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2014-02-12(Wed)

小説・さやか見参!(215)

紅蓮丸の攻撃が次々と繰り出される。

鉄板のような刀身が空を切る度に、うぉんうぉんと耳障りな音が上がった。

さやかは反撃の機を見計らっている。

どれだけ速くとも、さやかほどの腕があれば剣戟をかわすのは容易い。

だがさすがに攻撃に転ずるのは難しかった。

(火遁の術さえなければ…)

さやかは内心そう毒づいた。

不意をついて襲ってくる炎の恐ろしさは対・炎丸戦で味わっている。

今はまだ使う気配もないが油断するわけにはいかない。

『ふふふ、どうですかワタクシの腕前は。手も足も出ないようですね』

『ば~か、出ないんじゃなくて出してないだけよ』

強がってみたがこのままではらちが明かない。

さやかは試しに攻撃に踏み切る事にした。

しかも、敵の得意な火遁で。

『負け惜しみはおやめなさい!』

紅蓮丸が胴を払う。

さやかは回転してよけつつ、手甲に忍ばせた液体を秘かに口にふくんだ。

そして紅蓮丸に向かって一気に吹き出すと自らの刀を紅蓮丸の魔剣に叩きつけた。

がきん!!

火花が散る。

そして液体に引火した火花は一瞬大きな炎に変化した。

さぁ、どう出る?

さやかは紅蓮丸の反応を窺った。

そして怪訝な表情をした。

かすかに、本当にかすかにだが、紅蓮丸が明らかに動揺していたからだ。

火遁の使い手が敵の稚拙な火遁に狼狽するはずがない。

ならばこの男、火遁は使えないという事か?

頭の中で様々な可能性を考えながらさやかは紅蓮丸を見た。

そして気付いた。

紅蓮丸の眼には光がない。

感情を表す光が全くないのだ。

これは術にかけられ催眠状態に陥った者特有の眼である。

という事は…

さやかが距離を取って身構えた。

そこへ突然、男の明るい声が響いた。

『そう、そいつは操られてるよ』

その声はあまりに唐突で場違いだったので、手練れのくのいち山吹さやかも驚きを隠せなかった。

『誰!?』

さやかが紅蓮丸の斬撃をかわしながら声の主を探す。

『紅蓮丸は今、自分の意思じゃなく、その魔剣に操られて戦ってる』

『もう!誰よ!?どこにいるのよ!!』

さやかは苛々しながら横に跳んだ。

そしてようやく声の主を見つけた。

男はいつの間にか紅蓮丸の背後、二十間ほど離れた倒木に腰掛けていた。

屈託の無い笑顔を浮かべて。

『あんた、誰!?』

戦いながら問うさやかに、男はさわやかに

『邪衆院 天空。幻龍イバラキの手下って言うか何と言うか』

と答えた。
2014-01-19(Sun)

小説・さやか見参!(214)

紅蓮丸の持つ巨大な剣が風を切ってうなりをあげた。

かなりの重量のはずだが、それを感じさせない速度で執拗にさやかを狙ってくる。

その威力もかなりのもので、風圧で地面はえぐられ、かすめた樹木の幹は木っ端微塵に粉砕された。

さやかは絶妙な距離で攻撃をかわしている。

もし少しでも油断があれば思わぬ苦戦を強いられた事だろう。

だがさやかは、かつての炎丸との戦いで知っていた。

炎一族は、人格に大問題を抱えているが、戦闘力は並々ならぬものを持っている、と。

なればこの紅蓮丸もただのウザいオカマのオジサンであるハズはない。

さやかは思い出していた。

炎丸が使った火遁の攻撃を。

あの術にはかなり追い詰められた。

もし紅蓮丸が同等の、もしくはあれ以上の術を使ってきた場合、一瞬の気の緩みが勝負の明暗を分ける。

まずは敵の力量を見切らなければ。

巨大な刃がさやかの頭部に振り下ろされる。

さやかは身体を開いてかわしながら紅蓮丸の側面に回り込んだ。

今度はさやかの刀が紅蓮丸の腕を狙う。

攻撃をよけられ大きく隙を見せた紅蓮丸にそれをかわす事は不可能だと思われた。

だが巨大な剣はさやかの想像をはるかに上回る速度で斬り返された。

さやかの刀がはじかれる。

がきーーーん!!

