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2014-03-05(Wed)

小説・さやか見参!(220)

『なんだったんだ?今の』

空を見上げながら邪衆院が呟く。

改めて言うが、この男が驚いている姿などめったに見れるものではない。

イバラキや一角衆の繰り出す秘技・奥義の数々にも平常心で臨める男なのだ。

いかに優れていようと常軌を逸していようと所詮は人間の技、自然が起こす神秘には敵わぬという事だろうか。

邪衆院は声をかけようとさやかを見た。

さやかは、魔剣を天に掲げたまま、青空を映す刃を見つめていた。

『どうした?さやか』

そう言われて、さやかは魔剣をそっと抱いた。

『多分だけどね、この剣は喜んでる。私と出会えて』

『えっ?』

意外な言葉に邪衆院も首をかしげた。

『さっき、何だかこの剣の声が聞こえた気がしたの。やっと会えた、って』

『どういう事?』

『気のせいかもしれないけどね、魔剣が喋るはずもないし。でもね』

言いかけてさやかは邪衆院の顔を見た。

軽く睨んで

『こいつ頭おかしい、と思ってんじゃないでしょうね』

と凄んだ。

邪衆院は吹き出しそうになったが我慢した。

『いや、全然。なに?そんな事を気にしてるの?』

宿敵の手下にもまるで友達のような接し方をしてくる。本当に変わった娘だと邪衆院は思った。

だがそれは、さやかの性格のせいでもあり、邪衆院の人柄のせいでもあった。

この二人の組み合わせはあまり緊張感を生まないようだ。

だからこそ、もしも殺し合うつもりで対峙をしたならば凄惨な結果を免れない危険性をはらんでいるのだが…

しかし今はその心配はないようだった。

『別に気にしちゃいないわよ。あまりに突拍子も無いから一応訊いてみただけ』

『分かってるって。それで魔剣は君に何て?』

邪衆院が続きを促す。

『うん。やっと自分を操ってくれる者を見つけたって』

『自分を操る者?斬った者をを操る魔剣が?』

『そう。どうやらね、自分を操ってくれる人間を探してたみたい。でも自分は動けないからたくさんの人を斬って操って探させてたんだって』

邪衆院が神妙な顔でうなずく。

『なるほどな…自分を手にした紅蓮丸の心を乗っ取り、たくさんの人間を操って、自分の真の所有者を探していたって事か。それで君は魔剣に見初められたってわけだ』

今度はさやかがうなずいた。

『他人を操ろうとする者は魔剣に支配されてしまうから』

『魔剣を支配する者は他人を支配しようとせぬ者…なるほどね、君だ』

邪衆院は納得したような晴れ晴れした表情で背伸びしながら数歩進んだ。

『イバラキ様は魔剣なんかに頼る人じゃないけど、自分の力で他人を支配しようって気持ちがあるからなぁ。だから選ばれなかったんだろうね』

その言葉を聞いて、さやかは意地悪っぽく、ちょっと勝ち誇った顔を魔剣に近付けた。

『ね?私とイバラキじゃ大違いでしょ?分かったか!』

まるで返事をするように、魔剣がきぃんと小さく鳴った。

『可愛いやつめ!さっきあなたを殴らなくて良かったわ!』

代わりに殴られた紅蓮丸は木に縛られて気を失っている。

『でも、私はあなたを所有する事は出来ないの。荘島の殿様に献上しなくちゃいけないし』

寂しげに刃がきぃんと響いた。

『でも!もし何かあったら力を貸してもらいに行くから!その時は私を助けてくれる?』

さやかの言葉に魔剣が輝いた。

まるで力強くうなずくように。

『良かったぁ。じゃあ一緒にお城に行こうね』

さやかは魔剣を大きな布数枚でぐるぐる巻きにした。

巨大ゆえ目立つのだがむき出しで運ぶわけにもいかない。

『じゃね、邪衆院天空、イバラキの奴によろしく伝えといて。山吹さやかがすっごい悪口言ってたって』

