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2010-11-30(Tue)

小説・さやか見参!(20)

荊木の砦から山中に分け入った中に、いつ、誰が、何の為に置いたのか分からぬ石像がある。

現在は落ち葉や泥に埋まりかけている小さな神像だ。

くちなわは何をするでもなく、ただその像を眺めていた。

幼少の頃は薄暗い山中に白く浮かぶこの像が薄気味悪く感じたものだが、これが女神様だと聞いてからは不思議と親しみを覚えたのである。

戦に巻き込まれて死んだ母の面影を見ていたのかもしれぬ。


だが今は―

かすみの面影を重ねてしまう。

今のくちなわにとって、荊木の砦にいるのはツラい。

かすみとの想い出が多すぎるのだ。

だからかすみとの想い出のないこの山中に来てみたのだが…

女神様を見たのは失敗だったか。

気がつくと背後に男が近付いている。

くちなわは振り返りもせずに問う。

『笑いに来たのか、それとも責めに来たか』

そこに立っているのは山吹たけるであった。

『なぜそう思うんです?私にはあなたを笑う理由も責める資格もない』

『ふん』

『そもそも、くちなわ殿の身に何が起きたのかも知らない』

『俺が未熟ゆえこうなった。それだけの話よ』

吐き捨てるようにそう言ったが―
くちなわは何かに思い至り、小さく笑った。

『ふふ…ある程度の予想は付いておるのであろう?おぬしはともかく山吹の頭領が気付かぬはずはない』

『かしらは…一角衆の仕業だと言っておりました』

『やはり。どこの組も頭領というのは侮れぬものだな』

言葉が弱い。

いつもの敵対心に満ちたくちなわとは思えぬ。

これこそが本当のくちなわなのであろう、とたけるは思う。

『たける』

くちなわがたけるに呼び掛けた。

見る者が見ればそれだけでも信じられぬ光景であろう。

たける本人とて、くちなわが自分にどのような感情を持っているか充分分かっている。

だが、たけるはさらりと受ける。

『なんでしょう?』

『おぬしほどの才ある者から見れば、俺などは未熟に過ぎんのであろうな』

皮肉とも自虐とも取れる問いである。

『未熟?くちなわ殿が?』

たけるは驚いた。

『私はくちなわ殿をそのように思った事はありませんよ。』

『ふん。本心を言え』

『千里眼とも呼ばれるミズチ様の愛弟子くちなわ殿なら、私の言葉の真意が分かるはず。流派は違えど尊敬すべき先達だと思っておりますが』

くちなわはたけるの意外な言葉に素直に驚いた。
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2010-11-30(Tue)

アクションへの道(117)

真面目に一生懸命メルヘンに取り組んでいるメンバーからすれば、アクションメンバーからの不当な扱いが納得いかなかったのでしょう。

ある年からメルヘンも週1回の練習を開始したのです。

それは『アクションにナメられない為』というのもあったのでしょうが、やはりショーで求められるものが年々高度になっていたから、というのが大きいでしょう。

それまでのメルヘンショーにおける立ち回りやダンスは簡単なものが多くて、リハーサルで振りだけ覚えたら何とかなる、って雰囲気がありました。

(※子供達が一緒に踊れるようなレベルに設定してあったのではないかと思われる)

ところが、地球の周りを公転する衛星に代わっておしおきする美少女戦士ショーぐらいから流れが

コロッ

っと変わってしまったのです。

ダンスも立ち回りも要求が高くなった!

その要求にプロとして応えるべく、練習日が設けられたのです。

それからはメルヘンメンバーも充実し、練習によるレベルアップが進められていました。

しかし1996年…

僕はメルヘン練習に参加していた中堅クラスの女の子達から相談を受けたのです。

彼女達曰く、

『メルヘンリーダーが独善的過ぎる』

『今のままの練習ではこれ以上レベルアップ出来そうにない』

という事でした。

(※若くてイケイケな時はこーゆー事を言い出すものです)

そんな理由で、メルヘンリーダーによる練習を辞めさせてほしい、
代わりに僕に練習をつけてほしい、
という風に言われたのでした。

内容の稚拙さはともかく、僕は自分達で動こうとする若者が大好きなので(おまけに上に盾突く奴が好きなので)それを引き受けました。

僕はメルヘン練習には行った事がなかったので、様子を見る為に何度か参加。

そしてある日の練習が終わった瞬間…

『はい、それじゃーリーダーによるメルヘン練習は今週でおしまい!来週から俺がやりまーす』

突然の乗っ取り宣言です。

道場は騒然となりました。

もちろんリーダーも黙ってはいません。

殴り合い寸前の怒鳴り合いです。

その結果、翌週から僕が練習を仕切る事になりました。


…で…

結論から言えば、僕の練習は数ヶ月で打ち切りとなりました。

相談してきた女の子達が謀反を起こしたのです。

理由は簡単。
メルヘンリーダーよりも僕の方が断然独善的だったからです。
あはははは♪


僕のメルヘン練習は、みんなから

『こんなのメルヘン練習じゃない!』

と批判され続けていました。

どんな練習をしていたのか。

メルヘンをやる為の『基本練習』をやっていたのです。

僕が当時のメルヘンを見て思った不満をまず解消しなければ、メルヘンの練習に入る事は出来ないと思ったからです。

1・アクターの身体的クォリティの向上

2・ショーについての考え方の改善

3・アクションとメルヘンの垣根をなくす

この3つが僕の課題だと思いました。

具体的な内容は次回。
2010-11-30(Tue)

小説・さやか見参!(19)

雷牙が真顔に戻ってたけるに訊く。

『くちなわ殿…あれからどうしているだろうか…』

『あぁ。俺も気にはなるが…今は誰とも会いたくはないかと思ってな。
特に俺とは』

『一体なにがあったのだろうなぁ…』


くちなわは、かすみとのやりとりを誰にも明かさなかった。

真相を知るミズチはもはや言葉を発する事が出来なくなっていたから、何が起きていたのか今や誰にも分からぬ。

『くちなわ殿が理由もなく奥方を斬るわけもないし…』

雷牙はくちなわとかすみを思い出す。

『俺はけっこう好きだったんだがな、あの夫婦。…まぁくちなわ殿はいけすかないとしても、かすみ殿を愛していたのは分かる…』

雷牙は寂しそうな顔をした。

『あの偏屈が…女房には心を許してたわけだろ…それを斬った時の気持ちってなぁ…どんなもんだろうかね…』

たけるが口を開いた。

『うちの頭領が…』

雷牙がたけるの顔を見る。
たけるは遠くを見ながら独り言のように語っている。

『あの日親父は、ミズチ様とお会いする約束があって荊木に向かっていたんだ。
くちなわ殿の住まいの前で異変に気付いて…
戸を開けるとちょうど、かすみ殿が斬られた後だったらしい。


たけるは目を細めて、悲しそうな顔をした。

『くちなわ殿はな、もう動かないかすみ殿のそばに座って、かすみ殿の髪を、冷たくなった頬を、撫でていたそうだ。』

思い浮かぶその情景が雷牙の胸をえぐる。

『寂しいような穏やかな顔で、自ら裂いたのどを、指のない手を、ずっと撫でていたそうだよ。
ただ黙って…』

雷牙の目に涙が浮かんでいた。

この男も非情に徹しきれぬ忍びなのだ。

たけるが続ける。

『俺は妻がいないからな、妹に置き換えて考えてみるんだ。
もし、もし仮に将来、俺がさやかを斬らねばならなくなったとして…』

『待て、そんな事はないだろう』

『例え話だよ。
たとえばさやかが敵に回って、俺がさやかを斬ったとしよう』

『うむ…』

『そんな事を想像するとな、浮かぶんだよ、頭の中に。
手をつないだ感触とか、笑った顔、怒った顔、泣いた顔、俺を呼ぶ声、何気ない言葉、あいつが俺に花を摘んできてくれた時の事とか…
そんな事が次々と浮かぶんだ。

実際にさやかを斬った後にそれを思い出したら…
俺は正気じゃいられないかもしれない…』

『では…くちなわ殿も…』

『早く立ち直ってくれるといいが…壊れてしまう前に…』


だが、たけるの心配をあざ笑うように、くちなわを破滅に導く企ては着々と進められていた。
2010-11-29(Mon)

小説・さやか見参!(18)

今、たけるの本当の技量を知る者はわずかである。

妹であるさやかと…


『相変わらず見事だな』

不意に男の声がした。

さやかが驚いて振り返ると…

年の頃はたけると同じぐらいか。

長身。
こけた頬。
無精髭。
鋭くも優しい眼。
獣のように締まった筋肉に見慣れぬ黄と黒の毛皮を纏っている。

さやかの表情が明るくなった。

『雷牙!!』

男の名は雷牙。
虎組の跡取りである。

この男こそさやかと共に、たけるの技を知る人物であった。

さやかが駆け寄る。

『もう、雷牙!びっくりさせないでよ!』

『すまんすまん、でも気配を消したつもりはないぞ。
おまえが気付かなかっただけだ。なぁたける』

『あぁ。さやか、雷牙はもう一刻も前からその辺りにいたぞ』

『うそっ!』

『な?水の中のたけるが気付くんだから、ここにいて気付かないさやかが鈍いって事だろ』

『う~~っ!おにいちゃんは天才だから何でも分かっちゃうの!私は…私はどうせ天才じゃないもん…』

負けん気の強いさやかは涙声になった。

たけるがさやかの背を軽く叩く。

『泣くなよさやか。雷牙の口が悪いのは今に始まった事じゃないだろう?
それにな、俺は天才でも何でもない。
いつも言ってるだろ?努力の分だけ上達するんだって。
さやかも今まで通り修行を頑張れば俺ぐらいにはなれるさ。』

さやかはすねたように黙ってうつむいていたが、

『分かったか?』

とたけるに頭をなでられ、

『うん!』

と笑顔になった。

そして

『私もやってみる!』

と池に飛び込んでいったのだった。

それを見て穏やかな笑顔を見せる二人の男。

『天才なんかじゃない、か…』

雷牙がつぶやく。

『充分天才だと思うがねぇ。俺もおまえに負けないぐらい修行してるつもりだが…』

おどけた表情で首をかしげる。

『おまえに勝てたためしがない』

たけるはふっと笑う。

『手加減するからだろ』

『おまえを相手に手加減なんかする余裕あるもんか。いつも力の差を感じてがっかりするよ』

『そうなのか?…でも、俺にとっておまえは目標なんだ。おまえがいてくれるから俺は頑張れてる』

『なんだよ気持ち悪りぃな』

また二人で笑った。

たけると雷牙。

親友にして、次世代の十二組を担うはずの二人だった。
2010-11-29(Mon)

アクションへの道(116)

そういえば1996年にはちょっとした事件があった…
(事件、と言っても僕にとって、だけど…)