あまりの衝撃にさやかの小さな身体は少し吹っ飛ばされた。

『や、やるじゃないの!気持ち悪くてウザいくせに!!』

体勢を整えながらさやかが悪態をついた。

『ふふふ、生意気なくのいちを嬲るのが趣味なもので』

紅蓮丸は妖しい笑みを浮かべながら更に迫ってくる。

さやかは知らなかったが、紅蓮丸が持つ巨大な剣は『斬った相手を操る伝説の魔剣』なのである。

この剣は人を斬る事を欲し、その邪悪な意思が紅蓮丸を支配しているのだ。

つまり、さやかが今戦っているのは紅蓮丸ではなく、紅蓮丸の姿を借りた魔剣そのものだったのである。
2014-01-12(Sun)

小説・さやか見参!(213)

山吹流の後継者・さやかと、炎一族の面倒くさい長兄・紅蓮丸は、かつて音駒が一角衆に襲われた場所で対峙していた。

いや、対峙と言うよりは、ただ向かい合って立っていた。

さやかの方には全く緊張感がなかったからだ。

野良着の少女は、感情が昂ぶる度にオカマ言葉になる奇妙なおじさんと関わりたくなかったのである。

『えっと…それで、私に何の用?私忙しいんだけど…』

『我が弟・炎丸は現在行方知れず…。あなたなら何か知ってるんじゃないかと思いましてね。それでここで待っていた、というワケです』

さやかは食い気味に反論する。

『すらすらと嘘ついてんじゃないわよ。私が炎丸に会った事があるなんてついさっきまで知らなかったくせに』

『うぐっ』

紅蓮丸の言葉が詰まる。

何故こんなどうでもいい嘘をついてしまうのか、それは紅蓮丸本人にも分からない。

性格、なのだろう。

『お黙りなさい!』

紅蓮丸が声を荒げた。

逆ギレして誤魔化そうとしたのである。

『我が弟・炎丸が現在どうしているのか、あなたはそれを答えれば良いのです!』

さやかは虚ろな目で大きく息を吸い、しばらく止めてから静かに吐き出した。

彼女の頭の中にはただ、

め・ん・ど・く・さ・い

の六文字が浮かんでいた。

『あんたの弟なら今頃牢屋の中よ。たくさんの人を傷つけて苦しめたから成敗してやったわ』

『な、なんですって!?』

『あ、せっかく見つけたお宝も没収されちゃってるわよ。残念だったわね~』

さやかは意地悪な笑みを浮かべた。

真冬の寒空の下、服を剥いで縛りあげて水たまりに転がして、更に石をぶつけて前歯をへし折ってやった時の事を思い出したのだ。

金丸藩で役人に引っ立てられている時の姿は本当にみすぼらしいものだった。

『すると弟は、タオの鏡を見つけていたのですね。炎一族再興に必要なお宝の一つを…』

紅蓮丸はうつむいて噛み締めるように呟いた。

『あなたはそれを奪い、弟を成敗したと…そういう事でございますね』

『そうよ』

紅蓮丸が顔を上げて、きっと目を見開いた。

『山吹さやか!わたくしは弟のかたきを討つ為にあなたを探していたのです!』

巨大な剣が振り上げられる。

『だーかーらー、私が成敗したってたった今知ったんでしょ!?テキトーな事ばっか言ってんじゃないわよ。なんなの!?このオカマのおじさんは』

さやかは呆れを通り越して切ない表情をしていた。

『うるさいわね!弟のかたき!いくわよ!!』

全然気乗りしないまま戦いが始まってしまった。
2014-01-07(Tue)

小説・さやか見参!(212)

『見つけましたよ、山吹さやか』

さやかが全身を紅い装束に包んだ謎の男に絡まれたのは、音駒を襲った二人組を調べている時だった。

『はぁ?』

目立たぬよう野良着で探索していたのだが、この男はさやかの変装を見破ったらしい。

(意外とやるようね…そうは見えないけど…)

