2010-12-18(Sat)
小説・さやか見参!(45)
たけるが打った紙製の手裏剣は二人の眼球を狙って飛ぶ。
左の中忍はぎりぎりで首をひねってかわした為わずかに体勢を崩した。
右側の中忍はふりかぶっていた刀を引き戻し、柄で手裏剣をはじいた。
たけるほどの忍びが鋭く打ったものならば、紙であろうとも凶器になる事が分かっているのだ。
致命傷にこそならぬが直撃すれば眼球などひとたまりもあるまい。
二人の見せたわずかな隙をたけるは見逃さない。
右に素早く回り込み、手裏剣をはじいた刀の柄を腕ごと絡め取った。
そしてその勢いを殺さぬまま振り回し、まさにかかって来んとしているもう一人に向かって投げ付けた。
二人はぶつかった瞬間にたけるに蹴倒され、手足を絡められた上で押さえつけられた。
仲間に覆い被さるように倒れている中忍の背にたけるが腰をおろす。
絡まった手足をたけるが掴んでいるので中忍達は動けない。
『よし、ここまで』
たけるが軽く言って立ち上がった。
中忍もよろよろと立ち上がる。
『すごーい!お兄ちゃんすごーい!!』
さやかが駆け寄ってくる。
本気で感心したようだ。
『本物の手裏剣に折り紙で勝っちゃった!すごーい!!』
何度もすごいを連発する妹にたけるは言った。
『本物なら相手の命を奪う事は容易い。しかし折り紙の手裏剣でもこのぐらいは出来る。
習練次第ではね』
懐から手裏剣を取り出す。
赤と黄の二色で折られた手裏剣だ。
『俺は…人の命を奪うのは嫌いだ。出来るならば忍びの術で誰かを殺めたくはない』
さやかは驚く。
『えっ?忍びの術は戦いの為に修行するんでしょ?戦いになったら敵の命を奪わなくちゃいけないでしょ?』
たけるは片膝をついてさやかの目線まで降りた。
さやかに自分の心を伝えたい時、たけるは必ずそうした。
『今はそうかもしれない』
表情も声も優しい。
『でも、いつか必ず戦いのない平和な時代が来る。
その時に必要なのは敵を殺める術じゃない。
自分を、大切な人を守る術だ』
『え?え?大切なものを守る為に敵を殺すんじゃないの!?』
『俺はこの折り紙であの2人と戦って勝っただろ?』
『うん』
『あの2人は死んでるか?』
『…ううん』
『殺さずとも勝つ事は出来る。
これから必要になるのはそういう…いや、敵も味方もないか。勝ち負けでもない。
出来るだけ相手を傷つけずに大切なものを守る術なんだ』
そう言ったところで中忍の一人が
『今の攻撃も当たれば失明ものですが、人間、目を狙われると反射的に避けるようになっておりまする。だからたける様はここを狙われたのですな』
と自分の目を指した。
『そうなんだ…』
さやかは、敵を傷つけない事を前提とした攻撃がある事を初めて知り感銘を受けている。
もう一人の中忍がたけるの傍につき数枚の手裏剣を手渡した。
『さやか、これを懐にしまってごらん』
手裏剣はたけるからさやかに渡された。
鉄の、本物の手裏剣だ。
さやかはおずおずとそれを懐に入れると、少し困ったような顔をした。
『どうだ?』
さやかは小さな声で
『…冷たい…』
と答える。それから
『重い…』
とつぶやいた。
普段なら重さなど意識もしないのだが、紙の軽さに慣れた故か初めて手裏剣を重いと感じたのだ。
たけるはゆっくりとうなずく。
『人を殺す武器を懐にしまえば冷たくて重い。
同じように、殺意を抱けば心は冷たく重くなる。
さやか、もしも自分の身体が氷のように冷たくて岩のように重かったらどうなると思う?
おまえは速く走る事が出来るか?