どこから話していいか分からないけど長くなると思うのでよろしくです。

ではまず、ショーの分類から説明しましょう。

キャラクターショーには
『アクション』
『メルヘン』
の2種類があります。

簡単に言えば、
『アクション』=特撮ヒーロー
『メルヘン』=アニメキャラクター
って事になるでしょうか。

現在はずいぶん変わってきましたが、僕が新人の頃は

『アクションはメルヘンより上』

みたいな風潮だったのです。

上とか下とかどーゆー事?
って感じですよね。

あくまでも
『当時アクションメインで入ってた人達』
の意見ですが…

アクションショーは『立ち回り』がメイン。

立ち回りには技術が必要。

だから練習が必要。

だから自分達は練習している。

それに引き換えメルヘンは着ぐるみで喋ってるだけ。

台詞に合わせて動くだけなら練習無しでも出来る。

『アクション』の人間は『メルヘン』も出来るけど、
『メルヘン』の人間は『メルヘン』しか出来ない。


…とまぁこんな感じだったんです。

この論理にはちょっと納得いきません。

当時の先輩方にこう言っては申し訳ないですが…

『台詞に合わせて動くだけなら練習無しでも出来る』
というのは完全に間違ってますね。

アクションでもメルヘンでも演技って難しいもんです。

アクションの演技とメルヘンの演技って全然種類が違うんですよ。

特撮ヒーローの衣裳は人間の形だから、『うなずく』とか『肩をいからせる』とかだけで何となく演技してるように見えるんです。

だから(当時の)アクションしかやってないメンバーにとって演技とは
『何とな~く動けば出来るもの』
だったんですよ。

つまり立ち回りは頑張ってるけど演技は頑張ってなかったんです。

メルヘンの衣裳は人間より大きいものがほとんどです。

大きい衣裳を動かす時、アクターは日常生活の何倍も大きな動きで演じているんです。

たまに新人さんが入っているとおぼしき『ほぼ棒立ち』のキャラクターに遭遇します。

あれ、動いてないワケじゃなくて、中身は一生懸命動いてるんです。

身体と衣裳の隔たりが大きいので、中の動きが外まで伝わってないんです。

それを伝える為には普段の何倍も大きく動かなくちゃいけません。

日常通り→棒立ちに見える
日常の2倍→普通に見える
日常の3倍→元気に見える

こう言っても言い過ぎではないと思います。

それを『練習無しでも出来る』なんて考えてる方が分かってないのです。

実際そーゆー事を言ってるアクションメンバーが、キチンと演技出来てたためしはありません。

アクションだろうがメルヘンだろうが演技は難しいんです。

(僕は立ち回り=演技だと考えてるので、演技が下手な奴は立ち回りも下手だと思ってます)

そんな考え方が蔓延していたせいか、僕がいたチームではアクションの練習は行われていたのにメルヘン練習はありませんでした。

火曜日=空手
水曜日=アクション
木曜日=アクション

だったのです。

たま~に『メルヘン練習もやってみる?』なんて話が出た事もあったのですが…

『メルヘン練習!?メルヘンで何を練習するってんだよ!』

と馬鹿にした反応で終わり。

新人時代は僕もそう思ってたので同罪ですが。


しかし、実際その扱いに甘えてるメルヘンメンバーがいたのも事実でした。

なんたって
『練習しなくてもショーに入れてもらえる』
のです。

ギャラが出ない練習に来るのは時間がもったいない、

キツい練習はしたくない、

そんなプロ意識のないメンバーがメルヘンオンリーでショーに入る事も多かったんです。

当時メルヘンショーのリハーサルでよく見た光景…

学校帰りの女の子達が、ジャージに着替える事もなく『学校の制服のまま』キャーキャー騒ぎながら、1時間ぐらいでリハを済ませてキャーキャー去って行く…

こんなメンバーが多かったのでますますアクションメンバーからは蔑まれたのでしょう。


蔑まれたからこうなったのか、こうだから蔑まれたのか分かりませんが、これは会社がキチンとシステムを作るべきだったと思います。

一生懸命頑張ってたメルヘンメンバーだってたくさんいたのに、そんな扱いのままでは報われません。


~つづく~


※メルヘンでも『大きくない衣裳』というのはあります。
某女の子向けアニメのあの娘達とか。

でも、3次元を再現する特撮ヒーローと違って、2次元を現実化するメルヘンキャラは、『アニメの動き』を再現しなくちゃいけないんです。

これはホントに匠の技だと思います。
2010-11-29(Mon)

小説・さやか見参!(17)

山吹の砦には相変わらず爽やかな風が吹いていた。

砦から少し離れて下るとさほど大きくない池がある。

その池の淵に、桜色の装束を着けた女の子が座っている。


―くちなわとかすみの惨劇が起きて数日経っていた―


女の子、山吹さやかは水面と太陽の動きを交互に眺めている。

どうやらかなり長い時間そうしているようだった。

やがて、
水面にたけるが顔を出した。

ぷはぁ、と息を継ぐ。

『おにいちゃん!!』

さやかは兄が戻ってくるのを待ちきれずはしゃいだ。

『おにいちゃん!すごいすごい!いつもよりずっと長かった!!』

『うん。こつを掴めたみたいだ。これなら半日は軽くいけるな』

事もなさげに答える兄をさやかは尊敬の眼差しで見つめた。

今たけるが行なっている修行は、山吹流では『調息』と呼ばれているものだ。

簡単に言えば、長時間呼吸を止める技術、という事になるだろうか。

身体内部を仮死状態に近付ける事で酸素の消費量を極端に少なくするのだ。

この調息は本来、地中水中に潜み敵の動向を探る為の術である。

この術を会得するには、まず浅い水中(もしくは土中)に仰向けになり、竹筒で呼吸する所から始まる。

慣れるに従って徐々に竹筒を細くし、空気の出入りを少なくしていく。

それを続ける事で、やがては竹筒無しで水中、土中に潜む事が出来るようになるのである。

しかしそれとて肉体を動かした場合や精神的に動揺した場合は上手くいかない。

わずかでも興奮状態になると仮死を維持出来なくなるからだ。

しかしたけるは違っていた。

どう違うのか?

本来なら安静が絶対条件のこの術を、肉体を動かしながら成す事が出来たのである。

仮死の肉体を自在に操れるという矛盾を超越出来るたけるの技量とはいかほどのものか、
並の忍びには想像もつくまい。

このような離れ業をやってのけるのは山吹の中でも、いや、十二組の中でも山吹たけるただ一人であった。

たけるの修行法は自らが編み出したもので独特である。

全身に重りをつけ水底に沈み、山吹に伝わる剣術の『型』を繰り返し練るのがたける流だ。

呼吸を止めながら動くという鍛練といえば簡単だが、言うは易し行なうは難しである。

この方法なら、演じた型の回数で潜水時間を測る事が出来るので、誰にも知られず一人で行なえるという利点もあった。

改めて言うが、忍びの術は人に知られぬが鉄則なのだ。
2010-11-28(Sun)

アクションへの道(115)

キャラクターショーの日常風景。

現場が終わって道場に戻ったチームは、まず洗濯をして衣裳を干します。

1日2ステージを終えた衣裳は汗で大変な事になっているから必ず洗濯するのです。

ゴールデンウィークのような連休の場合、毎日毎日ショーがあるので、毎日毎日洗濯して干す事になります。

そして毎朝、出発時間より少し早く来て衣裳を取り込んで車に積み込んでから現場に向かうのです。

1995年ゴールデンウィーク最終日。

この日の我々もやはりそうやって出発したのです。


そして他県の現場に到着してから衣裳チェック。
(前も書きましたが、この時期は出発前のチェックがなかったのです。
現地に着いてからじゃ遅いのにね)

何と…

僕が苦労して作った忍び装束がありません。

『えっ!?えっ!?なぜっ!?』

実は出発前に

『どこにあるんだろー?』

とは思っていたのです。

でも道場に見当たらないから、

『若手が積み込んでくれたんだろうな』

と思い込んでいたのです。

あれがなかったら、ストーリーの見せ場『替わり身の術』(前回参照)が出来ない!!

その日、同じ事務所の仲間がショーを観に来ると言っていたのを思い出し、公衆電話から連絡(まだ携帯はなかった)。

『道場に寄って忍び装束持って来て!!
黒くてさ、柔道着みたいに折り畳んで帯で巻いてあるから!!』

しかし、ショー前にやって来た仲間の手に忍び装束はありません。

道場を探してもなかったらしいのです。

どこに…

どこに消えた!?

…結局『替わり身の術』は…


レッド斬られてハケ。

悪ボス『レッドを連れて来い!』

戦闘員A・B、戦闘員Cを連れて来る。

悪ボス『レッド!戦闘員に化けて逃げようとしても無駄だ!』

とどめを刺されて息絶える戦闘員C。

レッド登場。

レッド『はっはっは!替わり身の術だ!』



…なにが『替わり身の術』なのかさっぱり分かりません…

がっかりです。

The がっかりショーです。


そんなショーを終えて道場に帰った我々は、何と、道場の片隅に忍び装束を発見します。

『こんな所にあるなら探しても見つからないハズだよ!』

って場所でした。

『なんで!?なんでこんな所に!?』

その光景を見ていた後輩が言いました。

『それ、内野さん達の衣裳だったんですか!?』

後輩は昨夜から今朝にかけての出来事を語りました。



昔はショー前日に『遅刻対策』として道場に泊まる者が多かったのですが、昨夜泊まった中に、ものすご~~~~~く生意気な新人がいたらしいんです。

そいつが寝る時に忍び装束を発見し、

『枕にちょうどいいや』

と言って枕にしたらしいのです。

周りの者は、それが衣裳だとは知らないので止めませんでした。

そして朝、起こされた新人は、枕代わりに使った忍び装束を道場の片隅に放り込んで(本人は片付けたつもり)出発したという事でした。

僕は
『次に会ったら殺してやろう』
と誓いました。

翌週の日曜日、朝。

その生意気な新人が現場に入ってる事を知っていた僕は、朝から道場で待ち構えていました。

ふざけた新人をぶん殴って辞めさせる事は合法的処置なのです(嘘)。

集合時間10分前…

集合時間5分前…



集合時間…5分後…


えっ???


集合時間15分後…

あいつ来ねぇじゃん!!


家に電話するけど誰も出ません。

いわゆる『ぶっちした』『ぶっちぎった』と言われる状態です。

仕方なく代役として別のメンバーが連れて行かれました。

ぶっちの代役は大変です。

ショーの段取りを全部、朝の短い時間で覚えなくちゃいけないからです。

イベントの現場に『ドタキャン』『ぶっち』は有り得ないのです。


僕はそいつを殴り損ねてしまいましたが、『ぶっち』して消えていくのも生意気な新人にありがちな結末ですから

『まぁいなくなって清々した…と思うか』

と自分に言い聞かせて納得しました。


ところが、
しばらくしてギャラの支払日…

そいつはゴールデンウィークのギャラを貰いにのこのことやって来たのです。

『お疲れース』

普通にやって来たのです。

よくもまぁ顔を出せたな!?