『分かった。伝えとくよ』

『それから』

さやかは肩越しに邪衆院を見て、訊いた。

『本当は何をしに来たの?』

邪衆院は笑顔で答える。

『最近話題の辻占の老人を知ってるかい?神出鬼没で、死者を降ろす事が出来るっていう』

さやかは一瞬怪訝な顔をした。何故そんな事を訊くのかといった表情だ。

『話だけは知ってるわ。街道ではその噂でもちきりだもんね。それが何か?』

『そうか。いや、それを聞きたかっただけなんだ。ありがと』

『そ、変な奴』

そう言ってさやかは走り出した。

振り返りもせず、その後姿はどんどん小さくなっていく。

さやかが見えなくなるのを待って、邪衆院は呟いた。

『噂だけ、か…』

イバラキと邪衆院は、いずれ辻占が山吹に対して動くのではと予想していた。

さやかが知らぬのならば二人の見当は外れているのかもしれない。

もしくはまだ動いていないだけか。

何にしても気をつけるに越した事はない。

邪衆院は踵を返しさやかと反対の方向に走った。

イバラキの元に戻る為だ。

この場所に再び沈黙が訪れた。

後に残っているのは、縛られたまま忘れ去られた紅蓮丸だけであった。
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2014-03-03(Mon)

小説・さやか見参!(219)

『こんな天候ってある?』

立ち上がった邪衆院がいぶかしんだ。

『見た事無い』

さやかも呆然と空を見ている。

一天にわかに掻き曇り、等と文句もあるが、それを目の当たりにしたのは初めてだった。

突然日が暮れたような闇が訪れる。

その中で一瞬、稲光が二人を照らした。

さやかは雷鳴に備えた。

光と音のずれで落雷の距離を測る為だ。

だが、いつまでも轟音が響く事はない。

何故ならその光の正体は雷ではないからだ。

『山吹さやか、あれ、見てみろよ』

邪衆院の声が少しうわずっている。

この男が驚く事などめったにないと言うのに。

さやかは邪衆院の視線を追った。

そこでは、

倒れている紅蓮丸の傍らでは、

伝説の魔剣がまばゆいばかりの光を放っていたのだ。

『刀が、光ってる!?』

『これは、まさに魔剣だな』

さやかと邪衆院が身構える。

斬った者を操る意外にも妖力を持っているのかもしれない。

だが、魔剣は強力な光で二人を照らす以外に変化を起こそうとしなかった。

やがてさやかが

『この光、私を呼んでるのかしら…』

と呟いて魔剣にゆっくり近付いた。

『呼んでるって?』

『分かんないけど、なんかそんな感じ』

さやかを前にして、魔剣は光を柔らかくしたように見えた。

そこから敵意は感じ取れない。

やがて柔らかな光は微かに点滅し始めた。

ゆっくりと、何かを語るように。

さやかは、そっと魔剣の柄を握った。

ずしりとした重さが伝わってくる。

若きくのいちが一人で持てるような重量ではないのだろう。

だが、さやかは何故か、

『これは自分の力で持たねばならない』

と思った。

さやかは大地を踏みしめ、腰を落とし、一気に魔剣を天にかざした。

その瞬間、

魔剣は今までにないほどの光を放ってさやかと邪衆院の視界を奪った。

『うっわ…山吹さやか、大丈夫か!?』

『大丈夫、だけど、何も見えない!!』

『俺も!!』

瞼を透かして網膜を焼かんばかりの光の中で二人はお互いを気遣っていた。

やがて、光はゆっくり、ゆっくりと弱くなって、やがて消えた。

さやかと邪衆院が正常な視界を取り戻したのは光が消えてしばらく経ってからの事である。

二人の目の前には、澄んだ青空が広がっていた。
2014-03-02(Sun)

小説・さやか見参!(218)

