2014-03-29(Sat)
小説・さやか見参!(221)
『先生、本当にご迷惑をおかけしてしまって…お詫びのしようも弁解の言葉もありません』
音駒は床に額を叩きつけるように土下座した。
『音駒、私は全然迷惑なんかしていないよ。ほら、頭を上げなさい』
先生と呼ばれた白衣の男は片膝をついて音駒の肩に優しく手を置いた。
ここは通称『だつら庵』と呼ばれている庵である。
音駒が修行している場所であり、音駒の医学の師、通称・だつら先生が営む医療所だ。
『だつら』とは異国で用いられている薬草らしく、ここではそうした珍しい薬を扱っている事からその名が定着したと言われている。
そう、今、這いつくばるように詫びる音駒に優しく語り掛けているのがだつら先生だ。
『そのようにされては話も出来ないよ。音駒、とにかく顔を上げておくれ』
そう言われて音駒はおずおずと顔を上げて師の顔を見た。
その途端、
だつらは音駒の両手をしっかりと握って涙を流した。
『良かった!無事で本当に良かった!お前に何かあったら私は悔やんでも悔やみきれなかったよ』
『先生…』
音駒の瞳からも涙がこぼれた。
『お前が大怪我をしたと知らせを受けた時には生きた心地がしなかった。傷は癒えたようだね』
『はい、手厚く看護して下さる親切な方に助けていただいて』
『そう言えば、今日はあの少年は来ていないのかい。お前の怪我を知らせてくれたあの童は。改めて御礼をしなければ』
心太郎の事だ。
音駒は意識を取り戻してすぐに新太郎にここへ向かってもらった。
自分が動けぬでは治療を待っている患者達に迷惑がかかってしまうからだ。
だつらは知らせを受けてすぐに別の弟子を音駒の患者の所に遣わしたらしい。
それを聞いて音駒は安心して治療に専念出来たのだ。
『いえ、今日は私一人で参りました。あまり迷惑をかけるのも忍びなかったものですから』
『そうか、では近い内にそちらへ御礼に参るとしよう』
『あ、いえ、こちらから伺うよりは先方から出向いた方が都合が良いとおっしゃってましたので…こちらへ足をお運び下さるよう伝えておきます』
師といえども忍びの里へ連れて行くわけにはいくまい。
『なるほど、ならば申し訳ないがご足労いただく事にしよう』
そう言ってだつらは愛弟子に熱い茶を淹れてくれた。
これも異国から取り寄せた滋養強壮の効果がある茶だそうである。
音駒はふぅと冷ますと、ひとくち喉に流し込んだ。
身体に染み渡る気がする。
やはりここは落ち着く。
庵から遠く離れた木立で心太郎がその様子を窺っていた。
また一角衆に襲われるやもしれぬからとさやかに頼まれて、こっそりと音駒を警護していたのだ。
とりあえず敵の気配は感じられない。
だが油断は禁物だ。
心太郎はさやかの為にも自分の為にも絶対に音駒を守ると決めていた。
音駒は床に額を叩きつけるように土下座した。
『音駒、私は全然迷惑なんかしていないよ。ほら、頭を上げなさい』
先生と呼ばれた白衣の男は片膝をついて音駒の肩に優しく手を置いた。
ここは通称『だつら庵』と呼ばれている庵である。
音駒が修行している場所であり、音駒の医学の師、通称・だつら先生が営む医療所だ。
『だつら』とは異国で用いられている薬草らしく、ここではそうした珍しい薬を扱っている事からその名が定着したと言われている。
そう、今、這いつくばるように詫びる音駒に優しく語り掛けているのがだつら先生だ。
『そのようにされては話も出来ないよ。音駒、とにかく顔を上げておくれ』
そう言われて音駒はおずおずと顔を上げて師の顔を見た。
その途端、
だつらは音駒の両手をしっかりと握って涙を流した。
『良かった!無事で本当に良かった!お前に何かあったら私は悔やんでも悔やみきれなかったよ』
『先生…』
音駒の瞳からも涙がこぼれた。
『お前が大怪我をしたと知らせを受けた時には生きた心地がしなかった。傷は癒えたようだね』
『はい、手厚く看護して下さる親切な方に助けていただいて』
『そう言えば、今日はあの少年は来ていないのかい。お前の怪我を知らせてくれたあの童は。改めて御礼をしなければ』
心太郎の事だ。
音駒は意識を取り戻してすぐに新太郎にここへ向かってもらった。
自分が動けぬでは治療を待っている患者達に迷惑がかかってしまうからだ。
だつらは知らせを受けてすぐに別の弟子を音駒の患者の所に遣わしたらしい。
それを聞いて音駒は安心して治療に専念出来たのだ。
『いえ、今日は私一人で参りました。あまり迷惑をかけるのも忍びなかったものですから』
『そうか、では近い内にそちらへ御礼に参るとしよう』
『あ、いえ、こちらから伺うよりは先方から出向いた方が都合が良いとおっしゃってましたので…こちらへ足をお運び下さるよう伝えておきます』
師といえども忍びの里へ連れて行くわけにはいくまい。
『なるほど、ならば申し訳ないがご足労いただく事にしよう』
そう言ってだつらは愛弟子に熱い茶を淹れてくれた。
これも異国から取り寄せた滋養強壮の効果がある茶だそうである。
音駒はふぅと冷ますと、ひとくち喉に流し込んだ。
身体に染み渡る気がする。
やはりここは落ち着く。
庵から遠く離れた木立で心太郎がその様子を窺っていた。
また一角衆に襲われるやもしれぬからとさやかに頼まれて、こっそりと音駒を警護していたのだ。
とりあえず敵の気配は感じられない。
だが油断は禁物だ。
心太郎はさやかの為にも自分の為にも絶対に音駒を守ると決めていた。
スポンサーサイト