空を切って飛び去っていく。
たけるは前に進みざまに回転し、二人に紙の手裏剣を投げた。
2010-12-16(Thu)
阿部さんと2人で練習。
でもほとんどミーティングでした。
普段から練習日とは別に会って話す日を作ってた方がいいのかも。
来年からの武装について色々と話しました。
2010-12-16(Thu)
久しぶりに雨が降った。
まるで陽の差し込まぬどんよりした雲が空を覆っている。
しばらく晴天が続いていたから植物にとっては恵みの雨だったかもしれない。
山の頂きを切り開いて作られた山吹の砦には所々岩肌がむき出しになった場所があり、あまり晴れた日が続くと砂埃が舞う。
なのでさやかは埃っぽさを流してくれる雨が好きだった。
この日の午後、たけるとさやかは二人で屋敷にいた。
父、武双は数日前に隣国の弟の所―
たけるとさやかにとっては叔父になる山吹錬武の所へ出かけていた。
おそらく一角衆はその隙を狙って山吹の配下を操ったのであろう。
あの日以来くちなわは姿を消した。
荊木に残った忍び達を連れて行方をくらませたのである。
くちなわと別れた兄妹が砦に戻ると、下忍や中忍達はいつもと同じように生活していた。
農作業をしている者、
農具や武具の手入れをしている者、
屋敷の修繕に汗を流す者、
様々であったが、誰もくちなわに会っていないと言う。
砦から出てさえいないと言う。
だが明らかに人数が減っている。
所々に怪我をしている者もいる。
忍びの任務は隠密裏に命じられる事がほとんどなので、下忍や中忍が突然姿を消そうとも不思議はない。
皆が疑念を抱かぬのも当然である。
だが己の怪我はどうなのか?
いかに強力な催眠法を持ってしても、正気に戻れば傷や痛みには疑問を持つはず。
それすら意識から締め出す事が可能だとしたら、一角衆の術とは何と恐ろしいものか。
たけるは、祭りで買った鮮やかな紙で鶴を折りながらそんな事を考えていた。
隣りではさやかが必死に真似をして折り紙をしている。
たけるが鶴の羽を左右に広げて、ふっと息を入れた。
胴体が綺麗に膨らんで見事な鶴が完成した。
それを文机にちょこんと置く。
横でさやかも息を吹き込んでいる。
ふっ
どころではない。
ぶーーーーっ!
と激しい音が響く。
『出来た!』
とさやかが机に置いた鶴は…
様々な苦労を乗り越えて、ようやく目的の地に辿り着いた哀れな渡り鳥の様相を呈していた。
要するに、よれよれだった。
それでもさやかは満足げだ。
たけるはその顔を見て微かに笑った。
さやかはたけるの鶴を手に取って感嘆の声をあげる。
『すごい!おにいちゃんの鶴はとっても綺麗!』
『俺はさやかの鶴も好きだよ』
『ねぇお兄ちゃん、この鶴ちょうだい?これをお手本にして練習する!』
『じゃあこっちは俺がもらっていいか?』
さやかが作った鶴を指差す。
『いい…けど…さやかのは下手っぴだから恥ずかしいなぁ…』
さやかはもじもじと、でも嬉しそうだ。
『私ね、お兄ちゃんはすごいなぁっていつも思ってるの。術もすごいし、折り紙も上手だし…私もいつかお兄ちゃんみたいになれるかなぁ…』
『さやかならすぐに追い付くさ。いや、いずれは追い越されちゃうかもなぁ』
『そんなの無理だよ!…ねぇ、お兄ちゃんでもすごいって思う人いる?』
無邪気な質問だ。
目が輝いている。
たけるは次の紙で手裏剣を折りながら答えた。
『いっぱいいるさ。父上にはまだまだ敵わないし、叔父上だって雲の上だ。各流派の頭領方だって…
雷牙も腕が立つし、くちなわ殿も…』
くちなわの名を聞いてさやかが複雑な表情をした。
たけるはそんな妹を見て、もう一度微かに笑った。
『でもな、そんな中で俺が一番すごいって思う人がいる』
『えっ!?父上よりすごいの!?』
『あぁ。俺はその人みたいになりたい』
『誰?誰?誰?』
さやかが身を乗り出して聞く。
たけるも身を乗り出して答える。
『さやかだよ』
さやかはきょとんとしてから
『なんだ~、冗談かぁ~』
と拗ねた。
しかしたけるは真面目に続ける。
『冗談なもんか。いつも笑顔できらきらしていて、でも時には怒ったり、泣いたり、色んな顔を見せてくれる。
俺にとってさやかは、いつも輝いてる憧れの存在だよ
俺も、出来ればそうありたかった…』
さやかは兄の顔を見た。
たけるは何故か、少し遠くを見つめた、ように見えた。
2010-12-16(Thu)
今日は練習です。
多分参加者は僕を入れて2人。
来年は練習来た奴、実力がある奴を優先するぜ。
2010-12-16(Thu)
初めて!