その場にいた全員が驚愕を隠せません。

『お、おまえ、この前の…』

『あぁ、こないだはマジで大変だったんスよ。
俺はショーに行こうと思ってたのに、朝から昔の先輩達がウチに押しかけてきて、手足しばられて無理矢理ドライブに連れてかれたんスよ。
マジ大変だったっスよ』

ノリノリで語る彼を見て、全員の目が殺意に燃えました。

彼がその後どうなったのか…


僕は知りません。


ホント、色んな新人がいるもんですな。
2010-11-28(Sun)

小説・さやか見参!(16)

くちなわは問う。

『次はどうする?足を鳴らせば足を斬る。歌を歌えばのどを裂く』

かすみは鮮血したたる両腕をぶらりと下げ、それでも気丈だ。

『こうなっちゃもう伝える事もないさ。あたしが死んで終わり。荊木流頭領ミズチと刺し違えるんだからね、上出来だよ』

『なぜ…』

くちなわは語尾を飲み込んだ。

『なぜ?なぜこんな事をしたかって?ははっ!おまえさん、おかしな事を訊くねぇ。』

かすみはくちなわの眼を見据えて言った。

『任務だからでしょ。与えられた任務はただ実行する。それが忍びってもんじゃないか。あたしはあたしの仕事をしただけだよ』

『違うっ!!』

くちなわが声を荒げた。
かすみが真顔に戻る。

『おまえが一角衆のくのいちだという事は分かった。
ならば任務をこなすのも当然…ただ…』

くちなわは言い淀んだ。
核心に触れるのが怖いのだ。

『なぜ俺を裏切った?おまえの心に、俺にすまないと思う気持ちはあるのか?』

胸のつかえを一気に吐き出す。

『おまえと出会ってから数十年、俺は、おまえとは心が通じておると思っていた。俺の心も全て預けたつもりだ。良い想い出もツラい記憶も共有してきたはずだ。それなのにおまえは俺を裏切って平気だったのか?おまえの心に葛藤があったのかどうか、それが俺は知りたい』

懇願するようにまくしたてるくちなわは悲痛な面持ちをしていた。

『葛藤があったのなら、俺も少しは救われる』

くちなわは真顔でかすみを見つめた。

かすみも真剣な顔でくちなわを見ていた。

…が、やや上目づかいのその顔はまた意地の悪い笑顔に戻って

『おまえさんは忍びに向かない男だねぇ』

とつぶやいた。

『葛藤?任務を遂げるのに何の葛藤がいるんだい?あたしゃあんたを愛しております、だから裏切れませんよぅ、って?』

くちなわはくちびるを噛み締めた。

『さっきも言ったろ?与えられた任務をただこなすのが忍びだよ。そこに葛藤なんてあるもんか。あたしはね』

かすみはくちなわに顔を近付けて言った。

『おまえさんと出会って、おまえさんを裏切るのが任務だったんだよ』

妖艶に笑う。

かすみは舞うようにくちなわから離れた。

『そうさ、ただのお役目。だから後悔も葛藤もないのさ。もちろん、愛もね』

『おまえさんはよくあたしに言ったね。好きだとか愛してるとか。少なくとも一角ではこう言われてるよ』

ぴたりと動きを止めてくちなわを見据える。

『愛だの恋だの語る忍びは三流以下だ、ってね』

くちなわは、何かを振り切るように眼を閉じた。

かまわずかすみは続ける。

『だからおまえさんの愛の言葉を聞く度にあたしはこう思ってたんだよ。
あぁ、これは容易いね、って!あっはっはっはっは!』

かすみが感情を爆発させたように笑った。
小屋を取り囲んだ獣や鳥達も一斉に、あざ笑うように鳴いた。

瞬間、

くちなわの刃は、
かすみののどを貫いていた。
2010-11-27(Sat)

アクションへの道(114)

1995年のゴールデンウィークを振り返る。

ラスト(前編)です。

この時は前年の戦隊のショーをやったんですね。

前年の戦隊は『忍者』がモチーフだったんです。

で、テレビでは、変身前の俳優さん達がカッコいい忍び装束を着てたんですよ。

でも忍び装束だから、俳優さん達も『目』しか出てないんですね。

これは…

忍び装束を作っちゃえば、変身前が出せるって事じゃない!?

だって顔が見えないからバレないんだもん!


…えーと、
我々も出来れば変身前の俳優さんとかショーに出したいんですよ。

本物の役者さんが変身ポーズをして変身後が出てきた方がリアルだし盛り上がるじゃないですか。

でも俳優さんを呼ぶにはお金がかかるワケですよ。

だから呼びたいけど呼べないんですよ。

そんなジレンマの中…

『忍び装束なら変身前(っぽいやつ)が出せるんじゃね!?』

という発見は僕の胸を熱くしました。

…ってなワケで、さっそく一人で製作を始めたワケです。

今でこそ『さやか見参』の衣裳を造ってますが、この時が初めての『忍び装束製作』だったんですよ。

どうやって作ったらいいか分からないけど、とりあえず布と糸を買って…

ミシンなんか持ってないから手縫いで…

そしてどうにかこうにか完成!

出来は良くありませんが、遠目にはそれなりに見えるでしょう(遠目から見て大丈夫ならOKというスタイルはこの頃すでに確立されていた)。

さぁどう使う!?

そうだ!

レッドが敵の攻撃を受け、

『うわあぁ~~っ!!』

とハケる。

悪役のボス(僕)が

『やった!ついにレッドを倒したぞ!よし、とどめを刺してやる!レッドをここに連れてこい!』

と命じると戦闘員達が、変身解除されて忍び装束になったレッドを連れてくる。

『とどめだ…死ね!レッド!!』

悪ボスがレッドを斬る、斬る、刺す。

息絶えるレッド。

『レッドの最期の姿を子供達に見せてやれ』

戦闘員達がレッドの覆面を取ると…

その下には戦闘員の顔が!

『戦闘員!?どういう事だ!?』

うろたえる悪役達。

そこへ現れるレッド(変身後)。

『見たか!替わり身の術!!』


おぉっ!
これいいんじゃない!?
忍者っぽいし!

よし!
これならショーも盛り上がるぜぇ~!!



…と思ったのですが、
まさかあのような事態になろうとは…


そして、
補完への道は―


~つづく~
2010-11-27(Sat)

小説・さやか見参!(15)

まるで探るような鳥の声に、かすみは小さく反応した。

くちなわはそれを見逃さず、含みを持たせて訊く。

『どうかしたか?』

かすみは無言で、何事もないように首を横に振る。

鳥の鳴き声は二羽三羽と増えていく。

『せっかく静かになったと思うたに…空に囲いは作れぬからなぁ…』

くちなわは笑う。

一羽が鳴く、しばし黙る。
二羽目が鳴く、また黙る。

『鳥同士も会話するのであろうなぁ。
まるで返事を待って語りかけておるようだ。
はたして鳥どもはどんな話をするのであろうな?
鳥の言葉が分からぬのが残念だ。』

かすみは、

くちなわの一言一言に恐れおののいていた。

これはおそらく―

見抜かれている。

やはりミズチの元へ呼ばれたのはその事であったか。

だが、かすみは態度を変えるわけにはいかない。。

『おや』

くちなわが外をうかがうように視線を動かした。

『小屋の周りを何やら走っておるな。
この足音はイタチか。
はて…昨日までのやつはもうおらぬはずだが…
…という事は別のやつか。
この家にはイタチの好物でもあるのではないか?はっはっは』

笑顔を絶やさずに自分を追い詰めようとする夫にかすみは焦れた。

その様子を見てくちなわが言う。

『落ち着いて座っておれ』

くちなわとかすみは、黙って見つめ合った。

かなり長い間―

その視線の交わりに愛などなく、ただ―

お互いの腹を探り合う忍びの鋭さが火花を散らしていた。

そのかすみの表情が、

ふっ

と緩んだ。

かすみは観念したかのような笑顔で

『やれやれ』

と立ち上がり、早朝に使っていた小刀を手に取った。

外はもう陽が落ちかけている。

かすみはその小刀で、まな板を何度か叩いた。

そして

『獣どもに伝えたよ。…とうとうバレた、ってね』

『やはり…違う事を願っていたが…』

『あ~あ、やっぱりミズチにはバレたかぁ。おまえさんだけなら一生気付かなかっただろうね』

そう言って、またまな板を叩く。

『あたしの事がバレたんなら次の手を打たなきゃいけないからねぇ』

くちなわの腰から白刃が走った。

かすみの右手の指が刎ね飛ばされた。

五本の指と小刀が床に落ちた時には左の指も切り落とされていた。

かすみは一瞬、表情に恐怖を浮かべたが―

すぐに憎々しげに笑みを浮かべた。
2010-11-26(Fri)

アクションへの道(113)

ただでさえ荷物いっぱいでギュウギュウの戦隊ショー。

そのギュウギュウの一翼を担うのが衣裳(でっかい段ボール箱とでっかい布袋)なのですが、

では、もし、

このギュウギュウの状態で衣裳の量が倍に増えたとしたら…?

この問題分かる人!

はい、ジャスティン坂本くん、答えて!

『車に入らないと思いま~す』

そう!
正解だよ!
よく予習が出来てるね!


でも!

…無理矢理入れちゃうんだよ…
会社ってやつはね…


何故そんな事になったのか!?

おそらく…

ウチの営業がミスしたか、
現場先の百貨店が間違えて広告を載せたか、

…考えたくないけど、誰かが
『何とかなるやろ!』
と思ったか…

そんな感じの理由で…

午前…A百貨店で『今年の』戦隊ショー

午後…B百貨店で『去年の』戦隊ショー

というスケジュールを組まれていたのです。


狭い車内には『今年の』戦隊ショーの衣裳一式と『去年の』戦隊ショーの衣裳一式が載せられていたのです。

いかに修羅場をくぐりぬけてきた我々とて、

『おいこら!ちょっと待てや!!』

と言いたくなる状況です。

ホント、こんな事めったにないよ!?


まずは荷物が載りません。

我々は全員、膝の上に段ボール箱を抱えて福岡から長崎まで移動しました。

次の問題、

1回目と2回目でキャラクターが違います。

キャラクターが違えば動きも違います。

ストーリーだって微妙に変わります。

戦隊ヒーローの決めポーズを1つ覚えるだけでも大変なのに、1日に2つも演らなくちゃいけないんです…

もちろんポーズだけじゃない。

立ち回り、演技も当然加わります。

ステージが変われば演出も変わるんです。

これを…

新人ばかりでどうしろと!?

ある新人くん(男)なんか、この日だけで

怪人(ロボット)
ピンク(初めての女役)
怪人(妖怪)
ブラック

の4役ですよ!?

