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2014-06-23(Mon)

小説・さやか見参!(240)

こうなっては仕方ない。

封は覚悟を決めて飛び込んだ。

一角衆粛清隊は安全策を取りながら勝てる相手ではないのだ。

封は鉄槌の攻撃をかいくぐってカイテツに貼りつくように接近した。

クナイで何度も切りつける。

カイテツの着物が裂けた。

着物自体も厚手の生地を使っている。

どれだけ用心深いのだ。

カイテツが後ろに跳んで距離を取った。

その勢いを利用して鉄槌を引き戻す。

後頭部に迫る凶器を封はしゃがんでかわした。

体勢を低くしながら前方に転がる事で間合いを詰める。

転がった封が立ち上がるより早くカイテツが左足で蹴りを繰り出した。

受けようにも捌こうにも封の右腕は動かない。

カイテツの力は超人的である。

ただの蹴りでさえ致命傷になりかねない。

ましてや鉄の具足まで装備しているのだ。

そんな攻撃が直撃すれば封の身体は間違いなく破壊されてしまうだろう。

封は左に跳んで転がり逃れようとした。

だが完全にはよけきれなかった。

転がろうとした右肩をカイテツの爪先がかすめる。

ごきっ

嫌な音がした。

『くあぁ』

封が小さな悲鳴を漏らした。

蹴りの衝撃で吹っ飛ばされ態勢を崩す。

しかし引き離されるわけにはいかない。

封は痛みをこらえて左手を地面に着くと、カイテツに向かって転回し再び距離を縮めた。

しばらく超接近戦の攻防が続いた。

カイテツの着物が少しずつ切り裂かれるのと比例して、封の身体も損傷していく。

『ぼろぼろになっちまったなァ、裏切り者』

攻防の中でカイテツが笑った。

『あんたもね』

封が負けじと笑う。

『俺は着物がぼろぼろになっちまっただけだが、オマエは身体がぼろぼろだろうがァ』

確かにそうだ。

だが、封の目的は着物をぼろぼろに切り裂く事だったのだ。

着物を裂いて、装備の薄い場所を見つけ出す。

見つけたらその場所だけを徹底的に攻める。

一点を攻撃し続けて、鎖帷子や皮の鎧をわずかでも、ほんのわずかでも破壊する事が出来れば。

そうすれば。

カイテツが鉄槌を振り下ろしてきた。

封は正面からカイテツの巨躯をとらえる。

左腕の付け根あたり、裂かれた着物の隙間から破壊されたいくつかの鉄の環が見えた。

幾度も切りつけられ、薄い傷が入った黒いなめし皮が見えた。

(あの場所を狙う)

封は身体をちぎられるような痛みをこらえて鉄槌の下にもぐりこんだ。

(触れる事が出来たなら私は勝てる)

封は自分を鼓舞した。

触れるだけで敵を死に至らしめる暗殺者。

それが私だ。
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2014-06-23(Mon)

小説・さやか見参!(239)

封は、幾重にも防御を重ねたカイテツをどう攻略すべきか高速で頭脳を働かせていた。

『よくもまぁ着込んだものね。重くないの』

『重いものか!俺は力持ちだからなァ!』

カイテツは楽しげに叫んだ。

実際その言葉を裏付けるように、カイテツの攻撃は早かった。

いや、速かった。

皮の鎧、鎖帷子、鉄製の甲冑の重さを意にも介さず、俵ほどの、樽ほどの大きさの鉄の塊をぶんぶんと振り回してくる。

体捌きも異常に素早い。

俊敏さには自信のある封が遅れを取るほどに。

『あんた、鎧を脱いだらどんな動きをすんのよ』

攻撃をかわしながら思わず問いかける。

問わずにいられないほどの衝撃だったのだろう。

『俺は速いぞ!驚くぐらいなァ!』

大した答えは返ってこなかった。

(怪力馬鹿忍者)