劇団☆新感線をナマで観た!
12月15日、
『みちャき』
『ボヌール』
『P』
の3人と共に、飯塚の嘉穂劇場まで
『鋼鉄番長』
を観に行きました。
3人はキャラクターショー時代の後輩です。
『みちャき』は、武装ファン(いねーか?)には『ニセさやか』役でお馴染みですな。
キャラクターショーの人間達ではあるのですが、やはり舞台等を観て勉強する事も必要ですからね。
特に一流の舞台は。
いやぁ~、
面白かったなぁ~♪
エンターテイメントだなぁ♪
こーゆー素晴らしい舞台を観るとすぐに影響されそうになっちゃう。
いかんいかん、
さやかショーの路線を忘れちゃなるまいぞ。
でも今回の感動をいつか自分達のショーでも活かしていきたいな。
あぁ、
いのうえ歌舞伎もいつかナマで観たい。
ホントいいお芝居を観させていただきました♪
幸せ♪♪
2010-12-16(Thu)
谷底のもやが低く低く流れる。
たけるとさやかの背後からせまる白いもやは二人の足を舐めるように流れて、向かい合うくちなわの足をも飲み込んだ。
たけるは二の句を継げなかった。
変わり果てたくちなわの表情から、ただならぬ事が起きたのを悟ったからだ。
『くちなわ、殿…何があったのです!?』
しばしの間があって、くちなわは凶悪な笑みを浮かべた。
『何が、だと?ふん、見え透いた事を。ほれ』
くちなわが片手にぶら下げていた物をたけるの足元に放った。
地面にぶつかった風圧でその場のもやが散る。
たけるとさやかは足元を見た。
地面に転がっているのは、見覚えのある山吹の下忍の首だ。
それは白い気体に遮られてすぐに見えなくなった。
たけるは一瞬驚いたがそれ以上の動揺はない。
さやかも同様だ。
まだ化け猫の怪奇話を怖がるような子供だとしてもさやかは忍びなのである。
仲間の首などは日常の光景なのだ。
『…くちなわ殿がやったのか…?』
『山吹の陣、初めて味わったが見事だな。
ただ…下忍と中忍のみで俺を討てると思うたか?』
『私ではない。私も父も、あなたに関して何も命じてはおりません』
『ではその首はなんとする?お前はその者に見覚えはないのか?』
『ある。山吹の下忍です』
『山吹の下忍中忍を用いて山吹陣を敷くなど、武双殿かお前にしか出来まい』
『確かにそうです。しかし我々ではない』
『ふん、手下が言っておったぞ。これは武双の命ではなく、新しい頭領の命令だと』
『私の?そんな馬鹿な。何の為に私がくちなわ殿を討たなければならないのです?』
『妻、かすみを殺し、師、みずちを殺し、後継者、うかを殺し、母、かがちを殺したるは十二組への裏切りなのであろうが』
『うか殿と…かがち様を?いつ!?どうして!?』
『芝居がすぎるわ』
何が起きた?
