2016-12-05(Mon)

小説・さやか見参!(279)

老人の刃がさやかの心臓めがけて振り下ろされる。
(間に合わない!!)
そう思いながらもさやかは懐剣を突き出す。
さやかが動き出した時、すでに老人の刃は身体までわずかの所に迫っていた。
決して諦めたわけではなかったが、さやかは(死んだ)と思った。

かきーん

さやかは一瞬その音が何なのか理解出来なかった。
それは薄皮一枚の所で懐剣と刃がぶつかり合った音だった。
さやかは敵の攻撃をどうにか防ぐ事が出来たのだ。
しかしさやかの脳内は、助かった、と思うより、何故!?という疑問に支配されていた。
先ほどの攻撃はいくらさやかといえども奇跡が起きねば防げぬ速度だったのだ。
なぜ奇跡が起きたのか。
老人の顔を見た瞬間その疑問はすぐに解けた。
敵はは最初から本気で刺す気はなかったのだ。
あえてさやかに受け止めさせ、ぎりぎりまで追い詰めて楽しんでいるのだ。

『やあっ!』
心太郎が斬りかかる。
老人はふわりと離れる。
さやかは跳ね上がるように立ち上がり、心太郎と並んでかまえる。

『追い詰められた表情も悪くないぞ』
老人がにやつきながら言う。
『はぁ!?』
意味の分からない言葉にさやかが嫌悪感を示す。
『なぁに、おまえの顔を見ているとある方を思い出すのだ。よく似ておるのでな』
『ある方?』
さやかの問いを老人は流す。
『まぁ似ておるのも当たり前か。ふふふ』
『さっきから何を言ってるっシュか!』
心太郎の苛立った怒声も流される。
『ただそのお方は決して喜怒哀楽をお見せにならんのだ。まったく残念でならん。拙者はあのお方の苦悶の顔が見てみたい』
さやかが眉をしかめる。
『よく分からないけど、あんたが変態っぽいって事は分かったわ』
『その蔑んだ表情も良いぞ。おまえが様々な顔を見せてくれるおかげで、拙者はあのお方の感情を見たような気になれる』
『やっぱり全然理解出来ないけど、あんたが真性のド変態だって事は確信が持てたわ』
そう言ってさやかが短剣をかまえた時、

『そうそう。このお人は変態なんだよねぇ。正解』

と声がした。
そしていつの間にか、二人の男が老人の両隣に立っていた。

『なっ』
心太郎は驚きが声にならなかったようだ。
現れたのは赤い羽織の男と白い羽織の男。
狂気をはらんだ目とへらへら笑った口元。
そう。
一角衆の血飛沫鬼と血塗呂である。
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2016-09-28(Wed)

小説・さやか見参!(278)

さやかと心太郎に顔を向けた庚申教の信者達にはいずれも表情がなかった。
まるで良く出来たからくり人形のように体躯のみを動かして二人に向かって走ってくる。

『ばれてたなんて、しくじったっシュ!』
『いいえ、私達は完璧だった。あいつが、あの老人がうわてだったって事よ』
『やっぱり庚申教と一角衆は繋がってたんシュね!』

さやかと心太郎は木から木に飛び移りながら逃げた。
信者達を振り切る事は忍びである二人には容易い。
戦って傷つけるわけにもゆかぬゆえ、ひとまず退散し、改めて策を練るのが賢明であると思われた。
だが、