そう思いながらもさやかは表情を変えず男を見返した。

紅い装束、紅い覆面、紅い鉢金、紅い甲冑。
覆面から両目だけを覗かせた男は巨大な剣を肩に担いでいる。
怪しい。
どう見ても怪しい。

『さやか、あの時は恥ずかしい姿を見せてしまいましたが…今日こそわたくしの力を見せて差し上げましょう』

紅い男が巨大な剣先をさやかに向けた。

『あの~~~…誰??』

『ずるっ』

紅い男がずっこける。

『わ、私よ私~!ほら!あんた見たでしょ!?荘島のお城でほら!足元に倒れてたはずよ!!』

さやかが小首をかしげる。

『私の足元に?あんたが??』

『そうそう』

大仰にうなずく男を見つめてしばらく考えてみたが、出てきた答えはやっぱり

『ごめーん、分かんないや』

というものだった。

男が

『が~ん…』

と口にしてあからさまに落ち込んでいる。

『ご、ごめんね!荘島に行ったのは覚えてるんだけど、私、興味ないものは目に入らないって言うか…』

照れ笑いで乗り切ろうとするさやかだが、男はその言葉で更に落ち込んだようだ。

『ず~~~ん…』

男の立ち位置だけ光が遮られているかのように暗い。

物理的に、ではなく、空気が暗くなってしまっているのだ。

さやかは自分の失言に気付いて更に照れ笑いを浮かべた。

『と、とにかく!今は調べ物で忙しいから、御用はまた日を改めてという事で…』

背を向けて去ろうとする。

さやかは音駒が襲われた現場に来ていたのだ。

心太郎の話では、犯人はかなり手練れの二人組との事なので手がかりを残している可能性は低い。

しかし調べずにはいられなかったのだ。

調査に戻ろうとしてさやかは

『あ』

と言って立ち止まった。

そしてゆっくりと振り返り、

『あんた、あいつに似てるわね』

と、改めて男を見つめた。

『あいつ?』

男も尋ね返す。

さやかは思い出す。

炎を使って戦いを挑んできた赤い男を。

秘宝・タオの鏡を使って罪も無い村人達を焼き殺そうとした非道の男を。

『あいつとは誰の事です?』

もう一度男が訊いた。

『あ、元に戻ってる』

『え?』

『さっきまでオカマみたいな喋り方だったのに』

『そんな事どうだっていいのよ!!』

どうやらこの男、普段は紳士的だが感情が高ぶると喋り方が変わってしまうようだ。

『だから、私と誰が似てるって!?』

『炎丸だったかな?あんたみたいに全身赤くて炎を使う最低な奴。うん。炎丸』

さやかがそう言うと、目の前の紅い男は一瞬黙った後、ふふふふと笑い、

『炎丸はわたくしの弟です』

と挑戦的な笑みを含ませて答えた。

『え?じゃああんたは…』

男は急に胸と声を張った。

『わたくしは炎丸の兄!炎一族長兄、地獄の炎の申し子、紅蓮丸!!覚えておきなさい!!』

さやかの耳に紅蓮丸の言葉は残っていなかったが、一つ一つの反応を見て、

(こいつ、めんどくさい…)

と、内心げっそりしていた。
2013-12-21(Sat)

小説・さやか見参!(211)