さやかの足元に倒れた紅蓮丸を見て邪衆院が感心したような声を上げた。

『やるねぇ。噂通りだ』

さやかは刀を納めながらじろりと睨む。

『どんな噂よ。どうせイバラキがろくでもない事を言ってんでしょ』

邪衆院はにやりと笑う。

『さぁ?どうかな』

含みを持たせた笑みなのだが、そこから邪気は感じ取れない。

さやかは邪衆院の笑顔を見て

『やっぱり変な奴』

と吐き捨てた。

『この魔剣、どうする?』

邪衆院が声をかける。

さやかは戦いに巻き込まれボロボロになってしまった樹の幹に紅蓮丸を縛りつけながら

『荘島のお殿様に届けるわ。そこで見つかったんなら荘島のお宝でしょ』

と答えた。

それを聞いた邪衆院は隣にしゃがみ、さやかの顔を覗き込んできた。

『なによ』

『惜しくない?』

『は?』

『誰でも意のままに操る事が出来る魔剣だよ。持ってたら怖いものなしじゃん』

紅蓮丸を完璧に縛って、さやかは邪衆院の目を見た。

邪衆院もさやかを見ている。

一瞬だけ時が止まったような沈黙があって、

さやかは

『はっ、馬鹿馬鹿しい』

と立ち上がった。

『え、馬鹿馬鹿しいかなぁ』

邪衆院はしゃがんだまま野良着姿の少女を目で追う。

『私はそんな物に頼らなくたって怖いものなんかないわよ』

地面に落ちた魔剣は太陽を反射してぎらぎらと光っている。

さやかは空を見た。

春を感じさせる青空だ。

中天を過ぎた太陽も爽やかにまぶしい。

『でもおかしらを、幻龍イバラキを止める事は出来るかもよ?』

さやかは眉間に微かな皺を寄せて邪衆院に向き直る。

『そんな物の力を借りても勝った事にはならないでしょ。誰かの力を借りて誰かを支配するなんて下衆よ。私達が求める平和はそんなんじゃない。イバラキは自分の力だけで叩きのめしてやりたいし。…イバラキはこの魔剣欲しがってんじゃないの』

そう訊かれて邪衆院はぷっと吹き出した。

『やっぱり君とおかしらは似てるんだなぁ』

『はぁ!?』

『おかしらも同じ事言ってたからさ。天下を支配するのも山吹を倒すのも己の力のみで果たす、って』

『ちょっと似てるけど全然違うじゃないの』

『微妙な差異だけどね。ま、おかしらも要らないって言ってたし、その魔剣はお殿様に献上って事で』

邪衆院は相変わらず笑顔だ。

さやかはその顔を憎憎しげに見てから魔剣を拾おうとした。

その時、

さやかの視界が急に暗くなった。

いや、実際に目に入る景色が暗くなったのだ。

まるで夜かと見まごうばかりに。

さやかと邪衆院は同時に空を見て言葉を失った。

さっきまでの青空が嘘のように、

目に映る一面が、厚く黒い雲に覆われていたのである。
2014-03-01(Sat)

小説・さやか見参!(217)