たけるは高速で回転を巡らせる。
しかし思い至る所は一つしかない。
懐に手をやったたけるを見て、くちなわが軽く身構える。
『やるか?』
しかしたけるが取り出したのは手ぬぐいであった。
それをさやかに渡す。
『その者…下忍の兵衛だ。連れて帰って弔ってやろう』
さやかはうなずいて兵衛の首を手ぬぐいに包んだ。
『山吹では下忍にも名があるのか。龍組ともなると格式が違うな』
『兵衛は…まだくちなわ殿の半分の年にもなっておらん。武芸はとんと苦手でしてな…』
『そのような者ばかり集めて俺を討てるつもりだったのか?甘くみたな』
『なぁくちなわ殿…これも一角衆の仕業だとは思えませぬか?我ら山吹には密かにあなたを討つ理由はない』
『ふん、大方、龍組の座を守る為に荊木を潰そうとしたのであろうよ。実力では我らに敵わぬゆえこのような方法でな。』
『くちなわ殿…』
たけるはゆっくり前へ出た。
『もし我らが本気であなたを討つつもりならば』
さらに前へ出る。
『下忍中忍に任せず頭領が…』
もう一歩前に出た。
くちなわとぶつからんばかりの距離だ。
たけるはくちなわの目を見てはっきりと宣言する。
『いや、私が直接行く』
その気迫にくちなわは押された。
たけるは悲しげに
『さやか、行こう』
と言うとくちなわの傍らを通り過ぎた。
後にさやかが続く。
少し離れてから、振り返りもせずたけるが言葉を発した。
『くちなわ殿』
くちなわは視線だけで振り返る。
『忍びが肩書きや地位にしがみついては身を滅ぼしますぞ』
そう言い残して山吹の兄妹はその場を去った。
くちなわはただ、憎しみの心に囚われていた。
2010-12-15(Wed)
『私は…子供が嫌いです…』
と言えば伊武 雅刀の
『子供達を責めないで』
のフレーズですが、
僕は12月が嫌いです。
昔から、失われるもの、過ぎていくもの、取り返しのつかないものが嫌いで、
青春時代、
今日の青空、
沈んでいく夕陽、
去って行く恋人、
楽しかった想い出、
いずれ尽きる命、
そういったものが僕の中に、強い虚無感を根付かせるのです。
『どうせ消えていくものなら最初からなければいいのに』
中学生の頃からそんな風に考えていました。
今まであったものが、
かつて間違いなく存在していたものが失われていく事が寂しくて寂しくて仕方ないのです。
僕にとって大晦日はその一つです。
もうすぐ
2010年が消滅してしまう気がします。
僕の心は虚無で満たされています。
12月は嫌いです。
2010-12-15(Wed)
それまで命を賭してくちなわを追い詰めていた集団は、外側の陣を破られた途端に士気を失った。
と言うよりも、全員がまるで魂を抜かれたかのように立ち尽くしたのである。
それは、
陣を破られ脱出を許した時点で追跡を中止する
という断の命令通りの行動であった。
つまり、本気でくちなわを殺すつもりはなかったのである。
断はずかずかと立ち尽くす忍びの群れに入って行った。
それでも誰一人動こうとはしない。
『本当に大丈夫なのかい?なんだか薄っ気味悪いねぇ…』
そう言いながら封も入って来る。
追い付いた封の身体が断にぶつかった時、断が例の鈴を高々と掲げて
りん
と鳴らした。
その音は風に乗って意外に響く。
その鈴の音に、立ち尽くす全ての忍びがぴくりと反応した。
そして一瞬で断を取り巻いた。
『だん~、なんなのよこれ~』
封が情けない声をあげた。
『なぁに怖がってんだよおふう、このぐらいの人数ならおふう一人でも楽勝だろ?』
『勝ち負けの問題じゃないわよ。私は気味悪いのは好きじゃないんだってば』
『なぁに言ってんだか。一角で一番気味悪いのはおふうだってみんな知ってるぜ』
冗談めかして笑った断の右腕の肘辺りを封が掴んだ。
『あんた、肘から先、腐らせてやろうか?』
人差し指と親指にぐいと力を入れる。
封の顔は笑っていない。
断の顔からも笑みが消えて焦っている。
『じょ、冗談じゃねぇか、やめろって』
声を震わせてそう言うと封はようやく手を放した。
そのやり取りの間も山吹の忍び達はじっと立っている。
覆面から覗く彼らの目はまるで夢うつつの状態だ。
『とりあえず…』