出来るだけ負担かけないようにベテラン勢で頑張ったつもりですが、それでも酷い扱いに変わりはない。

結局このチームの新人くん達は全員、ゴールデンウィーク終了と共に姿を消しました。



さて、結局いなくなってしまった新人くん達ですが、色んな個性が集まっていて勉強になりましたね。

異常にセンスが良く、新人のくせにやたら上手い奴、

やるべき事はキチンとやるけど、決して周りに合わせないマイペースな奴、


そんな中でもブルーに入ってた新人くんには本当に勉強させられました。

彼はアドリブが全く出来ないのです。

『何となく動く』事が出来ないのです。

なのでリハでは、

『合図したらステージの真ん中まで走って

真ん中に来たら止まってお客さんの方を向いて

そしたらステージの左側に敵がいるからそっちを指差して

そこで台詞を入れるから台詞の最後の『許さん!』が聞こえたら両手をグーにして胸の前でかまえて』

みたいな指導をしなくちゃいけなかったのです。


さて本番。

ブルーが登場し、ステージの真ん中に止まりました。

この時、本来は彼の左側にいるべき悪役が(何らかの状況判断で)右側に移動していたのです。

ステージ状況を踏まえてのこういったアドリブは往々にしてあるのです。

しかし彼は、

ブルーの彼は、

誰もいない左側に向かって指を差し、ファイティングポーズを取っていたのです。

ショーの後で

『左側には誰もおらんかったやん。あーゆー時はその場の判断で動きを変えていいよ』

と言ったところ、

『だって、リハーサルで左を指差せって言ったじゃないですか』

との事。

それを聞いて僕は目が覚めるような思いでした。

『とりあえず動ける』のは僕らが慣れているから。

『アドリブで動ける』のは僕らが慣れているから。

新人さんにはそれは高いハードルなんだ。

リハーサルで決められた段取りを新人の自分が勝手に変更しちゃいけないって気持ちもあるかもしれない。

そして何よりも、人には色んな個性があるんだって事に気がつきました。

彼みたいに、決められた事はキチンと出来るけど応用が利かないって個性もあるんだ。


それまでの僕なら、

『いくらリハーサルで左と言われていても、相手が右に動けば自分もそれに合わせるのが普通だろ!』

と思っていたかもしれません。

そして

『考えれば分かるだろ!?』

『分からないって事は考えてねーんだよ!』

『考えてねーって事はやる気がねーんだよ!』

『使えねー奴だなー!』

と考えていたかもしれないのです。

それは全部、『出来て当たり前』という自分の基準を押し付けていただけなんですよね。

それを気付かせてくれた新人達。

ほんの1週間足らずの付き合いだったけどありがとな。

過酷なゴールデンウィークにしちゃってゴメンな…




さて、実はこの日、
本当に使えねー新人のせいで僕らは酷い目に遭っていたのでした。


~つづく~
2010-11-26(Fri)

小説・さやか見参!(14)

『かすみ、とにかく座ってくれ』

穏やかながらも威圧するようなくちなわの声に、かすみは板の間に上がり座った。

くちなわもその向かいに腰をおろす。

微妙な距離だ。

めおとの距離ではないように思う。

くちなわは微笑んで、しかし一言も発さずにかすみを見つめている。

かすみは目に見えぬ槍に射貫かれたような錯覚を覚えて顔を背けそうになった。

『…おまえさん…?』

『喋らずとも良い』

かすみの言葉をくちなわは即制した。

『ただ、黙ってそこに座っていてくれぬか』

そう言われてはかすみも黙るしかない。

その困ったような、戸惑ったようなかすみの表情を見てくちなわは思う。

愛しい。

敵かもしれぬ、
裏切り者かもしれぬこの女を、自分はまだ愛しいと感じてしまうのか。

まっすぐに見つめる瞳、
小首をかしげる仕草、
膝の上で重ねられた細い手…

全てくちなわが愛してきた妻のままだ。

もしもこの女が敵であったなら…

いや、そうであって欲しくはない…

その逡巡がくちなわの表情を、泣きそうな、しかし嬉しそうなものにしていた。

微妙な距離を保ち、互いに複雑な表情で黙って見つめ合う二人…

いずれにしてもこれは、めおとが終わる瞬間の光景ではないだろうか。

耐えきれずくちなわが口を開く。

『いやぁ、なかなか骨が折れた。
獣や鳥どもの巣を探すのに手間取ってな。

そこらを走り回ってくれれば仕留めるのは容易いが、巣に潜んでおるものもいるからな。』

かすみは黙って聴くしかない。

『それにしても更に苦労するのは魚どもだ。

日中なら何と言う事もなかろうが、いかんせん夜の事。
水の中は見えづろうてな。
ミズチ様ならば水中の闇といえど自由自在…まだまだ俺も修行が足らん…

あの池が深うないのが救いであったわ。はっはっは』

一見軽口に聞こえるが、この一言一言が、じわりじわりとかすみを追い詰めていた。

腰を浮かせようとするかすみをくちなわが黙ったまま片手で制する。

かすみが腰をおろす。

『とは言え、鳥や獣どもはまた増えるのであろうな。
どこからともなく飛んできてこの山に巣くう。
別の巣を離れ、この地に棲み付く…』

そのままくちなわは黙った。

かすみも黙った。

長い、長い時が流れた。

そして―

永遠にも思える沈黙の果てに、

また鳥が鳴いた。
2010-11-25(Thu)

アクションへの道(112)

こないだの続き!

…って事で、1995年のゴールデンウィーク…

前回書いたようにこの時は

新人だらけの戦隊ショーでした。

現在(2010年)は違うみたいですが、当時の戦隊ショーは

アクター8名+スタッフ+MC(司会のおねぇさん)

で、合計10名という編成でした。

…で、移動はもっぱら

『ハイエース』

って車なんですけど、このハイエース、
『9人乗り』ならけっこう荷物も載せられるんですが、
『10人乗り』になると、荷物を載せるスペースがあまりないのですよ。

つまり戦隊ショーの移動はかなりギュウギュウだったワケです。

~ギュウギュウの内訳~

人間…10名
人間の私物…10個
でっかい段ボール箱(衣装)
でっかい布袋(衣装)
音響一式
それなりの大きさの段ボール箱…数個(販売用グッズ)

そんなんに押し潰されるようにして県外遠方の現場に行ったりするワケです。

『狭ぇよ!』

なんて言いながら。

ところがこの時、いつも以上に恐ろしい事態が…


~つづく~
2010-11-25(Thu)

小説・さやか見参!(13)

かすみが目を覚ますとすでに空が白々としていた。

夫の帰りを待ち疲れて、いつの間にか寝てしまったらしい。

くのいちらしからぬ…

かすみは自嘲した。

くちなわはまだ帰っていない。

昨夜みずち様に呼ばれて行ったきり、夜通し何の話をしているというのだろう?

胸騒ぎがした。

しかし…今はただ夫の帰りを待つしかない。

出来るだけ平常を装って。

沈黙が流れる。

時が止まったかのような焦燥感…


…沈黙?

そういえばおかしい。

獣が草を駆ける足音、仲間を呼ぶ鳥の声、池で魚達が跳ねる音…

いつもならば聞こえているハズの音が何も聞こえてこないのだ。

思わず外に飛び出したい衝動に駆られる。

しかし普段と違う行動をするわけにはいかない。

どんな小さな綻びも作ってはならぬ。

帰りが遅い夫を心配して表に出る。

これなら自然なのではないか?

そう考えて立ち上がり、外に出ようと戸に駆け寄る。

かすみの足に何かが当たった。

かがちからもらった白菜だ。

かすみはそれを手に取った。

小刀を使い、葉を2枚剥いで汲み置きの井戸水できれいに洗う。

水気を払い、まな板の上で小気味良く切る。

いつもの音。

かすみは手を止めて耳をすます。

やはり何も聞こえない。

もう一度小刀を動かす。

音―

耳をすます。

無音―

かすみはとうとう耐えきれなくなり、戸に手をかけた。

だがその戸は、別の者の手によって力強く開かれた。

暗い小屋の中に光が差し込む。

眩しい光を背に

抜き身を握りしめた

くちなわが立っていた。

その背後には

累々と獣達の屍が転がっていた。

『待たせたな、かすみ』

いつもの笑顔だ。

『おまえさん…これは、一体…?』

かすみは獣の骸と、そして血に濡れた忍び刀を見た。

『あぁ、何ということはない。
最近は修行中に獣達の声が耳に障ってな。邪魔にならぬよう静かにしてもらったのだ。
ミズチ様からは、それしきで心乱されるなど修行が足らん、と叱られたがな。はっはっは』

くちなわは懐紙で血をぬぐった刀を腰に納めた。

『おぅ、飯の支度中であったか』

まな板の白菜を見てそういうくちなわ。

『あ、すぐに』

再び小刀を取ろうとするかすみ。

『飯は後で良い』

くちなわが制した。

『まぁ座れ、かすみ』
2010-11-24(Wed)

小説・さやか見参!(12)

『我ら荊木の医術を盗む為…いや、まずは我らが解毒薬を探っておったに相違あるまい』

ミズチはもはや喋る事すら苦しそうだ。
だがその眼は執念に燃えている。

『解毒薬を?』

『さよう。わしの身体を蝕むこの毒、知っての通り荊木では解毒出来ぬものじゃ。
奴ら一角衆はかすみを使い、我らが持つ解毒薬を全て知ったのであろう。』

『…そして、荊木では対応出来ぬ毒を作り出し、この砦に撒いた…と?』

『確実にわしを殺す為にな。ありきたりな毒など我らに通用せぬ事を知っておるのだ、一角衆は。』

『…信じられませぬ…かすみが荊木に来た時はまだ4つか5つ…そのような昔から…』

『くちなわ、一角衆を侮るな。奴らは我らとは全く違う世界に生きておる。油断すると、地獄へ引きずり込まれるぞ。…わしのようにな…』

ミズチは深く呼吸をして、遠くを見た。

『…ミズチ様、今日はもうお休み下さい…』

くちなわはそう言うのがやっとだった。

敵の術中に嵌まり、まさに命のともしび尽きようとしている我が師の姿。

それに荷担しているかもしれない我が妻。

何を、どう考えれば良いのか…

すでに陽が暮れていた。

くちなわがみずちの屋敷を出るとふくろうが鳴いた。

いつも以上に耳につく。

『全ての音を疑え』

という師の言葉が引っ掛かっているのだろう。

池の淵を通ると水音がした。

それすらも気になって―

くちなわは妻の元へ帰るのをためらい、社の石段に座った。

つぶれたような声で蛙が鳴く。

確かに…

荊木の医術について、くちなわはかすみに何度か話した事がある。

あれは、何気なくかすみから訊いてきたのではなかったか。

もし、かすみが本当に一角衆の間者ならば、
秘伝をぺらぺらと喋った己こそ一番の罪人ではないか。

それだけではない。

ミズチとかがちが留守の際、屋敷をかすみに任せた事がある。

あの時ならミズチの持つ伝書を調べられたのではないか。

あれもかすみを推したのは自分だ。

全ての元凶は自分だったのではないか。

師の教え通りに感情を殺す事が出来ず、愛に溺れてしまった我が大罪…

いや、

まだ妻が間者だと決まったワケではない。

ならば確かめよう。

確かめて違うと確認出来れば良いのだ。

だがどうやって?