高く跳ぶ事が出来るか?』
さやかは想像してみた。
冬の寒さに凍えきって石像と化した自分の姿を。
走るどころか動く事すらかなわなさそうだ。
そう思い、無言で首を横に振った。
たけるは立ち上がってさやかの頭に掌を乗せて優しく続ける。
『心と身体は同じでさ、心だって冷たく重くなれば動かなくなる。
俺はね、さやか、人は心が動くからこそ人だと思うんだ。
…嬉しい事、腹が立つ事、悲しい事…
色んな事にたくさん心が動く方が人間らしいって思う。
そうやって心を動かす為には、心を暖かく、そして軽くしていた方がいい。』
そう言うと、さやかの懐から鉄の手裏剣を抜き取り、代わりに折り紙の手裏剣を数枚入れた。
『これなら冷たくも重くもないだろ?』
さやかは上目遣いにたけるを見た後で微笑んだ。
『だから俺は、本物より折り紙の方が好きなんだ』
と言ってたけるも微笑んだ。
左の中忍はぎりぎりで首をひねってかわした為わずかに体勢を崩した。
右側の中忍はふりかぶっていた刀を引き戻し、柄で手裏剣をはじいた。
たけるほどの忍びが鋭く打ったものならば、紙であろうとも凶器になる事が分かっているのだ。
致命傷にこそならぬが直撃すれば眼球などひとたまりもあるまい。
二人の見せたわずかな隙をたけるは見逃さない。
右に素早く回り込み、手裏剣をはじいた刀の柄を腕ごと絡め取った。
そしてその勢いを殺さぬまま振り回し、まさにかかって来んとしているもう一人に向かって投げ付けた。
二人はぶつかった瞬間にたけるに蹴倒され、手足を絡められた上で押さえつけられた。
仲間に覆い被さるように倒れている中忍の背にたけるが腰をおろす。
絡まった手足をたけるが掴んでいるので中忍達は動けない。
『よし、ここまで』
たけるが軽く言って立ち上がった。
中忍もよろよろと立ち上がる。
『すごーい!お兄ちゃんすごーい!!』
さやかが駆け寄ってくる。
本気で感心したようだ。
『本物の手裏剣に折り紙で勝っちゃった!すごーい!!』
何度もすごいを連発する妹にたけるは言った。
『本物なら相手の命を奪う事は容易い。しかし折り紙の手裏剣でもこのぐらいは出来る。
習練次第ではね』
懐から手裏剣を取り出す。
赤と黄の二色で折られた手裏剣だ。
『俺は…人の命を奪うのは嫌いだ。出来るならば忍びの術で誰かを殺めたくはない』
さやかは驚く。
『えっ?忍びの術は戦いの為に修行するんでしょ?戦いになったら敵の命を奪わなくちゃいけないでしょ?』
たけるは片膝をついてさやかの目線まで降りた。
さやかに自分の心を伝えたい時、たけるは必ずそうした。
『今はそうかもしれない』
表情も声も優しい。
『でも、いつか必ず戦いのない平和な時代が来る。
その時に必要なのは敵を殺める術じゃない。
自分を、大切な人を守る術だ』
『え?え?大切なものを守る為に敵を殺すんじゃないの!?』
『俺はこの折り紙であの2人と戦って勝っただろ?』
『うん』
『あの2人は死んでるか?』
『…ううん』
『殺さずとも勝つ事は出来る。
これから必要になるのはそういう…いや、敵も味方もないか。勝ち負けでもない。
出来るだけ相手を傷つけずに大切なものを守る術なんだ』
そう言ったところで中忍の一人が
『今の攻撃も当たれば失明ものですが、人間、目を狙われると反射的に避けるようになっておりまする。だからたける様はここを狙われたのですな』
と自分の目を指した。
『そうなんだ…』
さやかは、敵を傷つけない事を前提とした攻撃がある事を初めて知り感銘を受けている。
もう一人の中忍がたけるの傍につき数枚の手裏剣を手渡した。
『さやか、これを懐にしまってごらん』
手裏剣はたけるからさやかに渡された。
鉄の、本物の手裏剣だ。
さやかはおずおずとそれを懐に入れると、少し困ったような顔をした。
『どうだ?』
さやかは小さな声で
『…冷たい…』
と答える。それから
『重い…』
とつぶやいた。
普段なら重さなど意識もしないのだが、紙の軽さに慣れた故か初めて手裏剣を重いと感じたのだ。
たけるはゆっくりとうなずく。
『人を殺す武器を懐にしまえば冷たくて重い。
同じように、殺意を抱けば心は冷たく重くなる。
さやか、もしも自分の身体が氷のように冷たくて岩のように重かったらどうなると思う?
おまえは速く走る事が出来るか?
高く跳ぶ事が出来るか?』
さやかは想像してみた。
冬の寒さに凍えきって石像と化した自分の姿を。
走るどころか動く事すらかなわなさそうだ。
そう思い、無言で首を横に振った。
たけるは立ち上がってさやかの頭に掌を乗せて優しく続ける。
『心と身体は同じでさ、心だって冷たく重くなれば動かなくなる。
俺はね、さやか、人は心が動くからこそ人だと思うんだ。
…嬉しい事、腹が立つ事、悲しい事…
色んな事にたくさん心が動く方が人間らしいって思う。
そうやって心を動かす為には、心を暖かく、そして軽くしていた方がいい。』
そう言うと、さやかの懐から鉄の手裏剣を抜き取り、代わりに折り紙の手裏剣を数枚入れた。
『これなら冷たくも重くもないだろ?』
さやかは上目遣いにたけるを見た後で微笑んだ。
『だから俺は、本物より折り紙の方が好きなんだ』
と言ってたけるも微笑んだ。