断はそう言うともう一度、鈴を高く掲げて
りん
と鳴らした。
うつろな瞳に一瞬だけ生気が灯る。
『全員山吹の砦に戻れ。
そして俺の事も今の事も全部忘れちまえ。
これまで通り、頭領の武双と次期頭領のたけるに従うんだぞ。いいな。
それじゃ、散れ!』
その言葉を合図に、全員が一瞬で姿を消した。
同時に断と封も消えている。
後には無数の屍だけが残されて、湿った風に吹かれていた。
断と封が姿を消したのと同じ頃、谷を駆け降りたくちなわは前方から向かってくる者の気配を感じ足を止めた。
もやの中から二つの影が姿を現す。
山吹たけると妹さやかだ。
たけるはもやの向こうでくちなわの気配に気付いていた。
良かった。
無事でいてくれた。
そう思いながらくちなわの顔を見て、たけるは一瞬言葉を失った。
そして絞り出すように、
『くちなわ殿…か?』
とつぶやいた。
謀略と激戦の末に人の心を失ってしまった男の表情は、たけるをして驚愕させるほど変わり果ててしまっていたのである。
2010-12-14(Tue)
荊木砦のはずれの森には高い杉の木立ちがある。
その中の一際高い樹木のてっぺんに痩せた女が立っていた。
長い髪を束ねる事もなく、風に吹かれるがまま晒している。
その姿はただ、美しかった。
長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳は、地上の凄惨な光景を凝視している。
そこでは、
山吹の軍勢がただ一人の男を亡き者にせんと怒濤の勢いで迫っていた。
だがその勢いを持ってしても、ただ一人の男を止める事は出来ない。
『くちなわ…』
女の紅い唇が動いた。
『なかなかやるじゃあないか、あの男』
女の足元から男が声をかける。
『惚れたのか?』
女は視線も向けず、唇の片方をわずかに上げて答える。
『惚れないよ。馬鹿だね。あんな狂気じみた男はまっぴらごめんさ』
『ははっ、俺達一角衆の方がよっぽどいかれてるだろうがよ。俺も、おふう、お前もな』
『まぁね。でも私は違う。いかれてる自覚があるからね。だん、あんたもそうだろ?』
『どうだろうねぇ』
『だん』と呼ばれた男は、『おふう』の足元にある細い枝の上に仰向けに寝転がっていた。
両手を枕にし、足を組んで気楽な体勢である。
しかしこれを支えているのは鳥が泊まっても折れそうな、か細い枝なのである。
男が『よっ』と身を起こす。
枝は揺れもしない。
『だん』と『おふう』。
『断』と『封』は常に二人で行動する忍びであった。。
生まれついての忍びではなく、元来は武芸者の流れを組む者達だ。
よって忍び装束も他の者とは少し違う。
光沢のある派手な装束。
断は緑、封は青のきらきらと光る珍しい生地で仕立てられている。
共に襟や帯、縁取りは鮮やかな黄色で統一されている。
野良着を兼ねた通常の忍び装束とは明らかに出自が違うのが一目瞭然だ。
『だん、あんた一体どうやったのさ?』
『あん?』
『あれだけの人数…しかも下忍中忍とはいえ山吹の忍びだろ。どうやって操ってるのさ。あんた、そんな術持たなかったろ?』
断は『へへっ』と笑うと帯の下から何かを取り出した。
『おかしらがこれを貸してくれたからねぇ』
それは大きめの鈴が付いた家紋のような物であった。
家紋は木彫りに漆などではなく、金属で鋳造された物のようである。
五角形の内側に、五枚の花弁が象られたそれは、先ほどくちなわを取り囲んだ山吹陣に似ているとも言える。
その家紋の下にやや大きめの鈴が付いているのだ。
『なんだい?そりゃあ…』
『こいつぁおかしらの秘密兵器さ。これを鳴らすとな、鈴の音を聴いた奴を好きに操る事が出来る』
『まさかぁ?』
『信じるも信じねぇもないだろ?実際目の前に見てるじゃねぇか』
ぞんざいな口をきいているが、封よりも断の方が身体は小さい。
おそらくは年齢も下なのだろう。
まだ顔に幼さが残っていた。
『でもあいつら、たけるの命令って言ってなかったかい?たけるが命じたと思わせなきゃいけないんだろ?』
『ちゃんと聞いててくれよ。奴ら、たけるの命令とは一言も言っちゃいねぇ。新しい頭領の命令だって言ったんだぜ。つまり、奴らに鈴を聴かせて、
俺が新しい頭領だ!