ミズチは言った。

全ての音を疑え、と。
2010-11-23(Tue)

アクションへの道(111)

最近は実の弟も読んでくれる『アクションへの道』。

ふと1995年の話を思い出したので遡っていいですか?

OKですか?

ありがとうございます。


1995年のゴールデンウィークの話です。

この時は前年の戦隊のショーでしたが、ゴールデンウィークにありがちな新人さんだらけのチームでした。

レッド、ホワイト、怪人以外は新人だらけ。

言い方を変えると、ブルー、ブラック、イエロー、戦闘員2名が新人って事です。

この状況はかなりツラい…

いくらなんでもパッケージは無理だと言う事で、僕のしゃべりショーにしてもらいました。

しゃべりショーならある程度は対応出来ます。

ある程度は対応出来る…事を前提にしゃべりショーにしてもらったのに、何故か僕のサービス精神が大爆発!

色んな盛り上がりポイントを作ってしまって、意外に難易度の高いショーになってしまったのです…

青い戦闘員が、早着替えで赤いタイツを着て登場するシーンがありました。

そこで僕が時間配分を間違えてしまい…

『いでよ!戦闘員!』

と呼んだら…

背中のファスナーを閉めるヒマもなく…

手袋、ベルトを着けるヒマもなく…

ブーツのファスナーを閉めるヒマもなかった戦闘員が慌ててステージにやって来ました…


ガーン…
ごめん…みんな…

そしてクライマックス…

ヒーロー登場シーン。

ここでは戦闘員からヒーローへの早着替えがありました。

『え~い、姿をあらわせ!●●●ジャー!』



ヒーローは登場しません。

僕は控え室になっているテントを見ました。

テントの中がざわついているのが分かります。

これは…

着替えが間に合ってない!

つまり…

また僕が時間配分を間違えたのです!

な、なんとか時間稼ぎしなければ!

しかしBGMは無情に流れていきます。

(※昔このブログで説明しましたが、僕のしゃべりはストーリーにそってBGMを編集しているので、時間の調整が出来ないのです)

この時に僕が見たのは…

控えのテントが…

『サザエさん』の…

まるで、『サザエさん』のエンディングのラストのように…

サザエさん一家が飛び込んだ家のように…

バッタンバッタンと揺れる風景!!

そして中からリーダーの

『もういい!出ろー!!』

という叫びが聞こえて…

ステージにあらわれたヒーローは…

本来は背負ってるハズの刀を片手に握り締めていました…


刀を背中に装着する時間がなかったのです…

これは…




これはあかんやろ!!

僕は自己嫌悪で崩れ落ちそう…

絶対レッド役のリーダーにぶっ飛ばされる…


終わってみんなに謝る僕にリーダーは言いました。

『内野だけの責任じゃないよ。
全部内野1人に任せっきりにせんで俺もチェックすれば良かったね。
2回目は改善して頑張ろう』

珍しく優しいリーダーの言葉に余計に申し訳なくなって涙を流す僕なのでした…


そして2回目のショーは構成を変更してバッチリ成功させました。

教訓!
無理をしてリスクを背負うぐらいなら、無理せずやれる範囲の事をやろう!
2010-11-23(Tue)

小説・さやか見参!(11)

『くちなわよ、わしは今から、おまえにはつらい話をせねばならん。

この話を聞いても、おまえは納得せんじゃろう。

感情を殺せぬおまえの事じゃ、
おそらくは怒りにはらわたが煮えくり返るやもしれぬ。

だが、
黙ってわしの話を聞いてくれぬか。

わしはもう長くはない。

わしの後はおまえに荊木流を託す。

だが今回は、頭領としてのわしの話を聞いてくれぬか』

くちなわは耳を疑った。

ミズチの、こんな弱々しい言葉を聞いた事はなかったからだ。

これは誰とも分からぬ別人ではないのか?とさえ考えた。

実際ミズチが持ち直す可能性は低い。

時間の問題だ。

だが今は悲しみよりも、ミズチの症状を研究し、解毒薬を作り出す事が先決であった。

『もちろんです。ミズチ様』

くちなわは平静を装って、低く落ち着いた声で答えた。

『おまえの妻、かすみ…あの女は、一角衆の間者だ』

『な…』

さすがに動揺を隠せずに声をあげる。

『何をおっしゃいます!?
かすみとは連れ添うて…いえ、出会ってからの全てを知っておるほどの間柄!

長年見ておりますが、妻に怪しむ所などありませなんだぞ!?』

『どう思ってもかまわん。だがとりあえず聞いてくれ。
今回の件で分かった。これは一角衆のやり方じゃ。』

『一角衆とは、修験道から派生したと言われている宗教まがいの忍び集団ですな。
妻が…かすみがその一角衆の間者ですと?
ミズチ様、確証があってのお言葉でしょうな!?』

『一角衆の狙いは我ら荊木流じゃ。

我らが狙われたという事は、山吹や他の流派にも手が及んでいるかもしれぬ。

奴らの計画は実に巧妙じゃ。

わしを殺し、荊木流を潰す為に、かなり昔からじわりじわりと企てを進めておったらしい。

おそらくはくちなわ、おまえが生まれた辺りまでさかのぼるぞ』

『そのような頃から!?』

『一角衆とはそのような連中じゃ。

かすみは一角衆に産まれたおなごじゃろう。

赤子の頃より子守歌代わりに暗号獣語の類いを聴いて育ったのであろうな。

くちなわ、かすみの発する他愛もない音、言葉、決して聴き漏らすな。
かすみの周りの音は、風の音、鳥の声、蟲の羽音、全て疑え。

他者には決して分からぬような暗号のやり取りになっておる』

『しかし…だとしたら、かすみは一体何を探っているのです!?』
2010-11-22(Mon)

打ち合わせ

来月のショーの打ち合わせで福岡に行ってきました。

とても良い環境でショー出来そうです♪

でも披露宴なので一般の方は観る事が出来ません♪
2010-11-22(Mon)

アクションへの道(110)

何度も書くように、1996年頃から僕の記憶もあやふやになっている。

なので時々、エピソードの時系列が無茶苦茶になる事があるがお許しいただきたい。

思い出した順番で書かせていただきます。


あれは大分県だったかどこだったかの戦隊ショー。

僕は怪人役でした。

怪人の衣装というのは何種類かありまして、状況によってはいつもと違うものを着る事になったりします。

その時の怪人の衣装ときたら、とにかく頭がでかい。

そして視界がすこぶる悪い。


『着ぐるみの視界が悪いなんて当たり前だろう!!』

と言われるかもしれません。

そんなこたぁ百も承知ですたい。

中にはプロもびっくりなぐらい視界が悪い衣装もあるワケですよ。

新人さんなんかだと戦闘員やヒーローの面を着けて

『えっ!こんなに見にくいんですか!?』

なんて驚いたりしますが、あんなんは僕らにとっちゃ何も被ってないのと同じですよ(言い過ぎ)。

まぁとにかく、着ぐるみ慣れしてる僕らでもとまどうぐらいの視界の悪さだったんです。

こーゆー面って、止まってる時はかろうじて外が見えたりするんですけど、動いたが最後、狭い覗き穴の外の景色がぐるんぐるん動いて、何が何やら分からなくなっちゃいます。

当然立ち回りの最中なんか何も見えてません。

ではそーゆー時、我々はどうやってショーをしているのか?

一瞬止まった時に見えた状況を記憶して、後は『勘』で動くんです。

『ステージのこの辺りにこっち向きに立ってたから、5歩進んだらステージから落ちちゃうな』

とか

『敵があの辺りにいたから、この辺りに蹴りを出したらちょうどいいな』

とか。

そしてリハーサルで掴んだ感覚を頼りに動くのです。

この場合大切なのは動きの順番だけじゃなくて『距離』と『テンポ』。

例えば、周りが見えない状態でパンチを打つ。
相手が受け止める

この受けられた感覚で距離を測ったりするんです。

『手首を受けられたから遠かった』

とか

『おぉっ、二の腕や!近過ぎた!』

とか。

そうやって微調整していくのです。

このショーでは怪人とイエローの1対1の立ち回りがありました。

イエロー役はそれなりにキャリアのある女の子です。

見えないながらもお互いを信じて激しいアクション!

蹴りで交差し、じわじわとイエローを追い詰めていく怪人。
イエローの起死回生のパンチがヒット!
吹っ飛ぶ怪人!
イエローは追撃の手をゆるめず怪人を投げ飛ばす!
クルン!ドスン!と背落ちする怪人!
だが、倒れた体勢から反撃!
ついには渾身の一撃でイエローを吹っ飛ばすのであった!!



そんなこんなでショーも終わり、事務所に戻ってビデオを観る事に。

テレビ画面の中のショーは順調に進み、メンバーみんな笑顔で鑑賞しておりました。

しかし1人だけ表情の曇った女の子が…

それはイエロー役の子だったのですが、彼女はイエローと怪人の1対1のシーンが近付いた時につぶやきました。

『うあぁ…観たくない…』

僕は言いました。

『どうした?失敗した?いいよいいよ。大丈夫と思うよ~』

アクター本人からしたら大きなミスでも観客には分からない事が多々ありますから、その類の失敗だと思ったワケです。

…で、1対1が始まりました。

『な…なんじゃこりゃ…』

なんと、イエローは立ち回りが始まった瞬間に段取りを忘れて立ち尽くしてしまっていたのです。

つまり僕は…怪人は、1人で動き回っていたのです。

誰もいない空間に蹴りを出す怪人!

誰もいない空間にじわじわと迫っていく怪人!

何故か突然吹っ飛ぶ怪人!

何故か突然、クルン!ドスン!と背落ちする怪人!

誰もいない空間に渾身の一撃を放ち勝ち誇る怪人!

それを遠くからジッと見つめているイエロー…


オマエは…


オマエは超能力者か!?


僕がそのイエローの子をさんざっぱら怒ったのは言うまでもありません。

しかし内心思っていました。

『これは…面白い。後世に語り継いでやろう(ニヤリ)』

…と。
2010-11-22(Mon)

久しぶりに自主練

ホント久しぶりに公園で1人練習しました。

とは言っても大した練習でもなく、木刀の素振りと型をやって、蹴り技を少々…

本当は蹴りをみっちりやるつもりだったけど、意外に周りに人が多くて、恥ずかしかったのですぐやめてしまいました。

でもその中で新たな発見が。

『ん?…俺は右の蹴りと左の蹴りでは身体の使い方が全然違うぞ!?』

アクション始めて丸20年になろうかというのに今さら気付くのか!?