一族の再興、などと、

後継ぎを産み育てる、などと、

そればかりを考えて、故郷がどうなっているのかなど考えもしなかった。

いや、隣国とは言え船でひと月もかかる場所なのだ。

つい先日始まった戦さの事など知りようがない。

そこまで考えて、封は心の中での言い訳をやめた。

不可能に思えても、現にこの邪衆院という男はそれを把握しているではないか。

邪衆院、ひいては幻龍組は目先の事だけでなく大局を見極めようとしているのだ。

彼らに出来て自分に出来ぬというのはただの怠慢だ。

封は己の視野の狭さを思い知った。

『もう殺してくれていいよ…』

封が力なく呟く。

『後継ぎも産めない、一族を興す場所もない、そんなんじゃもう、生きてく意味がないわよ…』

吐息のような独白だった。

今まで張り詰めていたものがぷつりと切れてしまったのだろう。

それを見てイバラキは

『邪衆院』

と呼びかけた。

『はっ』

邪衆院が答える。

これで最後だと封は目を閉じた。

だが、

邪衆院は喉元から刃を外し、背後から離れた。

『!?』

予想外の展開に封が戸惑う。

『おぬし、弱い女だな』

イバラキがそう言った。

『な、なんですって!?』

封はたじろぎながらも憤った。

しかし、イバラキの口調から侮蔑は感じられなかった。

『おぬし、子を成せぬ身体にされて拙者を恨んでおったであろう。その憎しみの炎を何故簡単に消す?恨んで、憎んで、拙者を殺す為に生きてやろうと何故思わぬ?』

『それは』

封が言いよどんだ。

『あんたを殺したって、もう私の願いが叶う事はなくなったから』

『確かに一族再興はおぬしの悲願であったろう。だがな、だからこそ、それを阻む者は倒すしか、殺すしかない。そうでなくては、その悲願に賭けたおぬしの一生が浮かばれまい』

『私の…?』

封は更に戸惑っている。

イバラキの真意が読めない。

『おぬしはたった一つの願いの為に命を賭けて戦ってきたのであろう。苦しくとも、つらくとも、血を吐き、涙を流しながらも生きてきたのであろう。よいか、その願いを邪魔されたという事は、おぬしのこれまでの全てを否定された事になるのだぞ』

『イバラキ…』

『おぬしがこれまで必死に生きてきたのなら、そう胸を張って言えるのなら、絶対に自分自身を裏切るな。己を否定し蹂躙してくる者は絶対に許すな。これからは、拙者に復讐する事だけを考えて生きてみよ。異国まで来て負け犬になりたくなければな』

イバラキは封に背を向けた。

『だから拙者は、山吹と一角を倒す為だけにおめおめと生きながらえておるのだ。大切なものを奪われ続けても』

復讐心で生きているのは宿敵・山吹さやかも同じである。

それゆえイバラキはさやかに自分と同じ匂いを感じるのだ。

イバラキが背を向けている間に邪衆院が封に近付き何かを囁いた。

すると封は一瞬驚いた表情をし、そしてふっと笑った。

『幻龍イバラキ、あんたの持つ荊木流の奥義、今度こそ奪ってやるから』

その目に敵意はない。

イバラキも振り返り、にやりと笑うと

『これの事か』

と、懐から出した巾着袋を封に放った。

受け取った封は一瞬躊躇した後、袋の中身を改めて、

笑った。

『なるほどね、これが奥義なんだ』

イバラキは黙って笑っている。

封は巾着の口を閉じるとイバラキに近付き丁寧にそれを返した。

『イバラキ、あんた一生許さないからね。私を騙した罪は重いよ』

微笑んだ封は、ただ美しかった。

『望むところ』

そう答えたイバラキの目もどこか優しげに見えた。

次の瞬間、封は高く跳躍して二人の前から姿を消した。

それを見送った邪衆院が明るい口調で言う。

『いやぁ~、彼女、またいつ襲ってくるか楽しみですね~』

イバラキはそれには答えず

『邪衆院』

と呼びかけた。

『はい?』

『おぬし、封に何か余計な事を言ったであろう』

『いえ?別に??』

とぼけた口調だ。

実は邪衆院、先ほど封の耳元で

『あの時かしらが突いたのは、数ヶ月だけ子供が出来なくなる経絡。生涯ってのはかしらの大嘘だから』

と打ち明けたのだった。

一族再興の夢が潰えても、まだ一人の女性として、母としては夢を持って生きていけるのだと、そう伝えたのだ。

『まったく、おぬしは女に甘すぎるな』

『おかしらこそ、でしょ』

幻龍イバラキと邪衆院天空は宿に戻る為に歩き始めた。

封と戦う事はもう二度とないであろう。

イバラキは終始無言のままであったがそこに重い空気はなく、

邪衆院はなんだか晴れ晴れした気持ちで従って歩いた。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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