封が心の中で悪態をついた時、突然鉄槌の攻撃が軌道を変えて襲い掛かってきた。

あっと思う間もなく、封は後ろに跳ぶしかなかった。

だがカイテツは滑るように足を進めて来る。

距離が開かない。

身体をひねってどうにか直撃は免れたが、鉄槌がわずかに右腕にかすった。

『くぅっ!!』

ほんの少しかすっただけだというのに恐ろしい右腕に衝撃が走った。

痛みを通り越して一瞬で感覚がなくなるほどの衝撃に、封は思わずうめきを漏らす。

その隙をついて、カイテツの執拗な追撃が始まった。

あらゆる角度から襲ってくる鉄の塊を必死によけながら封は左手で右腕を確認した。

幸い骨はやられていないようだがしばらくは使い物になるまい。

感覚を失った右手は、握っていたはずの镖もいつの間にか落としている。

封は逃げ出したい気持ちに駆られた。

こんなに弱気になったのは幻龍イバラキや邪衆院天空と対戦した時以来だ。

しかし敵の方が素早い以上逃げる事はかなうまい。

覚悟を決めて立ち向かい、防具を一枚ずつ剥ぎ、武器を封じて倒すしかない。
2014-06-22(Sun)

小説・さやか見参!(238)

『昼間っからあんたらの気配で具合い悪くなりそうだったわよ』

封はカイテツと向かい合った。

遠巻きに下忍達が囲んでいるのが分かる。

『わざと気配を消さなかったんだァ!裏切り者のオマエに恐怖を味わわせる為になァ!』

『そ。何にしても夜まで待ってくれてたのね。ありがと。あんた達と殺り合ったりしてるのを見られたら船に乗せてもらえなくなっちゃうからね』

封は身体をぴくりとも動かさないまま戦闘に備えた。

気の移動や重心の移動は身体の裡だけでも充分に行なえる。

これは封に限った話ではなく、武術を身につけた者なら誰でも出来る事である。

カイテツはそれを察したのか一歩前へ出た。

『どのみちオマエはこの国を出られねェよォ』

『どうかしらね』

カイテツの鉄槌が横薙ぎに払われるのと、封が地面に転がったのはほぼ同時だった。

敵の攻撃が巻き起こした風圧を頭上に感じながら封は撒き菱を投げつけた。

鉄製の菱は地面に撒かずともそれなりの殺傷能力がある。

だがそれらはカイテツの身体にぶつかると全て跳ね返さればらばらと地面に落ちた。

鉄槌が振り下ろされる。

封は跳ね起きながらカイテツの懐に飛び込んだ。

鋭い镖で手首や胸元を素早く数回切りつけると、掴んでくる腕をすり抜けて距離を取った。

カイテツは何事も無かったようににやりと笑い、巨大な武器を構えた。

巨躯の戦士は総じて愚鈍だと封は思っているのだが、目の前の相手は一角衆内部でも恐れられる粛清隊の一員である。

用心せねばなるまい。

一瞬触れるだけで敵の気血を封じ死に至らしめるのが封の技だが、敵が敵だけに確実に一撃で仕留めたい。

なのでまずは防具を探る事にしたのだ。

作戦通り、切り裂かれた着物の隙間から装備をうかがい知る事が出来た。

だがそれを見て封は小さく舌打ちをする事になってしまった。

カイテツは皮の胴衣の上に鎖帷子を着込み、更にその上から甲冑や籠手、具足などを着けていたのだ。

これでは素手による攻撃も武器を使った攻撃も通用するまい。
2014-06-09(Mon)

小説・さやか見参!(237)