とも思いましたが、おそらく右の使い方が近年変わったんだと思います。

体重移動がいい感じ♪

格闘技の蹴りとしてはどうか分かりませんが、演技の蹴りとしては好きな動きです。

それに引き換え左はスムーズさがない。

体重移動や身体のひねりが右とは違うんだな…

よし!
これから左右同じに動けるように練習だ!
2010-11-22(Mon)

小説・さやか見参!(10)

だが、ミズチは

『かすみはいずこからか送り込まれた間者である』

という確証を得る事が出来なかった。

病に倒れたのである。

いや、正確には病ではない。

毒を盛られたのだ。

ミズチほどの上忍に毒を盛れる者がいるのだろうか?

実は、ミズチの身体には長い年月をかけてわずかな毒が蓄積していたのだ。

かすみのしわざか?

かすみにそれほどの手腕はあるまい。

やはり『かすみを送り込んで来た者』のしわざだ。


荊木の砦の最も奥まった場所にミズチの屋敷はあった。
山から吹き下ろす風はみずちの屋敷を通ってから砦全体に行き渡る。

その山に―
毒を染み込ませた者がいる―

長い、長い年月をかけて―
誰にも気付かれぬほど、少しずつ、少しずつ―

湿った大地は徐々に侵され、朝日を受ければ毒のもやを発生させた。

植物は毒水を吸い上げ、毒の花粉を吐いた。

こうして荊木の砦と忍び達は気付かぬ内に蝕まれていたのである。

超感覚を持ったミズチは気付けなかったのだろうか?

全く気が付かなかったのだ。

植物が枯れる事もなく、生物が命を落とすワケでもない微量の毒。

大自然が気付かぬものには忍者といえど気付けない。

己は自然の一部と悟る所から忍びの修行は始まるのだ。

だが―

そんなわずかな毒でも蓄積されれば威力を発揮する。

風上で常に毒風を浴びていた老忍が変調をきたしたとしても仕方のない事であった。

当然ながら、かがちやくちなわ、他の者達も毒に侵されてはいたのだが、この場合ミズチの『神懸かり的に鋭敏な肉体』が仇になったと思われる。

宇宙と一体となり、あらゆる事象を感じ取れる程の鋭敏さは、害をなすものに気付かなかった場合、弱点となる事もあるのだ。

ミズチは身体の変調に気付いてすぐに毒の対処に当たった。

医学薬事に優れた蛇組をして、それは簡単かと思われたのだが…


この毒に効くものは見つからなかった。

全く白紙の状態から解毒薬を作り出さなければならなかったのだ。

これには時間がかかる。

まずは使われた毒の成分から調べなければ。

ミズチは己の身体を実験材料として新薬の開発に当たった。

そんな中、ミズチはくちなわを呼んだ。

今や寝たきりに近いミズチは、朽ちた老木のようにも見えて、くちなわは言葉を失った。

ミズチは、唇をわずかに震わせて語り始めた。
2010-11-21(Sun)

アクションへの道(109)

前回の『アクションへの道』、
チームリーダーを車に置き忘れた事件…

1996年のゴールデンウィーク?と思ったけど違うっぽい。

多分1997年だ!

勘違いして1年早く書いちゃった…


ゴールデンウィークの時期は、その年の新しいキャラクターと前年のキャラクターが混在してたりして記憶がごっちゃになるのですよ…


1996年のゴールデンウィークは戦隊のショーだった気がしてきました。


以前も書いたけど、ゴールデンウィークはメンバー命。

連日同じメンバーでショーをするので、メンバーが良ければ楽しいゴールデンウィークになり、良くなければ楽しくならない…

そんな感じでした。

この年は…?

良くもなく悪くもなく…?

大先輩とかなり下の後輩に挟まれてる感じで、

『あぁ、間に入ってチームをまとめる役割なんだな』

と思いました。

実際そーゆー立場は嫌いではありません。

チームが出来るだけ楽しい雰囲気になるに越した事はないので、自分の努力で少しでも良くなるなら望むところです。

ただ、この年はバイトとショーの往復で疲れていて、なかなか本領発揮出来ませんでしたが…


そういえば、

この時の僕は怪人役で槍を使っていたのですが、
ショーの直前、しかも自分の出番の直前に、みんなのテンションを上げようとふざけて槍にまたがり『ロデオごっこ』をして槍が折れるというハプニングが。

メンバーみんなの

『あ~~~っ!!』

という声。

3分の2ぐらいに短くなる槍。

立ち回りは困りゃしませんでしたが、短い槍じゃ見栄えは悪い。


馬鹿なミスをしましたねぇ…

ショーの直前にふざけすぎて大変な目に遭ったといえば2007年にも事件があったのですが…

それはこのシリーズがそこまで進んだら書きますね。

テンション上げ過ぎにはご注意を!!
2010-11-21(Sun)

小説・さやか見参!(9)

ミズチは自らかすみの様子を探った。

かすみの巧妙さは配下の忍びでは見破れぬかもしれなかったからだ。

かすみはこれほどの手練れであったか?

いや、
幼き頃より見てきたが、決してそうではない。

おそらくかすみはただ命じられたままに動いているだけだ。

この状況を仕組んだ者こそ手練れなのだろう。

と言う事は、荊木に拾われた時点で何やらの企てが始まっていたという事か。

だとしたら、見抜けなかった自分自身の責任だ。

ミズチは己を責めていた。

もしこれが事実だったとしたら、くちなわは何と思うだろうか。

くちなわが妻を、かすみを心から愛しているのは分かっている。

ならば、その愛する妻が自分を裏切っていたと知った時―
くちなわの精神はどうなってしまうのか。

ミズチはそれを案じた。

夜明け前―

屋敷の中でミズチは静かに座し、心を虚空とした。

これで外界の全てがありのままに入ってくる。

屋敷の壁の向こうから気配が伝わる。

みずちの屋敷の南側、
畑を兼ねた小さな庭の向こうにはそれほど大きくない池がある。

今のミズチには、畑で蟲が跳ねるのも水面をみずすましが滑るのも目に見えるように分かった。

池の隣りには蛇神を祠った社があり、その裏手にくちなわとかすみが暮らす小さな小屋がある。

ミズチは虚ろになった精神を宇宙と直結する。

あらゆる現象がはっきりと脳裏に像を結ぶ。

小屋の戸が開いた。
驚いてイタチが逃げる。

くちなわが小屋から出て社に向かう。

いつもの如く朝の修行だ。

夜明けを感じて気の早い鳥が鳴く。

かすみはいつものように食事の支度を始める。

軽やかな鼻歌。
大根葉を切る小刀の音。

社の前でくちなわが立禅を始める。

静かな呼吸。
意識が鎮まっていくのさえ伝わってくる。

池で魚が水音を立てた。

一見すれば穏やかな朝の風景。

しかしミズチは気付いていた。

イタチの駆ける音、
鳥のさえずり、
鼻歌、小刀の音、
魚の上げた飛沫…

それらこそが、かすみと何者かのやりとりなのだ。

みずちはいち早くくちなわに伝えたかった。

だが今は言えぬ。

探られている内容が分からぬからだ。

それなりの確証を突き付けねばくちなわは納得すまい。

そして諦める事も出来まい。

何としても確証を見つけなければ。
2010-11-17(Wed)

小説・さやか見参!(8)

暑さや寒さは目には見えぬ。

時の流れもまたしかり。

ただ、それらを一身に受けた木々は愚直なまでに姿を変える。

12組の忍び達を取り巻く風景は一巡りしていた。


荊木流のくちなわが己の妻を殺したそうだ。


痛ましい事件は、季節の移ろいを運ぶ風と共に一瞬で広まった。

12組を束ねる龍組の長である武双の元にもその報告はいち早く届いた。

武双は思い返す。

善きにつけ悪しきにつけ、まっすぐにしか物を見る事の出来ぬ不器用な蛇組の上忍を。



くちなわには十数年連れ添った妻がいた。

なれそめまでは知らぬ。

しかしかつて荊木流頭領ミズチが語った所によると ―

2人の出会いは、くちなわがミズチに拾われて間もなく。

つまり幼少の頃だ。

後に妻となる少女 -名を『かすみ』という- も、荊木に拾われた1人だ。

2人は同じ境遇だったのである。

厳しい修行の中でくちなわが腹を割って話せるのはかすみしかいなかった。

またかすみもくちなわにだけは本音で語った。

決して弱音を吐かぬくちなわであったが、かすみの前ではそれを晒した。

夢を語る事もあった。

忍びとして捨てたはずの感情も全てかすみには見せていたのである。

そしてかすみはそれを受け入れ、くちなわの唯一の拠り所となっていた。

武双は思う。

もっと出会いが遅ければ…

せめてくちなわがそれなりの忍びとなり、感情を殺す術を知ってから出会っていれば…

これほどかすみを頼らずに済んだであろうに…

自制の利かぬ幼少時に出会ったが為に、かすみに対する障壁が形成されなかったのだ。

忍びたる者、身内すら疑う慎重さが必要だというのに…

やがてくちなわは、うろこと呼ばれる下忍から中忍を経て今の地位に昇格した。

そしてそれを機にかすみを娶った。

十八の時である。

くちなわがいかにかすみを大切にしていたか、それを知る者は少ない。

妻となってなお、くちなわにとってかすみは唯一の拠り所だったのである。

この頃、さしものミズチもかすみを疑う事はなかった。

だが年月が経つにつれ…
かすみの行動に不審を抱くようになっていたのである。

一見すると怪しむべき所などない。

しかし近年のかすみは、ミズチほどの忍びが見れば充分怪しむに足る女に変わっていたのである。

ミズチは確信していた。

かすみは他流派から送り込まれた間者だと。
2010-11-16(Tue)

アクションへの道(108)

最近は小説に力を入れ過ぎてなかなか進まない『アクションへの道』…

なぜ進まないのかと言えば、この時期ぐらいから僕の記憶があやふやになってくるからでして…

特にこの1996年は色々と充実していたのでエピソードの特定が難しいのです。

それじゃ今回は(今回も?)どーでもいい話を…


ゴールデンウィークだったかな…

山口県の現場だったかな…

中堅メンバー達とメタルヒーローのショーに行ったワケですよ。

チームリーダーも中堅メンバー。


…で…


ウチのチームでは中堅とか若手のメンバーってのは移動の車で寝ちゃうんですね。

前日も遅くまで飲んでたり徹夜で遊んでたりするし。

『車で寝りゃいいや』

って思ってるんですな。

車に乗り込んでワ~ッと騒いで、朝ご飯食べて寝る。

これが若さでございます。

ベテランはテンションを上げ過ぎず下げ過ぎず、常に体力を維持しつつも周りに気を配ってるので寝ないんですよね。

ちなみに僕は車内では寝ない主義。

前日に遊んで徹夜とか飲んで夜更かしとかありえない!!

そんなんはショーへの冒涜だ、と思ってます。

ま、それは置いといて…


現場に到着して荷物(音響や衣装)を降ろしてチェック…

あれ…?


衣装の手袋がない!!