裏切り者くちなわを山吹陣で討ち取れ!
…って言ったのさ』
『なるほどね。あの男はこれが山吹たけるの仕業だと勝手に思い込んでるってわけね』
『そーゆー事。まぁしかしこの鈴、山吹の血筋には効かないらしいからなぁ。
血族でない下忍中忍だけを集めて技をかけるのは苦労したぜぇ…おっ?』
断が目をやると、くちなわが陣を破り、谷を駆け降りて行くところだった。
『いい頃合だ』
断は枝から飛び下りた。
封も後に続く。
2010-12-14(Tue)
そういえば1996年にはけっこうヒーロー役もやりましたなぁ。
それまでもブルーやイエロー、グリーンなんかは演ってたんですが、中心に立つ主役やピンの主役は初めてだったなぁ。
僕は痩せても幅があるので(身体が薄くなるのです)戦隊には向きません。
3人組メタルヒーローの真ん中とかそんな感じです。
いやぁ張り切った張り切った。
ヒーロー役だから張り切ったワケではなくて、色んな事をやれるのが楽しいんですよ!
普段は怪人で好き勝手動いて、時々ヒーローで決め決めで動く。
キャラクターショー万歳!って思う瞬間です♪
張り切り過ぎて空回りしたり、壁に激突してプロテクターを破壊したり…
あかんがな!!
あんまり張り切り過ぎたらいかんごたるです。
何事も、過ぎたるは及ばざるが如しのごたるですよ。
でもこの時期は身体が軽いから動きも良かったねぇ~♪
問題は…
背が低い僕が痩せてしまうと、ただのちっこい人になってしまう事。
それで怪人やっても迫力ないし…
痩せるべきか、痩せざるべきか、それが疑問だ。
…と悩んだ結果…
必要がない時には痩せるまい
と決めました。
そしてその誓いを現在も遵守しているというワケです。
2010-12-14(Tue)
くちなわは帯の下から鉄の鎖を抜き取った。
普段は腰に巻き付けてあるが伸ばせば身長の倍はあろうかという長さだ。
その鎖を身体の左右でびゅんびゅんと振り回す。
全ての手裏剣を防げるとは限らぬが効果は大きいであろう。
防ぎ損なったとて格下の打つ手裏剣など大した事はない。
無数の金属がぶつかり合う音。
くちなわの読み通りほとんどの手裏剣が弾き飛ばされた。
空中にはじけた手裏剣の隙間から数本の槍が突き出される。
普通ならば手裏剣を打った者がすかさず抜刀して襲ってくるところだが、この陣は『討つ』よりも『追い込む』を主眼とする為、槍の出番となる。
陣を崩さずに敵を追い込むには間合いの遠い武器が有利なのだ。
だが槍よりも鎖に分があった。
手裏剣をはじいた鎖は回転を止めぬまま持ち手を打ち槍に絡み付いた。
くちなわはその鎖を力任せに引き槍の1本を奪い取ると、鎖を腰に巻き付けて端を帯に差し込んだ。
その隙を見て山吹の下忍が槍で突いてくる。
『力だけで突きおって』
くちなわが槍の柄を握った手を小さく鋭く動かすと、穂先は下忍の槍を簡単にはじいた。
『おぬしらに槍はまだ早い!!』
そのまま槍を振り下ろし、下忍の手首を左右まとめて切り落とす。
前方と上下左右から次々と繰り出される槍を、くちなわは身を翻しながらはじいていく。
簡単にはじいたように見えるが、槍を当てられた者は一撃で完全に体勢を崩されていた。
くちなわは足先で発した力を上半身に伝達する事で攻撃の威力を増幅しているのだ。
腕の力だけで槍を繰る連中に勝ち目などあろうはずもない。
くちなわの進む所、槍を握った手首だけが残されていった。
『何ゆえ…何ゆえ山吹が俺を!』
中忍の一人が鋭く槍を突き出しながら声をあげる。
『荊木砦に毒を撒きみずち様を殺害!
