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2013-01-14(Mon)

小説・さやか見参!(180)

さやか達が向かう荘島の城にはいまだ幻龍組の影があった。

イバラキの傀儡となった藩主によって出された『虚言を以て他人を欺くを禁ず』の触れが人々をどう動かすのか、それを確かめる為である。

これまでの国々ではイバラキを落胆させる結果しか出なかった。

嘘を禁じられた者達はこれまで以上に嘘で身を固め、他人を陥れる事に奔走した。

それが役人の知る所となれば死罪になるやもしれぬというのにだ。

嘘をつかねば良い、
人を騙さねば良い、
ただそれだけの事なのに、お上の厳命を受けてもなお人は人を欺こうとするのである。

やはり、他人を食い物にしてでも保身を謀るのが人間の本質なのか。

だとしたら『愛を語る忍びは三流』という一角衆の教えは正しいのかもしれぬ。

脳裏に今は亡き妻、かすみの顔が浮かんでイバラキはハッと我に返った。

一番思い出したくない記憶である。

忘れたくとも忘れられない記憶である。

かすみの事を思い出せば胸が痛む。

まだどこかに想いが残っているらしい。

長年自分を騙していた敵だというのに。
己が殺した女だというのに。

知らず知らずの内にイバラキは懐から小さな鴬色の袋を取り出して握りしめていた。

これを手にしていると不思議と心が安らぐ気がした。

『お、出しやがった』

物見櫓の最上部に腰掛けイバラキの様子を窺っていた断が呟いた。

頬はこけ、以前よりずいぶんやつれた様子である。

断はイバラキの攻撃により余命三年を宣告され、それから一年近くも経っているのだから当然かもしれない。

自身が属する一角衆に不信感を抱きながらも、断は己に課せられた使命を果たそうとしていた。

すなわちイバラキの持つ鴬色の、おそらくは幻龍の奥義を記す何物かが納められた袋を奪う為、櫓の上から眼下のイバラキを眺めていたのである。
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2013-01-06(Sun)

小説・さやか見参!(179)

『イバラキが!?』

さやかが驚いて声をあげた。

『どうやらそうらしいっシュ』

『なんであいつが…何の為に!?』

さやかが腰を浮かせて心太郎に詰め寄る。

『ちょ、ちゃんと話すから落ち着くっシュよ~!』

さやかと心太郎は頭領・武双に命じられて虎組の屋敷を訪れていた。

虎組の頭領・鋭牙、次期頭領・雷牙ともに留守だったので、座敷で帰りを待っている所なのである。

山吹の頭領・武双と虎組の鋭牙が旧知の間柄である事から、両家の繋がりは深い。

たけるの親友だった雷牙は、さやかにとってもう1人の兄も同然の存在である。

かつて山吹たけるを殺し、雷牙に瀕死の重傷を負わせたのが他ならぬ幻龍イバラキである。

『あちこちの殿様を操ってるのがイバラキだって言うの?あの、嘘をついてはならぬって御触れはイバラキが出してたってわけ?なにそれ、意味が分かんない』

『だから!ちゃんと説明するって言ってるじゃないっシュか!さやか殿!落ち着いてっシュ!』

渋々腰を落ち着けたさやかに心太郎は不問から聞いたままを伝えた。

『なるほど。人が人を騙す事のない世を作る為の実験をしてるって事ね。人間不信のあいつらしいわ。でもまさかここでイバラキと繋がってくるとはね』

と、さやかがため息をついた。

そこへ、

『全くだ』

と声がして、雷牙が入ってきた。

『雷牙!』

さやかが立ち上がり心太郎は居住まいを正す。

『さやか、心太郎、共に行くぞ。これより鬼退治じゃ』

『鬼退治?』

首をかしげるさやかに雷牙が頷く。

『ああ。先ほど頭領達からの命が下った。我々はこれより各組の精鋭を集めてイバラキを討ちに出る。龍と虎、つまり我々は共に荘島へ向かえとの事だ』

それを聞いてさやかの眼が変わった。

鳥飼で泣いていたゆりの事を思い出したのだ。

藩主を操って御触れを出したのがイバラキならば、ゆりを悲しませたのはイバラキだという事だ。

絶体に許せない、とさやかは心中で呟く。

『心太郎』

『はいっシュ!』

さやかの気持ちを読んだのか、心太郎も精悍な眼付きになって立ち上がった。

それを見て雷牙がにやりと笑う。

『おっ、さやか、気合いが入ってるな』

『当然。よし、雷牙、心太郎、行こう』

こうして三人はそれぞれの組の手下を連れて里から旅立った。
2012-12-18(Tue)

小説・さやか見参!(178)