今でこそ当然のように出発前にチェックしますが、当時はそんな風習なかったんですよ。

なので現地に着いて大慌て…なんて事がざらにあったのです。

あっちこっち探すけど手袋はありません。

他の衣装に紛れ込んでないか!?
いや、ない!

衣装を積み込んだ社員さんに電話しますが間違いなく入れたとの事…

ヤバい…

あ、車の中に落ちてたり?
車内を探してみる?

探しに行こうかと思いましたが、駐車場はものすご~~~~~く遠い場所。

誰も行きたがりません。

仕方ない!みんなで行こう!!


…なんて言ってると…


あった!ありました!!

えっ!?どこに!?

段ボール箱の隙間に挟まってました!!

ふぅ~、良かった…


社員さんに電話で報告。


よし、衣装チェックも終わったところで場当たり(※ステージ上でのリハーサルのようなもの)やるぞ!!
チームリーダー!進めてくれ!!

…ん?

…リーダー?

…リーダー??


…リーダーがいない!!

どこだ!?

リーダーはどこに消えた!?

よく考えたら…

手袋騒動の時、リーダーの姿を見たか…??

まさか…




我々はず~~~~~っと遠くにある駐車場まで歩き、車内を覗きました。


zzzz…



リーダー寝てるやん!!!


そうです。
彼は現地に着いても目を覚まさなかったのです。

そして誰にも気付かれないまま駐車場に置き去りにされていたのです。

我々が手袋を探して大騒ぎしてる間も熟睡かましていたのです。

…オ・マ・エ・なぁ…
起きやがれ~~~!!


…あれ?もう着いてたんですか?
嫌だなぁ、起こして下さいよ(笑)


ぬぅぅぅ~~!!



何とゆーか、この時期はこんなテキトー過ぎる雰囲気だったのですよ。


…という、どーでもいいエピソード。

衣装チェックも大切ですが、メンバーチェックもお忘れなく。
2010-11-16(Tue)

小説・さやか見参!(7)

『さやか、あんな遠くから足音が聞こえたぞ。気をつけなきゃ駄目だろう』

『隠さなかっただけよ。どんなに気をつけてもおにいちゃんには聞こえちゃうもん。私、無駄な事はやらないの~』

幼くても女は弁が立つ。

『…まったく…朝の修行は終わったのか?真面目にやってきたんだろうな?』

『あったりまえじゃない!おにいちゃんがいつも言ってるもん。一生懸命修行しなきゃ立派な忍者になれないって。』

『そうか。さやかは偉いな』

『でも…正直、他の子達に合わせてると退屈しちゃう。わたしはおにいちゃんとの修行が一番楽しいもん』

さやかは兄の事が大好きだ。

兄として、人間として、そして忍びとして尊敬している。

いずれはたけるのような忍びになりたい、と思っている。

それゆえさやかは人一倍、いや並の忍者の何倍も修行に励んだ。

そもそも同じ山吹の忍びとはいえ、さやかはただのくのいち。
たけるはと言えば次期頭領なのである。

求められる技量が違う。
よって修行の厳しさもまるで違う。

おそらく並の忍びならばたけるに付いて行く事さえままならぬだろう。

それほどの修行を平然とやってのけるたけるの凄さを知る者は少ない。

本来修行の内容は他人に明かすものではない。
手の内を盗まれぬ為に隠さねばならないのだ。

己の技を知られる事、それが死につながる事は多い。

たけるの厳しい修行も当然余人の知るところではなかった。

ただ、さやかは全てを知っている。

たけるのようになりたいと願うさやかは、己の修行とは別にたけるの手ほどきを受けていた。

教え始めて2年。
さやかの技量は他の子供達を遥かに引き離していた。

最初は妹をあやすつもりで教えていたたけるだったが、自分の技をみるみる吸収していく幼い妹に驚愕を覚えたほどだ。

さやかは厳しい修行でも弱音を吐く事はない。

しかし喜怒哀楽は激しく、楽しければ笑い、悔しければ泣き、仲間とケンカになれば声をあげて怒った。

たけるはそれを見て安心していた。

さやかには、子供らしい、人間らしい感情がある。

それが嬉しかった。


2人の母親は、さやかが1歳にもならぬ頃に失踪している。

何があったのかを父が語る事はなく、たけるにも真相は分からない。

だがそれからは、たけるが母親代わりとしてさやかを育てた。

たけるにとってさやかは『妹』であり『我が子』でもあるのだ。

忍びの道という厳しい環境の中で我が子が感情を失っていない事に―
むしろ人よりもそれが豊かな事に、たけるは喜びを覚えていたのだ。

一流の忍びともなれば自らの感情を表に出す事は許されない。
いや、心中の揺らぎさえあってはならぬ事だろう。
当然たけるとてそう教えられてきた。

しかしたけるは喜怒哀楽の全てを消す事が出来なかった。

『喜』と『楽』。
この2つに関しては殊更、である。

かつて、さやかが産まれてすぐ―

母親の腕に抱かれたさやかを見て目を細めるたけるに、父、武双は言った。

『たける、心を動かしてはならんぞ。赤子ゆえ可愛い、妹ゆえ愛しい、そう思ってはいかん。可愛いければ、愛しければ守りとうなる。守りたいという気持ちは判断を鈍らせる…』

たけるは一瞬神妙な顔になり、武双の顔を真似てしかめっ面になった。

だが、
再び妹に目をやると―
そのいかめしい表情は一瞬で崩れた。

『無理です父上!やっぱり可愛いものは可愛いですよ!』

そう言って、蕩けんばかりの笑顔で妹をあやす兄の姿に母は微笑み、父はうなだれたのだった。

このような兄に育てられたからこそ、さやかも感情豊かなのかもしれない。

『おにいちゃん!もうお仕事は終わったんでしょ!?修行しよ!…あれ教えてよ!水に潜るやつ!』

『あぁ、残念だけどな、仕事、あと少し残ってるんだ』

『えぇーっ!もう終わってると思って急いで帰って来たのに!じゃあ急いで終わらせて!』

頬をふくらませてワガママを言う姿はやっぱりただの子供だ。

『分かったよ。言われなくても急いでやらなくちゃいけないんだから』

『いま休憩してたくせに』

『少しだけだよ』

『おにいちゃんが休まないように隣りで見張ってるからね』

『見張りがなくったってちゃんとやるよ』

『だ~め』

『はぁ…分かったよ。でも集中してやりたいから邪魔はしないでくれよ』

『邪魔なんかしないよー!隣りでお話するだけ!!』

『それが邪魔なんだけどなー…』

妹に振り回されっぱなしのたけるであった。
2010-11-15(Mon)

小説・さやか見参!(6)

厚い雲が分散され、隙間から差し込んだ光が山吹の砦を照らした。

屋敷から出て来た山吹たけるは太陽の光を浴びながら「う~ん」と背伸びをした。

昨夜の会合は山吹の里で行われた為、他の組よりは遥かに早く帰宅している。

しかし、山吹が再び龍組に選出された事で、各組に送る書状を急ぎ書き記す必要があったのだ。

12組内での取り決めや要望、今後についてなど、「前回までと同じ」と書くわけにもいかぬから、1つ1つ事細かに記載し、結果膨大な量になる。

それらを8割方終わらせた所で陽が差したのに気付き、少し休憩に出たのだ。

穏やかな顔をした若者。

表情だけならば、争いや諍いとは無縁の生き方をしてきたように見える。

ましてや、やがて名門・山吹を継ぐ忍者だなどと誰が思うだろう。

それが、
くちなわが敵視し恐れている山吹たけるなのである。

そのたけるの元へ、小さな、小さな足音が小刻みに迫った。

たけるがふっと笑って見ると―

遠くの丘から子供が駆け下りてくるところだった。

何やら叫んでいるようだが遠過ぎて聞こえない。

いや、常人には聞こえずともたけるには聞こえていたはずだ。

遠くから駆けて来る足音にもすぐに気付いたぐらいなのだから。

その聴力のみならず、たけるの感覚はもはや超能力と呼ぶに相応しかった。

一方、駆けてくる子供は、
あっと言う間にたけるに近付いていた。

人ならざる速さの、

女の子であった。

まだ4つか5つか、年齢はそのぐらいであろう。

左右で結んだ髪。

輝かんばかりの笑顔。

鮮やかな桜色に染められた忍び装束を身に着けている。

そう。
この子も幼いながら、たけると同じく忍者なのだ。

『おにいちゃーん!たけるにいちゃーん!』

ものすごい速さで走ってきた少女は、その勢いを落とす事なくたけるに跳び付いた。

たけるはそれを『ふわり』と受け止めた。


『さやか!今の勢いで跳び付くなんて殺人行為だぞ!』

『だってだって、ずっとおにいちゃんの帰りを待ってたんだもん!』

『だからと言って…』

『それにおにいちゃんならちゃんと受け止めてくれるでしょ?』

『そりゃそうだけど…』

たけるが半ば呆れて、困ったように見ると、少女は『えへへ』と笑った。

屈託のなさはたけるによく似ている。

この少女は山吹さやか。

たけるの、年の離れた妹だ。
2010-11-14(Sun)

小説・さやか見参!(5)

長い夜が明けた。

とはいえ、まぶしい朝日も差さぬどんよりとした朝だ。

鬱蒼と茂った山中にある蛇組の―

荊木流の砦は、より薄暗く見える。

この場所は日当たりが悪い、水はけが悪い、よって土地自体がじめっとした湿気を含んでいる。

くちなわはこの場所が好きではなかった。

昨夜はあれから、くちなわもみずちも無言のまま歩き、暗い内に砦に戻った。

忍びならば数日眠らずともなんと言う事はない。

砦に着いてすぐに朝の修行を済ませ、くちなわは社の前で立禅を行なっていた。


…この場所への嫌悪感、それは住みづらい土地へと追いやられたような劣等感が生む感情であった。

龍組…山吹の砦とは何たる差か。

山の頂きを切り拓き作られた砦。

陽差しを遮るものはなく、水はそこから湧いている。

全てが明るく清浄なあの場所ならば誰しもが笑顔で過ごせるに違いない。

脳裏に山吹たけるの屈託のない笑顔が浮かび、くちなわは気分が悪くなった。

山吹め。

みずち様率いる荊木流を差し置いて龍組に居座るとは。

みずち様ほどの腕を持った上忍が蛇組だと?