さらには後継、うか殿を殺害し頭領の座を奪いしは明白!
それを阻止しようとしたかがち殿までも手にかけし所業、荊木流、引いては十二組に仇なすと見なし征伐の命が下った!』
『あいつの…山吹たけるの命令か!』
くちなわは攻撃を全てかわして問うたが中忍は答えない。
『えぇい!』
中忍の突きを上から抑え、反動を利用して喉を突く。
突き刺した槍を右に振って喉を裂き、そのままの勢いで隣りの下忍のこめかみに叩き付ける。
飛び掛かろうとしていた下忍が地面に激突して血を吹いた。
喉を突かれ倒れた中忍を踏み付けてとどめを刺し、そのまま前方へ走る。
五芒星は破った。
外側を固める陣をどうするか。
考える暇はない。
背後からは自分を包囲すべく無数の追っ手が迫ってきている。
この人数に完全に囲まれれば流石に無事では済まぬ…
走るくちなわの前方に五角形の陣を成す忍び達の姿が見えた。
何とかあの壁を破らねば…
しかし、あの山吹がこれほどの攻勢を見せるとは。
十二組の中で最も武力行使から遠い存在ではなかったか。
いや、かつての山吹は非道を極め恐れられていたとも聞く。
やはり性根は変わっておらなんだか。
だとしたら―
俺は山吹たけるのあの屈託ない笑顔にたぶらかされていたのかもしれん。
やはり、笑顔や優しさなど人を欺く為に存在するのだ。
奴ならば真実を、
いや、
俺の心情を察してくれておるとそう信じていた。
信じた俺が愚かだったのだ。
『おのれぇ!山吹たけるっ!!』
くちなわは前方の下忍に槍を投げた。
止める術もなく顔面を串刺しにされた下忍が吹っ飛ぶ瞬間、くちなわは抜刀ざまに回転し、左右を挟み込んできた追っ手を同時に斬り捨てた。
この時くちなわの眼は、この世の全てを憎む悪鬼のものと成り果てていた。
2010-12-13(Mon)
夢を見た。
岡田准一の『SP』Episode1のDVDを観た後に寝たからだろうか?
アクション物…
我が家で発見したVHSのビデオテープ。
昔のテレビ番組を色々と録画してあるみたいだ。
その中に何故か実写版の『忍者ハットリ君』の映像が…
香取くんのじゃないよ、白黒のやつだよ。
しかも何故か、どこかの会館で当時行われたイベントの映像だよ。
これが超すごい!
まずはロンダートからのバク転で登場。
その後は不思議な芸のオンパレード!
文章で説明しきれないけど、例えば…
たくさんの骨組みで造られた巨大な『獅子舞い』。
高さ2m、全長5~6mはあろうかという獅子舞いです。
そのかしら(先頭)を操るのがハットリ君です。
骨組みの中にすっぽりと収まってしまってます。
身体の関節のあちこちに骨組みが接続されていて、ハットリ君の動きと連動して色んな箇所が動く仕組みです。
ハットリ君は飛んだり跳ねたり、とにかく動きまくって獅子舞いを操っています。
この獅子舞い、胴体部分と脚部分には黒子が1人ずつ入っていて、ハットリ君と合わせて3人がかりで操作しているようです。
黒子達も激しく動いて、時には宙返りとかしながら獅子舞いを操っています。
…いや、待てよ、
よ~く見ると…
2人の黒子も造り物だぁっ!!
つまりハットリ君は、たった1人で巨大獅子舞いと2体の黒子を操っていたのです!
すげぇ!
…いや、文章じゃ伝わらないだろうけど、ホント見事だったんですよ…
そして獅子舞いが舞台袖に引っ込んだかと思ったらハットリ君が高所からの飛び込み受け身で再登場!
まだまだたくさんの芸を披露…
その辺りで僕は
『この映像、弟にも観せなければ!』
と思い立ち、弟を呼び付けてビデオを巻き戻し…
ところが何故か早送りされてしまう。
ぬあぁ~っ!
VHS、ボロ!!