木々の間を風が吹き抜けた。

頬に当たる風が湿気を撫で付けていく。

心なしか寒さが和らいできたようだ、と山吹流頭領、山吹武双は思った。

ここはかつての荊木砦から少し離れた山中。

くちなわが斬った女神像の前である。

真冬の間いくぶんか乾燥していた空気が再び水分を取り戻してきたように感じ、武双は冬の終わりを予感した。

『頭領』

ゆっくりと歩いてきた男は武双にそう声をかけた。

武双の弟、山吹練武である。


見た目の印象は違うが、全身から漂う空気は流石に兄弟、よく似ている。

『練武、どうであった』

『は。やはり不問の推測通りに』

『そうか…』

武双が左に顔を向けると、そこには山吹の三男、不問が立っていた。

『これで我等が知るだけでも、十二の藩があの者の手中に落ちたという事になりますな』

イバラキに斬られ、胴体から下を残した女神像を眺めながら不問が呟くと、長兄の武双が、

『鳥飼だけで済むまいとは思っていたが…』

と応えた。

鳥飼では藩主が何者かに操られていたのだが、調査の結果
、他の十一の藩でも同じ事が起きている事が発覚したのだ。

『しかし解せぬのは、その十二の藩が広範囲に点在しておる事。いずれかを拠点に侵攻を進めるならいざ知らず、このように各藩が離れていては治める事も難しかろう』

練武は地図を見ながら疑問を投げかけた。

地図上では何者かに侵攻されているという十二の藩に朱印が入れられているが、確かに全国に散らばりすぎていてまとまりがない。

『治めるつもりなどないのですよ、この首謀者は』

不問が事も無げに答える。

『なに?どういう事だ?』

『おそらく首謀者は試しているのですよ。藩主を操り、虚言を禁ずとの触れを出し、それで人々がどうなるのかを』

武双がそれを受ける。

『なるほど。統計を取るつもりならば拠点が全国に散らばっているのもうなずけるか』

『しかし何の為に』

『人が他人を欺かずに生きる事は可能なのか、それを確かめたいのでしょうな。首謀者はこれまでに幾度となく欺かれ嵌められ、心が歪んでしまった者でしょう』

そう言われた武双と練武の脳裏には、同じ男の顔が浮かんだ。

それを察するように不問がうなずく。

『相手が奴ならば、さやかを向かわせるのが最良かと思われますが…』

練武が続ける。

『いかに不世出のくのいちとはいえ、まださやかの心は幼い』

『分かっている』

武双はそう言うとくるりと振り返り、足下に膝まずいた忍びを見た。

『だからこそこの者を同行させておるのだ。さやかを頼むぞ、心太郎』

そう言われた心太郎は、顔を上げる事もなく、

『は、心得ております』

と力強く答え、地面を蹴り姿を消した。
2012-11-29(Thu)

小説・さやか見参!(177)

山の頂きに紅い男が立っていた。

『多分この山でございますね』

大仰に独り言を言っている。

『ここになければまた一からやり直しですからね、それは勘弁願いたい』

紅い装束を身に纏った男はため息まじりにそう呟くと、素早く斜面を滑り降りて行った。

炎三兄弟の長兄、紅蓮丸。

さやかに倒され今は金丸藩で入牢させられている炎丸の兄だ。

彼らは貴族の出でありながら、各地に眠る宝を探す狩人でもある。

という事はこの山に、

さほど大きくはない荘島藩のどこかに、

何かお宝があるという事だろうか。

しかして紅蓮丸はまだ知らなかった。

ちょうど同じ領内に、悪しき忍者の集団がいる事を。

その者達は紅蓮丸のいる山から遠く離れた所に、

藩主のいる城内に忍び込んでいた。

『よいか』

男のささやきが低く響く。

『これからおぬしは領内の民に告げなければならぬ。この荘島に平和をもたらす為にな。それが藩主たるおぬしの役目』

そう言われた藩主の口はだらしなく開かれ、眠そうな半目は虚ろに濁っていた。

よく見ると額や後頭部の何点かに、きらりと光る小さな針が打ち込まれている。

『おぬしの下で暮らす者達にこう告げよ。今後一切の虚言を禁じ、それをもって他者を欺きし者は厳罰に処す、と』

藩主の背後の男は低くつぶやきながら、銀色の義手で藩主の首に長い針を刺した。

すっ。

まるで何の抵抗も受けなかったかのように、針が肌に吸い込まれていく。

すると藩主は虚ろな表情を変える事なく口だけをぱくぱくと動かして

『…一切の虚言を禁じ…それをもって他者を欺きし者は…厳罰に処す…』

とつぶやいた。

義手の男がにやりと笑う。

だがその口元以外は鉄の仮面で覆われていて表情が読めなかった。

首に刺していた針を抜き男が立ち上がると、配下の黒装束がささと近付き、残りの針を全て抜いた。

青装束が湯飲みの白湯に薬を溶かして藩主の口にあてる。

ごくり、ごくり、

喉が動いて液体を嚥下し、そのまま藩主は、

ごろりと横になって寝息を立てた。

それを見て再びにやりと笑い、

幻龍イバラキとその配下は姿を消した。
2012-11-26(Mon)

小説・さやか見参!(176)

びゅううう。


暗闇に風が吹く。


暗闇には天もなく地もなく、


ただ、あの男だけが立っている。


びゅううう。


こんな天地も定かでない場所にあの男がいるはずがない。


だとしたらこれは夢だ。


いつものあの夢だ。


夢の中で繰り返される、私が私だった頃の記憶だ。


あの男、


正体は化け猫ともいわれていた粗暴な男、


私は化け猫退治をするはずだった。


戦って戦って戦って、


たくさんの仲間が倒れて私は鈴を鳴らした。


りん


ところがその鈴の響きは、何故か、私を


男の腕が迫ってくる、


『化け猫退治に行ったお姫様は、化け猫の妃になってしまいました』


やめて。


私のお腹には、


『かあさま』


あぁ、またこの声だ。


『かあさま』


この声に呼ばれると、


『ねぇ、かあさま』


目覚めたら私は、またこの夢の事を忘れてしまう。


『かあさま』


私が、私であった事さえ。



びゅううう。
プロフィール

武装代表・内野

Author:武装代表・内野
福岡・久留米を中心に、九州全域で活動している『アトラクションチーム武装』の代表です。

1972年生まれ。
1990年にキャラクターショーの世界に入り現在に至る。

2007年に武装を設立。

武装の活動内容は殺陣教室、殺陣指導、オリジナルキャラクターショー等。

現在は関西コレクションエンターテイメント福岡校さんでのアクションレッスン講師もやらせてもらってます。

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