邪衆院は続ける。

『多分あの魔剣は従えたいんだ。君を。山吹さやかをね』

『私を?』

『そう。きっとね、強いのに脆い、脆いくせに強い、そんな人間が好きなんだと思う』

『言ってくれるじゃないの』

『下忍に対した時とは明らかに妖気が違う。この魔剣がこんなに猛ったのは君と』

『私と?』

『イバラキ様だけだね』

さやかは紅蓮丸の攻撃をよけて跳躍し、邪衆院の隣に着地した。

そして溜息をつくと

『イバラキと私は同じ、か。光栄だわ』

と不愉快そうに呟いた。

飛び込んできた紅蓮丸が、いや魔剣が、邪衆院ごとさやかを薙ぎ払おうとした。

さやかと邪衆院が同時に跳んだ。

空中でさやかが刀を構え直す。

『やる気だね』

『もちろんよ。私とイバラキを同じに扱うなんて。あの魔剣に腹が立ってきた』

降りてくるさやかを魔剣が斬り上げる。

さやかは刀を振り下ろすと魔剣を側面から払った。

重量に勝る魔剣はびくともしなかったが、さやかの目的はただ攻撃をかわす事ではなかった。

魔剣を払った反動を利用する為だったのだ。

払いざまに魔剣を押しその反動で身を翻す。

さやかは見事に紅蓮丸の背後に着地した。

『こざかしいわね!!』

紅蓮丸が反撃しようとするが、いかんせん刀は接近戦に弱い。

ましてや巨大な魔剣では自らの背後に張り付いた敵を攻撃する事は出来なかった。

邪衆院が拍手して明るく声をかけた。

『お見事!最初からそうすれば良かったのに』

『火遁を受けたくなかったからよ!でも今は火傷してもこの魔剣をぶん殴ってやりたいって気持ちなの』

『魔剣を殴っても手が痛いだけだからさ、代わりに紅蓮丸を殴っとけば?』

『そうするわ!』

さやかは背後から紅蓮丸の両腕を極めて動きを封じると、左に持ち替えた刀の柄頭で紅蓮丸の頭頂部を殴打した。

『ぎゃん!!』

紅蓮丸は犬の鳴き声のような声をあげて、崩れるようにがくりと倒れた。

結局今回も冴えない負け方だった。
2014-02-16(Sun)

小説・さやか見参!(216)

『邪衆院、天空』

さやかが復唱した。

『イバラキの手下って事は、あんたも忍者なの。そんな風には見えないけど』

『忍者ではないなぁ。武術家?殺し屋?…う~ん、肩書きは難しいな…。とりあえず今は幻龍組の武術教練をやってる』

『へぇ、じゃあ片腕みたいなもんね、イバラキの』

まるで世間話のように言葉を交わしているが、この間もさやかは紅蓮丸の攻撃を避け続けているのだ。

『で?邪魔しに来たの?それとも手伝ってくれんの?』

『いや、見てるだけ』

邪衆院は笑顔で答えた。

『そ。変な奴』

掴み所の無い男だが本当に見ているだけのようなので、さやかは気にせず戦いを継続する事にした。

しばらく見ていて分かったが、紅蓮丸の太刀筋には小細工がない。

ただ「敵を斬る」という意思が伝わってくるばかりである。

これならば反撃出来るかもしれない。

しかしさやかは思いとどまった。

『そうだ、邪衆院、こいつが刀に操られてるってどういう事?』

『敵に訊く?』

『あんたが言い出したんでしょ。最後まで言いなさいよ』

『はいはい』

そのやり取りに紅蓮丸が割って入った。

『ちょっと小娘!私を無視するなんていい度胸してるじゃないのよ!!』

この紅蓮丸という男、どれだけ派手に振る舞ってもぞんざいに扱われてしまう運命らしい。

それを見て邪衆院が吹き出した。

『そいつ、自分の意思で、自分の力で戦ってると思い込んでる。でも本当はその刀に使われてるだけなんだ』

『刀に使われるなんて』

『それは荘島で発見された伝説の魔剣でね、斬った相手を意のままに操る事が出来るんだって』

『それは誰が操るの?所持者?それとも』

『もちろん魔剣本体さ。その刀は他人を操ろうという明確な意思を持ってる。でもいかな魔剣とは言え自分自身で人を斬る事は出来ない。自分を振るってくれる奴が必要だ』

『それじゃ…』

さやかは執拗に刀を振るう紅蓮丸を見た。

『そこに現れたのがその紅蓮丸だよ。他人を従えたい欲にまみれ、くのいちを嬲りたい欲にまみれ、なおかつ魔剣を制御出来るほど強い心を持ち合わせない、そんなうってつけの男が魔剣の封印を解いてしまった』

『なるほどね』

にわかに信じがたい話ではあるのだが、炎丸との戦いでタオの鏡の不思議な力を目の当たりにしているさやかは、邪衆院の言葉を素直に受け入れていた。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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