『ふふふ、久しぶりだな山吹さやか』

今まさに飛び移ろうとした樹の大枝の上に先ほどの老人が姿を現した。

『いつの間に!?』

さやかと心太郎は驚愕をあらわにしながらも空中で体勢を変え、まるで落下するが如く地面に急降下した。

直角に進路を変え、今度は走った。
しかし

『必ず来てくれると思っていたぞ』

老人は細い枯れ枝の陰からゆっくりと歩み出て二人の前に立った。

『くっ!』

さやかが跳躍する。
それは一気に樹上に到達するほどの跳躍力だった。
それなのに、

さやかの前には老人が立っていた。
いや、さやかと同じ速度で同じ高さを跳んだのだ。

さやかと老人は空中で対峙した。

『さっきから何よ!私の事知ってるの!?』
さやかの声は怒気を含んでいた。

しかし老人はそれを意にも介さず柔らかく答える。

『覚えてはおらぬか。まぁ無理もない。あの時おまえはまだ幼な子であったからな』

『えっ!?』

怪訝な顔をしたさやかを急に白刃が襲った。

老人が抜刀したのだ。

さやかがぎりぎりでかわすのと二人が着地したのはほぼ同時だった。

さやかが転がって距離を取ろうとする。
だが老人も同じように転がってそれを阻む。
そこに心太郎が飛びかかった。

『おまえ、一角衆っシュか!!』

心太郎の短刀が老人に振り下ろされる。
だが老人はそれを自らの刀で受け流した。
受け流された心太郎は自身の勢いでつんのめって転倒する。

『心太郎あぶない!』

さやかが叫んだ時、老人の刀は心太郎の心臓を狙って振り上げられていた。
さやかは跳躍し、刀を持つ老人の腕を蹴り上げる。
その隙をついて心太郎が離れる。
老人は蹴られた勢いを利用して回転し、着地しようとしたさやかの足を蹴りで払った。
体勢を崩したさやかの身体が地面に叩きつけられる。

(まずい!)

背中から地面に落ちたさやかは一瞬呼吸がつまり隙を作ってしまったのだ。
この状態で攻撃されたら対処出来ないかもしれない。
さやかは必死に身構えて懐剣を取り出した。
2016-09-20(Tue)

小説・さやか見参!(277)

それまで談笑していた庚申教信者達の声がぴたりと止まった。
さやかと心太郎が目を向けると、信者達の前に作務衣姿の老人がゆっくりと近付いているのが見えた。

『えっ!?いつの間に!?』

さやか達は決して気を抜いていたわけではない。
むしろ神経を研ぎ澄まし周囲の気配を探っていたのだ。
それなのに姿を現すまで気付けなかった。
いや、さやかと心太郎が気付いたのは老人の気配を察知したからではない。
老人に気付いた信者達に動きがあったからだ。
つまり二人は最後まで老人の気配に気付かないままだったのである。
老人が只者でない事は明白だった。

『あれが教祖なのかしら』

さやかと心太郎は距離を詰めずに様子を伺う事にした。
忍びに気配を読ませぬほどの男なら警戒しないわけにはいかない。

信者達は老人に頭を下げた。
畏まった風ではなく、そこには親しみのようなものが感じられる。

老人が口を開く。

『今日も大変だったね』

ねぎらいの言葉に一同が笑顔で応えた。

『月に一度、皆がこうして庚申の山に向かい手を合わせる事で御猫様の御慈悲をいただけるのです。もともとは人に仇なしていた御猫様がこうして安寧にしていられるのだから皆の祈りの力がいかほどのものか、きっと感じてもらえているね』

そこからはしばらく老人の柔らかい声がするばかりだった。
薄暗くなった森の中で説法のような世間話のような話が続いた。
男の話術は実に巧みで、見事に聞き手を引き込み、笑わせ、そして教えを説いた。

(あの男、忍びかもしれない)

さやかはそう思った。
先ほどの気配の消し方といいこの話術といい、さやかには非常に馴染み深いものに感じられたのだ。

『さて、もう暗くなるからそろそろお開きにしようか』

老人がぽんと手を打った。
信者達が姿勢を整える。
最後に挨拶をして集会が終わるのだろう。

(何も起きなかったわね)

さやかが小声で心太郎に告げる。
まぁ一般の信者達が参加する集会で何かが分かるとも思っていなかったので教祖とおぼしき男に出会えただけでも収穫はあった。
後は老人を追跡し庚申教の中心に近付くだけである。
さやかがそう考えていると

『そうそう、最後に』

と老人の声が響いた。

『御猫様は皆を守って下さるありがたい存在だが、決して信心を忘れてはいけないよ。皆も知っての通り御猫様は元は恐ろしい化け猫だったからね。開祖が調伏する前の御猫様は人間を喰らい大蛇を喰らっていたんだよ』

信者達は神妙な顔でそれを聞いている。
老人はゆっくりと袂に手を入れ、

『今の御猫様は大蛇どころか』

宵闇に鈍く光る鈴を取り出し

『龍さえ喰らう事が出来るんだよ』

さっきまでと違う低い声でそう言って、鈴をりんと鳴らした。

鈴の音は森に響き渡り、信者達は全員身体を硬直させた。

森の中には一瞬で不吉な気配が漂った。

『さぁお前達も、こざかしい龍を屠っておいで』

そう言われて信者達は一斉にさやかと心太郎の方を見た。

老人も二人の方に顔を向ける。

今まで見えなかったその右目には、なぜか闇が宿っているように見えた。
2016-08-31(Wed)