必死で巻き戻しを押すと戻り過ぎちゃって歌番組になってる。
うおぉ~っ!
VHS、ボロ!ボロ!!
そんなんで焦って動悸が激しくなって…
苦しくて目が覚めました…
ハットリ君の芸…
最後まで見たかったな…
2010-12-13(Mon)
話は少しさかのぼる。
たけるとさやかが街へ降りてしばらくしての事だった。
くちなわはまた女神様の像の前に来ていた。
うかを斬り、かがちを殺めたのはすでに昨日の事だ。
くちなわは女神様の顔を見る。
この優しげな像は、かつてくちなわの妻、かすみであった。
この優しげな像は、かつてくちなわの育ての母、かがちであった。
くちなわは思う。
あの者達が自分に向けていた笑顔は何だったのだ。
自分を包み癒してくれたあの優しさは一体。
あれが偽りだったとしたならば、
誰の笑顔を、誰の優しさを信じていけば良いのか。
師であり父であったみずち。
かの人だけが本当に自分を愛してくれた…
くちなわの脳裏に、みずちの優しい顔が、そして厳しい顔が映し出された。
あの厳しさは、優しさゆえであった。
次に妻の顔が、
優しかった妻、一角衆としての本性を現した妻、
あの優しさは本性を隠す為であった。
かがちの顔が浮かんだ。
優しくも厳しかった母、
自分を殺そうとした母、
あの優しさは俺に向けたものではなかった。
息子の幻に向けた優しさだ。
たまたまそこに俺がいたというだけの事だ。
女の優しさなどはまやかしか。
ならばこの女神様の微笑みすら真実ではないのかもしれん…
くちなわはそこまで考えて思考を止めた。
囲まれている。
しかもかなりの人数だ。
まだ範囲は広いがじわじわと詰めて来るのが分かる。
この距離で気配を悟られるぐらいだから中忍以下の者達であろう。
しかしこの布陣…
おそらくは自分を二重の輪で取り巻いている。
外側には五角形を、
内側には五芒星(いわゆる☆の形)を象った輪が作られているはず。
この輪に囲まれた者は、五芒星のいずれかの先端に追い詰められる事になる。
一旦追い詰められたが最後、布陣は十重二十重の円となり、内側の第一陣を倒しても後列の二陣が、それをかわせば三陣が、その後列が、と、際限なく攻めて来る。
いずれ疲れた所でとどめを刺すというのがこの陣形だ。
山吹流が用いる特殊な陣の形である。
…まさか山吹が…?
たけるの柔和な表情が思い浮かぶ。
しかし今は考えている場合ではない。
この陣は距離が詰まるほど脱出が困難になる。
まだ今なら。
くちなわは走った。
どこに向かって走っても必ず敵がいる。
ならば地の利だけを考えて一直線に走れば良い。
くちなわはまるで、滑空する燕のように軽く速く走った。
やがて五芒星の陣を成す者達が見えた。
見覚えがある。
山吹の下忍どもだ。
やはり山吹が…
くちなわは走りながら叫んだ。
『山吹の下忍だな!これは頭領、武双殿の命によるものか!』
すると正面の下忍が槍を構えながら答えた。
『否!我らの新しい頭領の命である!』
くちなわの判断が一瞬にぶった。
武双ではなく新しい頭領の命という事は…
俺を討つようこやつらに命じたのは…
『たける…山吹たけるの刺客かぁっ!』
絶叫するくちなわに無数の手裏剣が放たれた。
2010-12-13(Mon)
最近は『小説・さやか見参!』と『アクションへの道』ばっかりで、
アクションがあーだこーだ、
ショーがあーだこーだって書いてないなぁ。
誰か語ろうよ~。
こないだ後輩の時枝と『実戦の蹴り』と『ショーの蹴り』について語り合ったのは楽しかったなぁ~。
2010-12-13(Mon)
作者の気持ち
ブログ…
反応ないんだよなぁ…
個人的に感想を言ってくれる友人もいるけど…
正直寂しいよねぇ…
DA1…いつもありがとう…
『見る夢は全てカラーの内野武先生に励ましの信(手紙、中国ではこう書く)を!』
とか煽ってたら反応があるかしら。
…ねぇよ(笑)