海から吹く風が、決して新しくはない宿の板壁を軋ませた。

港町の二階建ての宿屋、

その二階に封は滞在していた。

すでに深夜である。

だが、封は眠ってはいなかった。

暗闇でじっと座って風の音を聞いていたのである。

浴衣のような簡素な着物から片膝を立てた白い脚が覗いている。

その肌を隙間風が冷やした。

昼間は暑いぐらいの時もあるが、夜はまだ肌寒い。

封は窓を少し開けて空を見た。

厚い雲が月光を完全に遮蔽しているようだ。

封はこの国の月が好きではなかった。

この国に来て、一角衆に身を寄せて、封は常に闇に乗じて活動してきた。

紅に染まった己の凶行を、月は全て知っているのである。

だから、月が見えないこんな夜は少しだけ安心する。

封はちらりと階下を眺めた。

当然ながらこんな時間に出歩いている者などいない。

人の姿はない。

だが、

姿がないからといって気配がないとは限らない。

特にこんな月明かりもない夜は。

封は窓を静かに閉めるとするりと着物を脱ぎ捨て着替え始めた。

光沢のある青い生地に黄色い襟と帯。

それは封の戦闘服であった。

いくつかの暗器を襟や帯の中に手挟むと再び窓を開け、ふわりと飛び降りた。

音も無く着地するとそのまま海に向かって走る。

人目につく場所で戦うわけにはいかなかった。

一角衆粛清隊。

それは抜け忍をはじめ、一角衆を裏切った者を処分する特殊部隊である。

そいつらが自分を追ってくる事は分かっていた。

しかしこうも早く追いつかれるとは。

道中で旅費を稼いでいた時間が悔やまれるが仕方がない。

とにかく倒すしかない。

障壁は自分の手で取り除かねばならないのだ。

未来に向かう為には。

港を過ぎ、砂浜を越え、風景が岩場に変わったところで封は足を止め振り返った。

そこにはいつのまにか巨大な影が立っていた。

周囲の岩と同化しそうなほどの巨大な人影だった。

封はすっと足を引いて距離を取ると

『意外に素早いじゃないの』

と静かに言って身構えた。

影は身動きもせず、場違いに大きな声で

『俺はァ、一角衆粛清隊が一人ィ、鉄槌のカイテツだァ!!』

と名乗りをあげた。

右手には、米俵ほどもあろうかという鉄槌が握りしめられていた。
2014-06-09(Mon)

小説・さやか見参!(236)

ずいぶん西に来た。

そう思いながら、封は港から海を眺めた。

少しだけ景色が曇って見える。

さぁっと風が吹いた。

封の長い髪がそよぐ。

潮の香りが鼻腔をくすぐる。

懐かしい。

目を閉じて息を大きく吸い込む。

瞼越しに太陽の光が飛び込んできた。

ちょうど真上から封を照らしている。

息を吐き目を開くと、足元には短い影が出来ていた。

もう一度海を見る。

この時間になると港に人影は少ない。

停泊している漁船がいくつも海面で揺れている。

所々に網の手入れなどをしている漁師の姿が見える。

封は、幻龍イバラキとの戦いの後この地へやって来た。

船に乗り、祖国へ帰るつもりなのだ。

故郷に帰ったとて、そこにはもう自分の居場所はない。

それは分かっている。

だが、

この国にいたところで、一角衆にいたところでそれは変わらぬ、

そう思ったのだ。

ならばせめて、ひっそりとでもいい、故郷で家族を作り、故郷で死んでいきたいと、

そう思ったのだ。

一族の再興は叶わぬのである。

ならばもう、無理に修羅の道を歩む必要は無い。

翌々日には船が出る。

もうすぐこの国ともお別れだ。

(断は今頃どうしてるかしらね)

ふと思う。

もしかすると断も生まれ故郷に帰りたいかもしれない。

(私一人で帰っちゃってごめんねぇ)

そう心の中で呟く。

だが決して申し訳ないとは思っていなかった。

何を決めるのも結局は個人の決断なのだ。

断が一角衆に居続けるというのなら、それもまた断の決断なのである。

帰りたいと思ったならば帰ってくるだろう。

(また向こうで会う日が来るかもね、分からないけど)

封は照れるような笑みを浮かべて海に背を向けた。

泊まっている宿までは歩いてすぐである。

宿に戻ったところでする事もなかったが、外にいてもそれは同じだ。

出立の日までおとなしくしていよう。

あと二日。

おとなしくしていたいのだが、

そうもいかぬという事を、

封は分かっていた。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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