みずち様をこのような場所に…



『隙だらけじゃないか』


考えにふけるくちなわの背後で老女が口を開いた。

まったく警戒していなかったくちなわは慌てて飛び退き、振り返った。

そこに立っていたのは義理の母―みずちの奥方であった。

『は…母上?』

『何てざまだい。立禅にもなってやしない。本当にそれでも荊木の中忍かね。私が敵なら殺されてる』

立禅とは一定の姿勢で意識を鎮め、全身に気を巡らす修行だ。

当然雑念が入っては功はならない。

『…はっ…申し訳ありません!』

『これで荊木の跡取りが務まるのかねぇ…』

老女はため息をつくと、少女のようにいたずらっぽく笑った。


みずちの妻『かがち』(名前なのか肩書きなのか最後までくちなわには分からなかった)は、口は悪いが声にはいつも優しさが込められていた。

どのような経緯でみずちとめおとになったかは分からぬ。

しかし、みずちほどの忍びが娶るぐらいだから、よほど優秀なくのいちであった事は想像に難くない。

『くちなわ、あんたはね、感情に囚われ過ぎ。私はそこだけが心配だよ』

かがちは、心を読む術もみずちに引けを取らない。

『特にね、負の感情、陰の感情にあんたは弱いね』

『…』

『恨んだり憎んだり妬んだり、そんなものは何の役にも立ちはしないよ』

『…』

『だから、山吹を目の敵にするのはもうおやめ』

『…』

『お門違いってもんだよ。』

『しかし…』

『くちなわ、あんたは優しい子だ。
あんたがね、みずち様や荊木流の事を考えてくれてるのも分かる。
でもね、今の荊木流が蛇組を務めてる事を不満に思う必要はないんだよ』

『しかし、荊木流とて、かつては龍組を務めていた名門ではありませんか!
…それが、山吹ごときに龍を奪われ、このような扱いを…』

くちなわは思いの丈を全て吐き出していた。

これも、かがちなら全て受け止めてくれるという信頼あってのものだ。

実際くちなわは、かがちを本物の母のように思っていた。

かがちはかつて一人息子を亡くし(経緯は分からぬ)、それ以降子供が出来なかったらしい。

それゆえくちなわを我が子同然に育ててくれていたのだ。

その母の口から再びため息が漏れた。

『いいかいくちなわ。勘違いしちゃいけないよ。
12組ってのは優劣じゃないんだ。
主従関係でもないんだよ。役割なんだ。
あんただって任務の時には役割を与えられるだろ?
それぞれが一番適した任を割り振られてるんだ。
12組ってのはそういう事なんだよ』

『…』

『この土地を守る為に最善の働きが出来るように、それぞれの組が決められてるんだ。
荊木流はね、医術の腕を買われてるから蛇組なんだよ。
もし山吹が蛇組に就いたとして、私達と同じ事が出来ると思うかい?思わないだろ?』

古来『蛇』は、不死と再生を司ると言われている。

よって命に関わる、医術を得意とする流派が蛇組の任に当たるのだ。

そして近年の荊木流は他の追随を許さぬほどの医学を身に付けていた。

そして荊木流が蛇組に適するもう1つの特技、それは地中や水際での活動である。

人知れず地中に潜み、泥中を進み、任務を遂行する。

その修行の為に蛇組は―

みずちはこの湿地に砦を構えた。

水気の多い場所でこそ蛇組は活きる。

蛇組頭領に与えられる『みずち(蛟)』というのは雌伏の龍であり、水の霊力を意味する言葉なのだ。

だがくちなわは、この『みずち』という称号にも不満を持っていた。

『母上!わたくしはみずち様こそ最高の忍びだと確信しております!
山吹など足元にも及ばぬ腕の持ち主だと!
しかしながら…

みずちという名も皮肉なものではありませんか!
活躍の機会を待ちじっと潜んでいる龍、しかも泥にまみれて!
山吹の頭領は偉そうにふんぞりかえっているというのに!!』

『いい加減になさい!』

かがちはくちなわの暴言をぴしゃりと止めた。

『くちなわ、あんたの気持ちは嬉しい。
でもね、みずちの名を冒涜するって事はみずち様本人を、そして荊木流全体を侮辱する事になるんだよ。
それぞれの流派がそれぞれの長所を活かす、それでいいじゃないか』

『…』

『それに今、12組をまとめる力を持ってるのは山吹なんだよ。
それは全ての流派が認めてる。
山吹の頭領は他人を従えてふんぞりかえるような人物じゃないよ』

『…』

『なんだい黙りこくっちゃって。子供かいあんたは』

かがちは優しく笑った。

『わたくしは…みずち様に、龍組の頭領になっていただきたかったのです…』

くちなわはまるで泣きそうな顔でそう言った。

みずちの年齢を考えると今回が最後の機会であった。
くちなわは生涯に一度だけでも、みずちを龍組頭領に就かせたかったのである。

『あんたは…優しい子だねぇ。
でもね、みずち様も年が年だ。
今から12組をまとめるのは厳しいよ。
なにより本人がそんな事望んじゃいない』

『…』

『くちなわ、あんたが上忍になって、荊木流を継いで、立派な頭領になったら、荊木流は龍組になれるかもしれないよ。
ただね、肩書きや地位にしがみついちゃいけない。
執着は心を汚して身を滅ぼすからね。』

『…分かりました…』

かがちは笑ったような怒ったような声で

『なんだい!全然納得出来てないって返事だね!
ほれ!立禅の続きをやんな!
心が鎮まるまでやめるんじゃないよ!』

そう言って社の陰に去っていった。

一瞬じめっとした冷たい風が吹いた。

残されたくちなわの心が鎮まる事はなかった。
2010-11-13(Sat)

アクションへの道(107)

1996年、

95kg→62kgに減量した僕はすこぶる絶好調で、今まで試した事もないような技も練習してみたり、ちょっと調子に乗っていた。


日常生活ではファーストフードでアルバイトし、忙しい毎日を送っていたが、どんなに身体がキツくても、練習・現場が嫌だとは思わなかった。

ゴールデンウィーク等は、朝~夕方までバイト、
その後リハーサル、
一旦帰宅してお風呂に入って深夜~早朝までバイト、
バイト上がりに現場、

というような繰り返しだった。

この時期は珍しく移動の車で寝る事もあった。


役としては、戦隊では怪人が一番多く、次いでブルー、グリーン。

メタルヒーローでは3人組の中のサブキャラが多かった。

しかしどの役に入っても、

『俺が全員喰ってやる!』

という意気込みがあった。

そのぐらい調子に乗っていた。


バイト先で女の子2人に告られたのも僕を調子づかせた原因かもしれない。

こんな事はおそらく人生最初で最後だろう。

1人の子は僕の好みの美人さんで、もう1人の子は可愛らしい感じだったけど好みとは少し違った。

外見だけで選ぶなら間違いなく美人さんを選ぶんだけど…

この2人、同じ専門学校の友達同士で、いつも一緒にお店に来てたんだよね。

そりゃあ選べないよ。

2人を前にして

『んじゃ、こっち』

みたいになっちゃうじゃん!

まぁその美人さんは喫煙者だったので僕の中では結局ナシだったんですが。

とゆーワケで何も起きなかったけど、せっかくなのでモテ自慢(?)してみました(笑)

後輩で気になる女の子もいたしね。


…ってなワケで今回もアクションとは関係ない話でした。

アクション話を期待してる人、ごめんなさいね。

『こんな話を書け!!』

ってリクエストしてくれたらそっち優先で書きますからお許しを。
2010-11-12(Fri)

小説・さやか見参!(4)

それにしても…

くちなわは思った。

何故今さら、あの滝での一件を思い出したのか?

この暗い山道に響く小川の音がそれを喚起したのか?

いや、そんな事もあるまい。

今まで幾度となく、昼夜を問わず歩いた道だ。

小川の音など気にも止めようハズがない。

そこでくちなわの思考は遮られた。

遮ったのは他ならぬくちなわ本人であった。

待て…

確かに今までかすかな水流の音を意識した事はなかった…

だが…

周りの全てに感覚を研ぎ澄ますべく修行をしている忍びが、小川のせせらぎを意識していなかった、だと?

むしろそちらの方が不自然だ。

あの滝…

くちなわが十五になり、幼きウロコ達の指導に当たった際、やはり同じ事をした。

ただ

『跳べ』

と。


躊躇しながら落ちる者、

果敢に跳び出す者、

何度も怒鳴りつけてようやく意を決する者、

様々な子供達がいたが、結果は全員幼き頃のくちなわ同様、渦に飲まれ、たらふく水を飲み助け出されるハメになった。

くちなわはそれを微笑ましく見ていた。

そこで学んだ恐怖が、後々の修行に役立つ事を身を持って知っているからだ。

人間は自然には敵わぬ。

自然に対する畏怖を知らねば忍びとしては大成出来ぬのだ。


そこまで記憶を辿って、

くちなわはようやく思い至ったのだ。

己が抱く『恐れ』を。

普段は意識もせぬ、
いや、あえて意識せぬようにしているせせらぎが、何故あの幼少時の記憶を揺り動かしたのか。

それはまさに『恐れ』そのものだった。


『思い出したか』

突然みずちが口を開き、完全に没入していたくちなわはハッとなった。

『龍組の…山吹の跡取り。まだ七つにもならぬ年であったなぁ』

山吹の跡取り。
それは先ほどの会合で、円座の中心をちょろちょろと動き回っていた若造である。

山吹たける。

イバラキより十歳も下の青二才だ。

だがそいつが、

拙者の感傷の主役であったか。


幼きたけるが初めて滝へやって来た。

たけるは山吹流なので、もちろん荊木流の修行とは別である。

しかしながら山吹も荊木も12組の同盟を組んでいる間柄なのでそこに壁はない。

忍びの修行には(あくまで忍び同士で)公に出来るものと絶対に秘密にせねばならぬものと二種類ある。

幼き下忍の度胸試しなどは修行の内に入るはずもなく、遊び感覚で堂々と行われるのだ。


山吹の中忍に連れられて来たたけるはまだ五つか六つ。

くちなわが初めて滝に飛び込んだ時と変わらぬ年頃だ。

たけるは躊躇なく、勢い良く崖を蹴って跳んだ。

白い飛沫に落ちていく幼い忍者を見ながら、くちなわは微笑んだ。

あやつも拙者や他の下忍同様、水流にかき回され、死ぬような思いをするのだろう。

そして自然の怖さを知り成長していくのだ。


案の定、いつまでもたけるは浮かんでこなかった。

滝の流れに巻かれ、ぐるぐると振り回されているに違いない。

しかし…


山吹の中忍はいつまでも助けに行こうとはしない。

崖の上で腕を組み、じっと滝壺を見下ろしている。

長い―

いくらなんでもこの時間はありえない。

まさか見殺しにする気か!?


くちなわが思わず水上に身を翻そうとした時―

滝からしばらく離れた場所―
流れがおだやかになったその場所からたけるが顔を出した。

表情に苦しさは感じられない。

夏の午後に行水を済ませたような無邪気な顔。

それが、

まぶしいぐらいの笑顔に変わり、頭上に両手を上げた。

その両手には合わせて4~5匹の若鮎が掴まれていた。

激しく動く魚達が水面の反射を受けてきらきらと光る。

それを見て、崖の上の中忍はにこやかにうなずいた。

その一部始終を見ていたくちなわは、たけるに『格の違い』を感じたのだ。

たかだか五つ六つでその芸当が出来るなら、いずれはどれほどの忍びになるか…

到底己では太刀打ち出来ぬのではないか…

それが恐れの原因だ。

そして今日まで続く敵対心の原因でもある。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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