小説・さやか見参!(276)

庚申教の人々は後方のさやかと心太郎に気付く事もなく歩いていく。

最初こそ談笑しながら、まるで野良仕事に向かうかのような雰囲気であったが、森を抜け山に差し掛かるととても話が出来るような状況ではなくなり、皆必死に足を進めた。

老人や子供が登るにはけっこうな傾斜である。

おまけに太陽が高くなり気温も上がってきた。

各々杖にしがみつくようにして歩いているのが見える。

『うはぁ、これを月に一度やってんシュか。庚申教も大変っシュね~』

心太郎が呆れたように呟いた。

『元は山岳信仰なのかしら。そういえば教祖は山伏だって話もあったわね』

さやかは冷静に答える。

軽口を叩けるほどさやかと心太郎には何の苦もない道程なのだ。

しかしながら先を進む人々も、体力的にはきつそうだが決してつらそうだったり厭そうだったりではない。

後方から時折見える表情が充実していた。

皆この険しい道のりを自発的に歩んでいるのだ。

信仰とはそういったものなのだろう。

やがて陽が中天から傾いた頃、全員が山頂に到着した。

最後は若者達が老人や女子供に手を貸しながらの登頂であった。

そして庚申教の信者達は、休憩するよりも先に、西の方角に向かって祈りを捧げた。

『西ね。庚申山がある方角だわ』

『じゃあやっぱり』

『ええ。ここでの謎を解いたら今度は西へ向かいましょ』

さやかが様子を伺いながらそう言うと心太郎が小さくうなずいた。

それから人々は、しばしの休憩のあと今度は同じ経路を辿って山を下った。

『参拝…礼拝?…どっちか分かんないっシュけど、それ以外は特に何もしないっシュね』

『ほんとね。教主とかそーゆー人が来るのかと思ってた』

二人は肩透かしをくらって若干気落ちしたまま後について山を下りた。

夕暮れになり人々が山から森に差し掛かるとさやかの気落ちが諦めに変わった。

ここで得られる情報は特にない、
無駄足、無駄な時間だった、

そう思ったその時だった。

森を包む空気が変わったのは。
2016-08-30(Tue)

小説・さやか見参!(275)

夜が明けた。

とはいってもまだまだ時刻は早い。

季節はもう夏なのである。

どこかで気の早い蝉が鳴き始めた。

日中の暑さを予感させる良い天気だ。

いつもならまだ人の気配などない時間だがこの日は違っていた。

夜明けと共に人々が家から出てくるのが見えたのだ。

『動きだしたっシュね』

心太郎の声が囁いた。

『やっぱり今日だったわね』

さやかが答える。

二人の声は古い火の見櫓の上から聞こえていた。

この町では数年前に番屋が移転し使われていた櫓も破棄されてそのままになっていたので、さやかと心太郎は早朝や深夜の監視用に利用していたのである。

戸口を出た人々は近所の者達と挨拶を交わしながら同じ方向に歩いていく。

普段通りの笑顔で、眠そうな顔で、気取りも気負いもなく進んでいく。

『特別おかしな雰囲気ではないっシュね』

『もうこの町では日常の一部になってるんだわ、庚申教が』

さやかの言う通りであった。

謎の新興宗教・庚申教はすでにこの町を含む広い範囲に根付いていた。

そしてこの町では月に一度、町の外れで集会が開かれているという。

今日はその日なのだ。

集会はどうやら早朝から出発し、森を抜けて山を登り、そして森に戻った所で行われるという。

半日かけてのけっこうな重労働である。

老人や子供達にとっては大変だろうが、それでも皆当たり前のように参加している。

それだけ庚申教が浸透しているのだろう。

実際のところ現世利益を説く庚申の教義は人々の心を捉えていた。

しかしながらその庚申教は音駒を死に追いやりさやかを追い詰めようとした仇であるという。

さやかは真実を探る為、今回の集会に潜入する事にしたのだ。

ほどなくして集会に参加する人々の姿が町外れに向かって行った。

ざっと数えただけでも住人の三、四割ぐらいは森に向かっているようである。

さやかと心太郎はかなりの距離を取って後を追った。

最初は参加者に化けて、とも考えたのだがこの状況では余所者はバレやすい。

それに何かあった場合に一般人を巻き込む危険性もある。

それ故に限界まで距離を開いての尾行となったのだ。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

くのいち・山吹さやかが活躍する『忍者ライブショー さやか見参!』、新シリーズ『ギルティー!!』も展開中!!

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